魔王はクロチアに進出しようと準備します
草原は風が吹いていた。
その中に聳え建っていた城は今は無い。
城の建っていた跡には黒焦げの地面と建物の跡が残っているだけだった。
クリスの雷撃で全焼したのだ。
死者は千名を超えた。
魔王カーンの参謀格のアクラシは何とか生き残った。
カーンが魔術か何かで守ってくれたのかもしれない。
全身焼けただれたが、何とか命は助かった。
あの魔王カーンを雷撃で攻撃する者がいるなどアクラシには想像もつかなかった。
カーンは昔は大人しそうな男だったが、反逆してからは性格が変わっていた。
それらの事からアクラシはカーンは絶対に魔王に憑依されたのだと思っていた。
しかし、その魔王が攻撃を受けて負傷するなんてあり得るのだろうか。
魔王は史上最強で最悪のはずだった。
そんな魔王に勝てる人間がいるなんて、どう考えてもいるはずはなすかった。
しかし、その魔王が雷撃の直撃を受けたのだ。
その瞬間にクリスの怒りの感情がアクラシの中にも流れ込んでアクラシは恐怖した。
直撃を喰らったカーンは本来は命も無いはずだったが、5分もせずに起き出して自らを治療したのは驚いたが、魔王を攻撃した筆頭魔導師の魔力量の多さは驚き以外の何物でもなかった。
筆頭魔導師がGAFAを雷撃で攻撃したとは聞いていたが、アクラシはたまたま雷が落雷しただけだと考えていたのだ。魔導師が遠くの雷雲を操作するなど常識では不可能だった。
しかし、筆頭魔導師は雷撃を何百キロも離れたところから直撃させたのだ。
自らが攻撃されてそれが事実だと初めて判った。
何百キロも離れたところから雷撃する力を筆頭魔導師が持っている事は驚き以外の何物でもなかった。何しろ魔王はそこまで離れた遠距離攻撃できないのだ。
人を介した攻撃は出来るようだが、その威力は高々限られている。
城一つ吹き飛ばせるほどの力を遠距離から出来るなど、規格外だった。
そんな奴と戦えるとはアクラシは思えなかった。
カーンもボフミエに攻撃するのはやめたみたいで、周辺国の情報を集め出した。
しかし、しつこい魔王が諦めたかと言うと絶対に違うとアクラシは確信してはいたが。
「アクラシ、取り敢えず、クロチアを攻撃するぞ」
「クロチアでございますか」
「そうだ。全軍に出撃用意を」
「先日のボフミエからの攻撃からまだ、2週間もたっておりませんが」
躊躇いがちにアクラシは言う。
「それがどうした」
不機嫌そうにカーンは言う。
「ヒィィィぃ」
思わずアクラシが声をあげた。魔王を怒らせると命は無い。
「軍事的な損傷はほとんどあるまい」
「それはそうですが、本拠地である王宮自体が、消滅しておりますが」
クリスの攻撃で文官達のいた王宮が破壊され多くの文官が亡くなったのだ。
統治能力はほとんど失われていた。
このままでは税の取り立て等もうまくいくかどうか。
早急に統治機能を取り戻さない事には国として成り立ちようもなかった。
「そうだ。ここには王宮さえも無い。しかし、クロチアにはあるのだよ。立派な城がな」
カーンは確認するように言った。
「確かに城はございますが…」
「そして、優秀な多くの文官もいる」
にやりとカーンは笑った。
「陛下。文官ごと乗っ取られるおつもりですか」
驚いてアクラシが言った。
確かにクロチアの文官は優秀なはずだ。
野蛮な騎馬国家のモルロイと比べるとクロチアは文官も優秀なはずだった。
しかし、取って変われるものだろうか。
プライドの高いクロチアの文官達がちゃんとカーンの要請通りに働いてくれるものだろうか。
「ふんっ。この国でもうまく行ったではないか。
隣のクロチアでもうまく行かないという保証はあるまい」
自信満々でカーンは言った。
「何、クロチアの騎士団を壊滅させればいやでも言う事を聞くだろう」
カーンはそう言うと高々と笑った。
「さようですな」
そんなにうまく行くのかと不審に思いながらも仕方なしにアクラシも笑っていた。








