クリスに泣きつくノルディン帝国王子
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今日から第二部開始です。
クリスがオーウェンの故郷ドラフォードの王宮に招待されます。しかし、そこにはクリスを皇太子妃にするのに反対勢力がいて、シャラザールを恐れる赤い死神もドラフォードが強くなるのを阻止するために反対工作を必死に行います。クリスとオウは果たして結ばれるのか?ドラフォード王宮恋愛編です。
出来る限り1日2話更新頑張って行こうと思いますのでよろしくお願いします。
「おのれ、ジョージめ。王位継承権剥奪だと!」
ヘンリーは怒りのあまり傍にあった灰皿を地面に叩き割った。
ガラスの破片が周りに飛び散る。
「それも昔母上を貶めたミハイル家出身の娘ごときのために」
王弟ヘンリーの母は平民出身の侍女で、妾の子供と言って、昔は散々いじれめられた。
その時の王妃はミハイル家から出ていた。
クリスの曽祖父の妹、曽祖叔母というはるかに遠い親戚だった。
もっとも曽祖叔父、おじいさんの父の弟は、クリスが15の時ノルディン帝国の侵攻の時に戦死したから、その上の姉だったので、クリスは名前だけは知ってはいたが。
まあ、国王ジョージの実の母でエドやジャンヌにとっては祖母だったが。
クリスの生まれる前に亡くなっていた。
ちなみに今の王妃はこの王妃に王妃教育で徹底的にしごかれたので、それをクリスにしていたにすぎないのだが。
「せっかく昔、母上を追い出したミハイル家に恥をかかせてやろうと思ったのに。
忌々しい」
「殿下。このまま従っていて宜しいのですか?」
候爵に格下げされたアーカンソーも濁った眼でヘンリーを見る。
「我が娘は修道院送りになったにもかかわらず、あのミハイルの小娘はのほほんとしておるのですぞ!」
「今回はうまくやられましたな。小娘と侮っておりましたが、ミハイルの出身なだけあって、平民の人気取りもうまいようです」
北方師団へ転属命令の出たギルティも忌々しそうに唇をかむ。
「殿下、このままでは娘も報われません。」
アーカンソーが泣きつく。
「そうじゃな。わしももう十二分に我慢した。
あと少し待て。
何としても目にもの見せてやるわ」
王弟ヘンリーの目は怒りに燃えていた。
「お母様。取り急ぎ3通書きました」
クリスが居間に降りてきた。
「オーウェン様と
スティーブン・スミス様ってどなた?」
シャーロットが封筒の宛名を見る。
「同級生です。
他の子達にいじめられていた時に助けて頂いたんです。」
「でも、男の子でしょ。とりあえずは私が礼状書いておくわ」
不審がるクリスにシャーロットは説明する。
「ごめんなさいね。礼状書くのは当然だけど男の子に礼状送って勘違いされると困るでしょ」
「どう勘違いされるのですか?お礼状に勘違いしようがないと思うのですが」
クリスは純粋培養。
恋愛感情には疎い。
今までは皇太子の婚約者として、他のものはほとんど手を出してこようとしなかった。
でも、今は婚約破棄されて言ってみれば誰に好意を寄せられても問題はない。
既に王都の公爵邸には何十通という釣書が来ているという。
皇太子に婚約破棄されたところにもかかわらずだ。
皇太子から婚約破棄されるという侯爵令嬢的には本来致命的な状態なのはずなのだが。
普通なら18で婚約破棄されたら、次に相手を探すのは大変なはずなのだが、クリスは姑の王妃にいじめられた挙句に、息子の皇太子に婚約破棄されたかわいそうな令嬢として同情票が集まったらしい。
振った皇太子の人気が最悪だったこともあるが。
後妻狙いの、侯爵的には怒りのあまり地面にそのまま叩きつけた切れた釣書もあるが、
侯爵は王弟は殺すと言っていたが、
大半は伯爵クラスの後継ぎとか2男3男の若い独身が多いと聞く。
王立学園の同級生、先輩、後輩、士官学校の貴族の子弟が大半だった。
そういう状態のところに本人から手紙を出すのはまずいとシャーロットは思った。
「うーん、まあ、相手がこちらが好意があると勘違いされるかもしれないでしょ」
「でも、お母様。助けてもらったときはきちんとお礼しなければいけないと平素おっしゃっていらっしゃいますよね」
クリスは納得しない。
「そうは言ってもね。今は微妙な時なのよ。」
「微妙ですか?皇太子殿下に婚約破棄されたところですし、謹慎という意味でいけないのでしょうか?
