正月特別企画 バレンタインデーに一番お菓子をもらった人は…
お正月にバレンタインとはと思われるかもしれませんが
一番たくさんもらったのは顔のいい大国皇太子のオーウェンかアレクか
はたまた、今相手のいないボフミエ最強騎士のジャスティンか?
ボフミエは2月とはいえ暖かかった。
テレーゼは海に面した温暖な気候だったが、ボフミエの国都ナッツァは更に南部にあり、温暖だった。
夏は暑いとは思われたが、小春日和の今は外で日向ぼっこするのが気持ちよかった。
テラスの椅子に座っているとそのまま昼寝しそうだ。
本日は休養日、新学期の始まりとかモルロイの侵攻とかいろいろあったが、久々の休みだった。
アメリアは久々にのんびりしていた。
「アメリア様。宜しかったのですが、のんびりされて」
護衛騎士のレオが気遣って聞いてきた。
「えっ何の話?久しぶりの休みだからのんびりしても良いのではなくて」
アメリアが聞く。
「明日は聖バレンタインの日だとか」
「聖バレンタインの日って、戦神シャラザールがバレンタインを火炙りにした日では無いの?」
不思議そうにアメリアが聞く。
「バレンタインが進言した内容が気に入らないと火刑にされたんじゃなかったっけ。それが何なの?
」
「さあよく判らないですけど、この地では女性が男性にチョコレートをプレゼントする日みたいですよ」
「えっそんなの初めて聞いたんだけど」
レオの説明にアメリアは驚いた。
そこへ大量の荷物を抱えたアデリナとミアが通りかかった。
「その大量の荷物はどうしたの」
アメリアが聞く。
「これはアメリア様」
二人は礼をする。
「明日はバレンタインの日なので今からクリス様がクッキーを焼かれるんで私たちもそれにまぜてもらおうと思いまして」
アデリナが言う。
「バレンタインの日って」
「えっアメリア様はご存じないんですか」
驚いてミアが言った。
「女の子から好きな男の子にお菓子をプレゼントして告白する日なんです」
アメリアが答える。
「えっそうなの」
アメリアは初耳だった。
ボフミエの風習なんだろうか。
アメリアは聞いたことが無かった。
そもそも女から告白するってどれだけはしたないんだ。
アメリアには信じられなかった。
「アメリア様も一緒にされますか」
「いや、好きな者などいないし」
ミアの言葉にアメリアが断る。
「あら、好きな人にあげるだけでなくていつもお世話になっている男の人にもお渡しするんです」
「えっそうなの?」
「クリス様は自分の護衛の方とか、閣僚の方々の為に、お作りになられるみたいです」
「そうなんだ」
アメリアにはこの大量の食材の量も納得できたが、これだけ作るのは大変そうだ。
「じゃ、すいません。急いでいるので」
二人が礼をして去っていった。
「アメリア様は宜しいのですか」
「面倒じゃない。どのみち作るのはクリスくらいだろうし。ジャンヌらが作るとは思えないし」
アメリアは目を閉じて応えた。
「私がなんだって」
アメリアの前に荷物を持ったジャンヌとライラがいた。
「いや、その荷物は何なの?」
アメリアは聞いた。
「何って明日の材料に決まっているだろ」
「えっジャンヌも作るのか」
アメリアは驚いて言った。
料理からは一番遠い位置にいるジャンヌが作るわけないと思っていたのだ。
「作るって言ってもチョコレートを溶かして流し込むだけだぞ。クリスが作るからな。魔導師団長としてもたまには部下に配らないといけないと思ったんだ」
がさつ、料理なんてやる訳は無いと思われているジャンヌまで作るなんて、どういう事だ。
ここで作らなかったらジャンヌ以下だと噂が立つかもしれない。
それだけはアメリアは防ぎたかった。
「レオ、直ちに侍女たちを呼んできて。すぐに何作るか考えないと」
慌ててアメリアは行動を開始した。
一方食堂ではアレクとオーウェンらがお茶していた。
「今日は女性陣はいないけど、どうしたんだ」
オーウェンが聞く。
「明日のお菓子作りじゃないか」
アレクが言う。
「ああ、明日はバレンタインデーか」
オーウェンは本国でいつも大量のチョコレートをもらっていた日の事を思い出していた。
「また一杯もらうのかな」
もらえない男が聞いたら切れる言葉をさらりとオーウェンが言う。
「まあ、本国にいる時は篭一杯もらっていたからな」
アレクもさらりと言う。
あまりもらった事のないヘルマンはその二人を白い目で見ていた。
「何だアレクはたった籠1つか」
「篭と言っても特大の籠だがな」
「俺なんか馬車一杯だったがな」
「何だとまた嘘ばっかり」
「貴様こそ」
「ようし、どちらがたくさんもらうか競争しようじゃないか」
「何かける」
「少なかった方が一番たくさんもらった奴の言う事を1つ聞くというのはどうだ」
