クリスは敵国宮殿を雷撃攻撃した事を大国皇太子に慰められました
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雷撃の衝撃が消えた時、仮王宮の天井には大きな穴が開いていた。
クリスはまた怒りに任せてやってしまった事に気付いた。
クリスを見ていた子爵たちは唖然としていた。
雷撃の衝撃のすさまじさに腰を抜かしてこけているものもいた。
そして、次の瞬間には這いつくばって平伏してきた。
「は、はあああ―」
「ひっひっ筆頭魔導師様のお力、しかと、お見せいただきました。」
「何卒寛大なご処置を」
「決して我らは反抗しようとしたのではございません」
もう平身低頭だった。アレクに脅された時も怯え切っていたが、目の前でまざまざとクリスの力を見せつけられて、もう立ってもいられなかった。
あの力が自分らに向かえば、離れていても一瞬で消滅させられるだろう。
「衛兵、別室にて取り調べを」
クリスが何も言葉を発しないのでオーウェンは衛兵に指示をした。
直ちに兵士が6人を連れ出す。
「しかし、クリス、本当にすごいな。ここから何百キロも離れたカーンを雷撃で攻撃するなんて」
ジャンヌが呆れて言った。
「まあ、これでしばらくはモルロイも静かにするだろう」
アレクも頷く。
「では、閣議室に移動して20分後に閣議の続きを行います」
オーウェンが言って皆、動き出した。
オーウェンも動こうとしたが、上着の裾をクリスに捕まれているのに、気付いた。
「どうしたの?」
「少しだけこのままでいて、震えが止まらないの」
クリスの言葉にオーウェンは驚いた。
よく見るとクリスの膝が震えていた。
クリスにとってその日の閣議は最悪だった。
皆、クリスによくやってくれたと言ってくれた。
ジャスティンなんて
「カロエで死んでいった者もクリス様の反撃に喜んでおりましょう」
と感謝の言葉を述べていいたが、それによって新たに同じくらいの人が死んだのは事実だった。
また多くの人を殺してしまった事に、クリス自身は良心の呵責に耐えかねた。
クリスはその日の閣議が終わって自分の部屋に帰れてほっとした。
ベッドに腰掛けて早めに寝ようとした時、扉がノックされた。
アデリナが入って来たのだろうと返事をすると、トレイにお菓子を載せたオーウェンが入って来た。
「オウ?」
クリスは驚いた。
「ごめんね。夜遅くに。でも、昼間の件でショック受けてたみたいだから」
クリスはオーウェンの上着の裾を掴んで震えていたことを思い出した。
オーウェンはそう言うとお菓子を差し出した。
「今は食欲は無いわ」
「夕食もそんなに食べてなかっただろう」
「そんな…ん」
オーウェンはそう言うと反論しようと口を開けたクリスの口の中に小さいクッキーをほうり込んだ。
思わずクリスの言葉が止まる。
驚いて目が点になるが、仕方なしに食べる。
「オウ…」
文句を言おうとしたクリスの口の中にまた、オーウェンはクッキーを投げ込む。
クリスは止む終えず、それもかみ砕いて食べる。
それを飲み込んだ後
「はいっアーんして」
オーウェンは今度はショートケーキを切ってクリスの口に入れた。
「もうオウ、自分で食べられるから」
クリスは抗議するが、オーウェンはそれを聞かない。
「遠慮しなくていいから、さあ」
オーウェンは次々とクリスの口に放り込んでいく。
全て食べ終わるとオーウェンは飲み物まで口に持って行った。
「もう、本当に自分で飲めるから」
ぷりぷり怒ってクリスが言った。
「少しは落ち着いた?」
「落ち着く訳無いでしょ」
オーウェンの言葉に怒ってクリスは言う。
「全部一人で考えて悩む必要は無いから」
オーウェンが言う。
「また人を殺してしまったとか悩んでいたんだろう」
オーウェンの言葉にクリスは黙る。
「クリス、俺たち王族は何人も人を殺していくんだよ。
戦争にしてもしかり、戦争に行った兵士が敵を殺すにしても命令したのは俺たちだ」
クリスを諭すようにオーウェンが言う。
「それは判っているわ。だから戦争はやりたくなかった」
クリスが言う。
「でも、代わりに攻撃してしまって人を殺してしまったって」
オーウェンの言葉にクリスが頷く。
「でも、戦争するよりも死者数は少なかったのでは。少なくても今回の事に関してはボフミエ側の死者は伯爵だけだ。それも裏切り者の」
「それも判っているの。エゴだって事も。本来ならば自国の兵士の死者が少なかったから良しとしなければいけないことも」
クリスは頭を抱えた。
