クリスは心配した大国皇太子に抱きしめられました
ここまでお付き合い頂き本当にありがとうございます。
誤字脱字報告も本当にありがとうございます。
出来るだけなくさねばと思いつつお恥ずかしい限りです。
今回はクリスとオウの温かい話になる予定です。
黒死病菌を浄化したクリスらは、アレク、ジャンヌら半数の兵士達を現地に残して、王城に帰還した。
クリスはウィルに連れられ転移で一足先に帰還する。
「クリス!」
オーウェンは仮宮殿の入り口でクリスを迎えた。
クリスにそのまま抱きつこうとしたが、心配して出てきた、ジャスティンらに弾き飛ばされる。
「クリス様。よくご無事で」
怪我が癒えたジャスティンが駆け寄る。
「ジャスティン。元気になったの」
「はい。もう1週間もたてば戦場にも戻れるかと」
「まあ、本当に?」
喜んでクリスは言った。
「でも無理してはダメよ」
「しかし、いつまでも休んでいるわけにも参りません」
そのジャスティンの後ろから次々に人が出てくる。
「クリス様。今回はまた、浄化なんてすごい事をされましたな」
後から来たジャルカが言う。
「浄化をしたつもりは無いのですけれど…」
「本当に無茶ばかりされて。黒死病になられたと聞いたときは命が縮まりました」
留守番だったミアが言う。
「本当ですよ。クリス様」
イザベラもクリスを取り囲む。
クリスは皆に囲まれながらそのまま宮殿の中に入っていった。
それを弾き飛ばされたオーウェンは憮然としてみていた。
ブスっとして。
オーウェンはそのまま執務室に戻る。
執務室ではヘルマンとシュテファンがだらけていた。
「オーウェン様いつ頃帰って来られますかね」
「クリス様見てにやけているんだろう。今日はもう帰って来ないと思うぞ」
シュテファンの言葉にヘルマンが応える。
「誰がクリス嬢を見てにやけているって」
二人の後ろからぬうーッと不機嫌なオーウェンが顔を出す。
「ヒィィィィ」
思わず驚いたシュテファンが椅子ごと転がる。
「あれ、内務卿、えらく早いですね。もう今日は帰って来られないかと思っていたんですけど」
ヘルマンが言う。
「仕事が山積みになっているんだ。休んでいる暇は無いぞ」
「えっ、クリス様が帰って来られたんだから、少しは休みましょうよ」
シュテファンの言葉にオーウェンはぎろりと睨みつけた。
その鋭い目に思わず、シュテファンは再度椅子から転がり落ちそうになる。
「だらだらしてないでさっさと仕事を始めろ」
二人は隠れて目を合わす。
「これはまた、クリス様に振られたんですかね」
「本当に自分のことばっかりで、たまには僕らの事も考えてほしいですよな」
二人はぶつぶつ言うが、
「誰が自分勝手だって」
オーウェンに突っ込まれて慌てて仕事に戻った。
そこからのオーウェンは鬼のように次々と二人に仕事を振ってくる。
二人はオーウェンの無茶ぶりにへとへとになった。
もう一人いる相棒のスミスは食糧援助の打ち合わせで出張中だったので、不機嫌なオーウェンの相手は二人でするしかなく、二人は早い事スミスが帰って来てくれることを期待した。
そこへノックの音が響いた。
「扉は空いているぞ」
シュテファンは早めにスミスが帰って来てくれたと喜んで言った。
しかし、そこから顔を覗かせたのはクリスだった。
「クリス様!」
慌ててシュテファン等は立ち上がる。
女神が現れた。これでオーウェンの八つ当たりも終わるはずだった。
シュテファンの声に驚いてオーウェンは顔を上げてその人物を見た。
「クリス!」
思わずオーウェンは立ち上がった。
クリスは先ほどは気付かなかったが、よく見ると少しやつれたようだった。
黒死病で生死を彷徨ったのだ。
痩せないわけは無いだろう。
「少しやつれた?」
無事に帰って来て良かったとか、何故あんな無茶したんだとか言いたいことはいろいろあったが、オーウェンの口から出た言葉は、久々に会う想い人に向けた言葉としては微妙なものだった。
口にした途端に何言っているんだと後悔しながらクリスを見る。
「オウも目に隈が出来てる」
クリスもボソリとつぶやいた。
その二人をシュテファンとヘルマンは呆然として見ていたが、ヘルマンが気付く。