「どのみち一番多いのは俺だと思うが」
オーウェンが言う。
「甘いな。俺に勝てるわけないだろう。」
二人は視線を交した。
「よし、勝負だ」
二人は不吉な笑いをし合った。
翌日二人は朝早くから執務室に入った。
扉を全開にして訪問者を待つ。
「おはようございます」
そこにアデリナが入ってくる。
「内務卿。侍女一同からです」
「ありがとう」
オーウェンに小さい包を渡すとアデリナは出て言った。
幸先の良い事にオーウェンは喜んだが、その後の出足が悪い。
思わず、内務省の中も歩くが、みんな仕事に懸命でオーウェンの方など見もしない。
午前中の閣議の前に、オーウェンにクリスが包みを渡してくれた。
「オーウェン様。いつもありがとうございます」
「ありがとう。クリス」
オーウェンはクリスからもらって喜んだが、その包みもそんなに大きくなかった。
そして、クリスは横のアレクにも同じ大きさの包みを置いて行く。
「アレク様。いつもありがとうございます」
「ありがとう」
アレクは喜んでオーウェンを見た。
その後もクリスは男性陣全員に同じ大きさの包みを渡して行った。
オーウェンはクリスからの扱いがみんなと同じことにショックを受けていた。
アレクはそれを見て笑っていたが、
「はい、アレク」
ジャンヌがそのアレクの上にクリスよりも小さい包みを渡す。
「えっこれだけ」
思わず、アレクが口走ってしまった。
「何だ。もらって文句を言うなら返してくれ」
「あっいや、すまん。今のは無視して」
アレクが慌てる。
「なんだかなあ」
言いながらジャンヌも全員に同じ物を配りだした。
それを見てアレクはショックを受けているが、オーウェンはざまあ見ろと笑い返していた。
「遅れてすいません」
そこへ大きな袋を抱えたジャスティンが入って来た。
「ジャスティン、何だその袋は」
「歩いていたらいろんな子から何故か大量にお菓子をもらってしまって」
ジャスティンが首を振って言った。
「ごめんなさい。ジャスティン様。私のも受け取ってください」
そこへアメリアがきれいにラッピングされた包みをさらに1つ渡す。
「えっありがとうございます」
困惑気味にジャスティンが受け取る。
アメリアはアレクとオーウェンを無視して他の者に包みを渡して行った。
「アメリア、俺らのは?」
オーウェンが聞く。
「なんであんたたちに上げないといけないのよ。相手のいる人には誤解を招いてはいけないから作っていないわよ」
昨日半徹夜で侍女らを動員して何とか間に合わせたのだ。
「えっ」
二人は絶句した。
「だってオーウェンはクリスとアレクはジャンヌと付き合っているんじゃないの」
アメリアが言う。
「そらあそうだけど」
オーウェンとアレクがはもっていうが、
「そんな事無いぞ」
「そんなことありません」
ジャンヌとクリスが即座に否定した。
「えっ付き合っていないの?」
「付き合っているぞ」
「付き合ってない」
喜んで肯定する二人と否定している二人の声が響いた。
「そうか、みんな俺とクリスが付き合っていると思っているから少なかったのか」
「そうだよな。俺とジャンヌが付き合っているからみんな遠慮して持って来なかったんだ」
上機嫌のオーウェンとアレクは笑って言った。
「仕方が無いな。一番もらったのはジャスティンだな」
「ジャスティン。何か一つ言う事を聞くよ」
喜んで二人は言った。
「一番もらったのは私じゃないぞ。クリス様だ」
ジャスティンが否定した。
「クリスが」
二人は驚いてクリスを見た。
「ボフミエ各地から大量の包みが続々と届いているんだ」
「何故か各国の王族からもいろんなものが届いているんです」
「マーマレードからもスカイバードの1便が全てクリス様へのプレゼントでした」
皆が次々報告する。
女性に完全に負けるってどういう事なんだとオーウェンたちは思わずショックを受けていた。
「クリス、アレクとオーウェンが言う事を聞いてくれるって言っているからあのこと手伝ってもらえばいいんじゃないか」
「じゃあお願いします」
クリスは微笑んで言った。
閣議の終わった後に二人は巨大な倉庫に案内された。
そこでは多くの人が包装を開けてメッセージカード等を取り外してまた包装しなおしていた。
「すみません。こんなにたくさんは食べられないので、孤児院に送ろうと思うんです。
でも、せっかく頂いたので、メッセージだけは目を通そうと思って」
「えっこの量を?」
二人は目が点になった。
こんな大量のお菓子が一人の女性に届けられた事に二人は打ちひしがれた。
完敗だった。
その日、二人はクリスに付き合って徹夜で仕分け作業をし続ける羽目になったのだった。