「理性ではわかっていても感情ではわからないのよ」
クリスは言い切った。
オーウェンは悩んでいるクリスの横に座る。
「それが普通じゃないかな」
オーウェンが言う。
「軽蔑はしないの?施政者にとって人を切り捨てられないのは失格じゃない?」
クリスがオーウェンを見て言う。
「なんで軽蔑するの。俺とかジャンヌとかアレクはその感情を置き忘れたように見えるけど、クリスに捨てよなんて言えないよ。クリスは聖女クリス様なんだから」
「それ嫌味?」
クリスが聞く。
「嫌味な訳無いだろう。やっかみかもしれないけど」
「偉大なドラフォードの優秀な皇太子殿下がひよっこの施政者にやっかみなんてありえないじゃない」
「何言ってんだよ。マーマレードの王弟叛逆の時も俺なら反乱した兵士たち千人くらいは処刑しているよ。
命を狙われた王弟なんて絶対に許さない。でもクリスはほとんど死者を出さずに解決したじゃないか。
俺は今まで何してきたんだろうって本当に嫌になったよ。年下の女の子に負けてしまったって感じだよ」
「えっあれは必死にやっただけで、ジャンヌお姉さまとか国王陛下が私のわがままを聞いていただけただけだから」
「でも、そのために自ら前線に出たじゃない。それで兵士たちの心を掴んでるし。
マーマレードでは聖女クリス様だよ。国王陛下もクリスに逆らえないって感じ」
「そんな事はあり得ないわ」
クリスは驚いて否定した。
「でも、クリスにひどいことをしたってGAFAの支店が怒った民衆に取り壊されたよね。ドラフォードの王族にひどい事をしても民衆はそこまで怒らないよ。
それにあっという間にドラフォードの軍を掌握するし。
この前の帝国の皇帝に攫われた時はミューラーの命令を無視して、兵士たちがクリスを救えって暴走したんだよ。普通他国の令嬢にそこまでやると思う?」
「それ本当?」
クリスが初めて聞く話だった。
「その件に関して国王が切れていたけど」
そんな事があったんだ。クリスは複雑な気分だった。
前回王宮に言った時には謝らなければいけなかったんだろうか。
「まあ、それだけ人気があるからクリスが私と結婚しても文句は絶対に出て来ないよ」
「その件はまだ認めていません」
クリスが連れなく断った。それにどんなに賛成派が多くとも文句が出ないことは無いと思ってはいた。
「そんな。ひどい。クリスを連れて帰らないとおばあ様も許してくれないんだけど……」
「だって私は今この国の筆頭魔導師なのよ。それをいつまでやらないといけないか判らないし」
「えっ別にいいよ。今のままでも。俺と結婚してくれれば」
「えっでも、オウはドラフォードの皇太子殿下じゃない」
「そんなのクリスと結婚できるなら辞めても良いし」
オーウェンは本気ともとれる発言をする。
「はああ?そんなの許される訳ないでしょ」
クリスは慌てて否定した。
「そんな事無いよ。ドラフォードには妹のガーネットはいるし、他の王族もいるけどクリスは一人だから」
「そんなの許される訳ないでしょ」
「別にいいとは思うけど」
オーウェンは真顔で言った。
そして話題を元に戻す。
「まあ、クリスはクリスの考えでみんなを引っ張っていっていいよ。
わがままな皇太子が何人もその下にいるから、適当にフォローと言うか邪魔はしていくし」
「うーん、本当に良いのかな」
クリスが首をかしげる。
「まあクリス、好きにやって行って。責任は俺たちも取るから。
はっきり言ってノルディンとドラフォードやテレーゼっていう良くいろんな事に口出しする国は皇太子が君の下にいるからあまり何も言えないし。何か言って来たら俺たちがおのおの対応するし、君は君の方針でやって行けばそれで良いから、心配しないで」
オーウェンが言う。
「ありがとう。オウ。とりあえず頑張ってみる」
「まあ適当にやってよ。あんまり長いこといるとウィルに殺されかねないからこれで帰るね」
この前、朝までクリスの部屋にいてウィルに殺されそうになったことをオーウェンは覚えていた。
「オウ」
出て行こうとしたオーウェンの服の裾をクリスは握っていた。
「えっ」
オーウェンの目が見開かれる。
「ごめん。この前みたいに、寝付くまで傍にいてくれないかな」
真っ赤になってクリスが言った。
「いいよ。ウィルの気持ちより君の方が大切だから」
クリスはベッドに横になるとオーウェンがその手を握ってくれる。
「ありがとう。オウ」
「お休み」
オーウェンはクリスが寝付くまで枕元に座っていた。
理性を総動員してそのかわいい唇に不埒な事をしないように我慢していた。