それなら1通も出してはいけないような気がするのですが。」
「そういうわけはないけれど、母が出す方が正式な礼状になるし、良いと思うわ」
「じゃあオーウェン様は」
「うーん、そこもどうかなとは思うけど、向こうのお母様からもお電話いただいたし、私からも礼状はドラフォードの国王陛下に出しておきます。」
「姉上。なんで赤い死神に出すんですか?」
ウィルがその下の封筒を見て聞く。
「ウィル。今は戦時中では無いのよ。停戦しているの。隣国の皇太子殿下に赤い死神は無いでしょ。」
シャーロットが注意する。
「まあ、未来の王女殿下の夫になるかもしれませんし。」
「そんなに仲が良いの?」
「仲が良いのなんのって。毎日のように駐屯地に来て、僕らの訓練の邪魔していますよ。」
「そうなんだ。」
北方の脅威は去ったのかとシャーロットは安心した。
もっともその赤い死神が一番恐れているのは自分の愛娘だとは夢にも思っていなかったが。
「その王女の想い人にお手紙なんて出して良いの?」
クリスを見てシャーロットが聞く。
「だって、アレクサンドル皇太子殿下は私に向かってかけられたワインを私をかばってかかって頂いたんですもの」
ウィルは疑問に感じた。
「いや、姉上あれは違いますよ。
あの時跪いたオーウェン皇太子殿下の前にはノルディンの戦いの時に僕らを逃がしてくれたボリスがいたんです」
「えっそうなの。あの時のお礼もまともに出来ていないのに。」
クリスは驚いて言った。
「うーん、私も彼がいる事は、あのときはじめて知ったんですけど。」
ウィルが言う。
「ボリス様にもお礼を言わないといけないわね。」
「うーん、その彼がアレクサンドル皇太子にワインをぶっかけていましたけど。」
「えっなんで自国の皇太子にかける必要あるの?
皇太子殿下は兄弟にも恐れられているんでしょ?」
シャーロットが聞く。
「おそらく、ボリスはオーウェン皇太子殿下がお姉さまに申し込むのを止めようとしたのではないかなと思いますが。」
言いづらそうにウィルは言う。
「えっ何を止めようとしたの?」
クリスが疑問に思ったとき、
外で何か叫び声がした。
「外がうるさいみたいですよ」
ウィルが慌てて剣を取ると窓から外を見る。
外では小柄な男が侯爵家の騎士に抑え込まれようとしていた。
「あれ? あれ噂をしていたボリスですよ」
「えっ」
慌ててクリスは外へ駆け出す。
「待ってください。姉様」
慌ててウィルもクリスを追いかける。
騎士たちはクリスらが駆けてきたので慌てた。
「ちょっと待って。そちらの方は私たちの命の恩人なの」
「ミハイル嬢」
ホッとしたのかそのままボリスは気を失った。
衣服はボロボロだった。
「クリス様。門を強行突破されようとしたので、慌てて抑え込もうと…」
メイが言う。
「でもこの格好は。」
「クリス様。まだ何もしていないですよ。
拘束の魔法をかけただけで。この格好は他所で被られたのかと。」
「取り急ぎ、客室にご案内して。
3年前のノルディンとの戦いの時に、私とウィルを逃してくれたの。」
「という事はノルディンの方?」
「今は王立高等学園に留学していらっしゃるはずよ。」
どこでどうしたらこんな格好になるのだろう。
あたかも襲撃にあったような格好だった。








