テレーゼ女王は魔導師長に魔王について調べるように命令しました
小春日和の太陽の光を浴びて、温室は暖かかった。
冬に咲く南国の花々が色とりどりの花をつけて、温室を訪れる者たちの目を楽しませてくれていた。
もっとも今のオリビアの目は、目の前の菓子に吸い寄せられており、きれいな花など見てもいなかったが。
このプルプル震える黄色い色合い。
そして、スプーンをさして、口元に持ってきて一口入れる。
じわーッと来る甘さが下の上をまろやかに滑り、それを堪能して飲み込む。
「うーん、本当にこのプリンはおいしいわ」
ニコッとテレーゼ女王オリビアは笑った。
「お菓子を2個も食べられるとまた太られますぞ」
ボソリとサイラスがつぶやく。
「サイラス。いつからそこに」
オリビアは驚いてサイラスを見た。
「その2つ目の菓子を何度もいとおしそうに見られている時からです」
サイラスが皿を目で見る。
「何度もスプーンに手を伸ばしては手を引っ込められるところからどうされるかずっと見ておりました」
何も言わないオリビアにサイラスが話す。
「入ってきたらさっさと声をかけなさい。と言うか淑女の部屋に無断で入って来るな」
「これはこれは異なことを。もう結婚されて30年近くなられるあなた様が淑女とは」
「サイラス、言う所がそこか」
オリビアは怒って言った。
怒った勢いを持ってプリンの残りを食べだす。
久しぶりのプリンなのだ。サイラスの下らない話が始まる前に食べてしまうにしかず…
「陛下。非常事態です。魔王が復活しました」
しかし、サイラスのとんでもない言葉に思わずプリンを喉に詰まらせる。
それからが侍女が総出で慌てて駆け寄り、背中を叩いたりと大変だった。
「陛下。プリンなどと言う柔らかいものをのどに詰まらせるなどどういう事ですか」
呆れてサイラスが言う。
「貴様がとんでもない事を言うからだろうが。魔王の復活とはほんとうの事か」
「はい。前ボフミエ皇帝が発掘した魔王を封じ込めた石を何故かモルロイの第一王子が解放して
魔王となったようです」
サイラスがはっきりと報告する。
「あのクーデターを起こし、両親を惨殺して国を乗っ取った暴虐王カーンが魔王だというのか」
オリビアは確認する。
「おそらく正しいかと。そのカーンがボフミエの街カロエに襲撃に現れ、正義の騎士を撃破しました」
「正義の騎士に勝ったからと言って魔王とは限るまい」
「それはそうですが、その場に居合わせたロルフ・ノーマンが巨大な魔力を宿しているのを確認いたしました」
「ロルフとはその方が報告してきた人の魔力量を見ただけで判るとかいう稀有な能力を持つ若者の事か」
「御意。そのものが申しますには我が孫娘と同じでどれだけ魔力を持っているか判らなかったとのことです」
「少し待て、今の話を聞くとそのカーンとか言うやつはその方の孫娘くらいしか魔力が無いのであろう。
それを魔王と認定できるのか」
オリビアは不審そうにサイラスに聞く。
「確かにそのロルフと言うものがきちんと魔力量が見えるかどうかは判りませぬ。
何しろあ奴は私の魔力量があのジャルカよりも少ないと抜かしたのですからな」
悔しそうにサイラスが言う。
「ちょっと待て、サイラス。お前はあの生けるゾンビ、いや屍、と呼ばれるジャルカよりも魔力量があると思っておったのか」
「何をおっしゃいます。女王陛下。このサイラスは古よりも正当魔導師を引き継いでおる由緒正しき魔導の殿堂テレーゼ王国ナンバーワンの魔導師ですぞ。
科学立国のマーマレードなどと言う三流国の魔導師などに負ける訳は無いと」
怒ってサイラスが言った。
「まあ、それは置いておいて、魔王が復活したのなら、早急に対応せねばならぬ」
「対応とおっしゃられても人間では魔王には勝てませんが」
サイラスがあっさりと言う。
「そのような事を申しても、この魔導の正当な継承国である我がテレーゼ王国が中心になって事を勧めるしかあるまい」
「そうは言われても陛下。前回魔王が復活したのは一千年前の事でテレーゼが出来る前ですぞ。
確かその時は戦神シャラザール様と相打ちでは無かったかと」
思い出すようにサイラスが言う。
「いや、私はシャラザール様が魔王を石に封印なされたと聞いておるが」
「そうでしたか。私は傷ついた魔王をボフミエ建国の3魔導師が聖なる石に封印したと聞いておりますが」
「そのあたりの不確かな事も含めて早急に調べ上げよ。
人はどれだけ使っても構わん。確か禁書コーナーに魔王について書かれた書物が多くあったと記憶するが」
「あの禁書コーナーですか。魔王関連の書物だけで一千冊以上あったと記憶しますが」
げっそりとした顔でサイラスが言う。
「当然であろう。その方はこの魔導師の正当な継承者であるテレーゼ王国の魔導師のトップであるのだからな」
有無を言わさぬ声でオリビアは言い切った。
「直ちにその方が中心になって全魔導師を動員してその対策にあてよ」
オリビアは命じていた。
「御意」
サイラスは反論するのを諦めてオリビアに礼をした。
次はボフミエに傲慢な魔王からの使者がやってきます。
赤い死神や暴風王女 シスコンのウィルの目の前で、クリスに対して暴言の数々を言えるのか?
果たして、王宮から無事に帰れるのか
読んでのお楽しみに