「あっちょっと出てきます」
「ごゆっくり」
二人は慌てて部屋を飛び出した。
「いや出る必要は」
「少し様子を見に来ただけだから」
二人は慌てたが、二人は大きな音をたてて扉を閉めて出て言った。
「気を使われたね」
クリスが肩をすくめていう。
「クリス」
オーウェンがクリスに飛びついてきた。
「えっ?ちょっとオウ!」
クリスは驚いたが、お構いなしにオーウェンは思いっきりクリスを抱きしめる。
「良かった。無事で本当に良かった」
オーウェンはクリスの存在を確かめるようにクリスを思いっきり抱きしめていた。
クリスは驚いてオーウェンの抱擁から逃れようとするが、オーウェンは逃さなかった。
「痛いっ」
思わず、クリスが声を挙げる。
「あっごめん。抱きついたりして」
我に返ったオーウェンが真っ赤になって謝る。
「ううん、いきなりだったから驚いただけ」
こちらも赤くなってクリスが答えた。
「でも本当に無事でよかった」
目頭を押さえてオーウェンが言った。
「ごめんなさい。心配かけて」
「本当だよ。クリスはいつも無茶しすぎ。いつも俺を置いて無茶をするんだから」
クリスの青い瞳を見つめてオーウェンが言う。
「ごめんなさい」
クリスが謝る。
「心配で死にそうだった」
「ごめんなさい」
オーウェンの言葉にクリスは謝る。
「本当にいつも無茶するんだから」
「それもごめん」
「普通は男の方が心配させる方なのにな」
「お転婆でごめん」
「お転婆なのは小さい時からだよな」
「そうかな。ジャンヌお姉さまよりもましだと思うけど」
「でもジャンヌは今回は黒死病にはかかっていないよ。最近はクリスの方がひどい事をしているように思う」
「そうかな」
少し不満そうにクリスが言う。
「本当に心配で心配でどうしようもなかった」
オーウェンはクリスの肩に手を置いた。
そのオーウェンの目をクリスが見つめ返す。
そんな二人を扉の外からイザベラとミアが覗いていた。
「あっオーウェン様がクリス様の肩に手を置いた」
「本当か」
後ろにいたヘルマンとシュテファンも扉に張り付く。
「おのれ、オーウェンめ」
中に入ろうとするウィルをジャスティンらが止めている。
「うそっ。クリス様が目を瞑った」
シュテファンがつぶやく。
ドン!
二人が抱き合おうとしたその瞬間二人の間にウィルが転移してきてオーウェンを弾き飛ばしていた。
そして、扉に寄りかかっていた4人がそのショックで扉が開け放たれて地面に倒れ込む。
「ええい、オーウェンは姉様に近寄りすぎ」
ウィルが叫ぶ。
「ウィル!」
クリスは真っ赤になった。
「ウィルいきなり…お前らも何だ」
起き上がりつつ、目の前に倒れ込んだイザベラらを見てオーウェンは呆れて声をあげる。
「本当にあと少しだったのに」
ヘルマンが言う。
「ウィル様もなんて所で邪魔するんですか」
イザベラが言う。
見られていたと知ったクリスは真っ赤になって固まっていた。
「クリス様。いらっしゃらなかった時の事でお話があるのですが」
そこにクリス付きの事務官フェビアン・クライムが入って来た。
「判りました。すぐに執務室に行きます」
慌ててクリスが部屋を出て行こうとする。
「クリスまた後で話に行くよ」
「オーウェンは来なくていい」
オーウェンの言葉にウィルが即座に返す。
クリスはちらっとオーウェンを見る。
クリスは手を軽く振っていた。
オーウェンも軽く手を振り返した。
二人の視線が絡まる。
「はいっ姉様もさっさと行く」
それが気に入らないウィルがクリスに言う。
出ていくクリスを見送って手を振っているオーウェンをにやけたヘルマンとシュテファンが見ていた。
「何だ。お前ら」
それに気づいたオーウェンは慌てて手を引っ込める。
「いえいえ」
「仲良くなれてよかったですね」
ヘルマンとシュテファンに言われてもオーウェンは怒鳴り返せなかった……
皆々様のおかげで間もなく200話迎えられます。
ここまで続くとはとても思えませんでした。
これもここまで読んで頂いている読者の皆様のおかげです。
200話記念稿は閑話を
少し前のマーマレードの意地悪姑エリザベス王妃の登場です。








