テレーゼ王女はクリスに丸め込まれて魔導学園長になりました
「ジャンヌお姉さま。お疲れさまでした」
仮王宮でクリスがジャンヌらを出迎えた。
「海軍の具合はどうですか」
「海賊共も慣れて来たみたいだ。あいつらがしっかりすればマーマレードからの食糧供給も問題なくなる」
ジャンヌが言った。
マーマレードからの食糧輸送で海賊は一掃したはずだが、いつまた次の海賊が現れるか判らない。
それを警戒するためにも海軍の整備は急務で、兵士と海賊から足を洗わせた元海賊を使って急遽海軍を編成しつつあった。
ジャンヌはその司令官として監督していたのだ。
「あれ、アメリアじゃないか。なんでここにいるんだ」
ジャンヌは目敏くアメリア王女を見つけて聞いた。
「テレーゼから金貨500万枚の援助のお話を頂いたんです」
「えっ500万枚も。あのけちのテレーゼが」
クリスの言葉に驚いてジャンヌが言った。
「ケチとは何よケチとは。確かにお母様は倹約家だけれど、困った人には手を差し出すわよ」
「怪しい。何か裏があるだろう」
ジャンヌが不審そうに言う。
「何も裏は…」
「スカイバードをテレーゼにも持ってきて欲しいんだと」
アメリアの後ろからオーウェンが言う。
「やっぱりね」
ジャンヌは納得する。
「500万枚だからいいでしょ」
アメリアが怒って言う。
「でも、あの死にそうなののどこが良いんだ。転移ならあっという間なのに」
「それは転移が出来る奴が言う事だ」
怒り気味にオーウェンが言う。
転移できないオーウェンはいつも悔しい思いをしていた。
人間ミサイルで死にそうな目に会ったが、今回クリスと一緒に初めて衝撃吸収装置付きスカイバードに乗って全然問題無い事が判って感激したのだ。
これが実用化されればクリスに置いて行かれなくて済むと。
「衝撃吸収装置は素晴らしいですわ。本当にショックは無いのですね」
衝撃吸収装置のありと無し両方体験したアメリアはしみじみ言った。
「そんなにすごいのか」
「ほとんど気付かないうちにあっという間に空の上だったわよ」
自慢気にアメリアは言う。
「ふーん」
興味なさげにジャンヌは言う。
「私もボフミエの危機を何とか手助けしたくてお母様に言ったのよ。
それに、お金だけで無くて、人材も不足しているのよね。
もしどうしてもとお願いされたら長官の1つもやってあげましても良いですわよ」
ふんぞり返ってアメリアが言う。
「却下」
ジャンヌが一言でいう。
「何その一瞬で却下するなんてどういうことですの」
「だってアメリアはわがままだし」
「暴風王女のあなたに言われたくありませんわ」
「戦闘には十分役に立っているんだよ。お前がいると和が乱れる」
ジャンヌが言い切った。何時も和を先頭切って乱す張本人のジャンヌが何を言うんだと白い目でみんな見る。特にいつも厄介事を丸投げされるクリフィズはジト目で睨んでいた。
「クリフィズ。何か」
「いえ、まさか姫様から和を尊ぶという言葉が出るとは思いませんでしたので」
思わずクリフィズは本音が出る。
「何か言ったか」
ジャンヌが睨みつける。
「ほら見なさいよ。あなたよりはましよ」
どっちもどっちだとオーウェンは思ったが、
「そもそも、空いている席が無いぞ。財務卿は無理だろ」
「だってアイス買うのに金貨10枚出す奴だからな」
「それは子供の時の事でしょ」
オーウェンとジャンヌの言葉にアメリアは反論する。
「殿下は金勘定は無理でしょう」
今まで黙っていたサイラスが言う。
自国の人間にまで言われてはそれ以上は言えず、
「内務卿とか」
「内務はオーウェンがやっているだろ」
「事務作業や物事を順序だてて規則的にやるのにオーウェン以上の適任者はいないぞ」
ぼそっと言った言葉にあっという間に周りに反論される。
物事をきっちりとやって行くのにオーウェン以上の適任者はいなかった。
「まあ俺の下なら使ってやってもいいが…」
「誰が陰険腹黒王子の下なんかつくものですか」
オーウェンの上から目線にあっさり反論する。
「テレーゼのわがまま王女に言われたくないな」
「何ですって」
二人は睨みつける。
「まあまあ、お二人とも」
クリスがなだめる。
ここでアメリアにへそを曲げられると金貨500万枚が消えかねない。
「アメリア様の素晴らしいお人柄にふさわしい椅子をご用意できますわ。
資金が揃えばやりたいことがあったんです。
新しい事ですが、今後のボフミエの未来を形作る素晴らしいお仕事なんです」
「それはどんな事なの」
「やはり今後世界で伸びていくには、識字率をはじめ子供たちをいかに優秀な人材に育てていくかが大切なんです。その責任者にぜひともアメリア様はなっていただきたいんです」
「その責任者に?」
嬉しそうにアメリアは頷いた。
「そうです。未来のボフミエはアメリア様にかかっているんです」
「仕方が無いわね。クリスがそこまでお願いするならなってあげるわ」
「ありがとうございます」
クリスはお礼を言う。
「ボフミエの教育のトップはボフミエ魔導学園を考えております。
各地から優秀な生徒を集めて教育するように既に準備は整っています。
アメリア様にはそのボフミエ教育界のトップ。ボフミエ学園長をやって頂きます」
クリスは言い切った。
皆は微妙な顔をする。
教育省か何かを作ってそのトップに付かせるとか言うのかと思いきや学園長とは。
「学園長なの…」
少し不満そうにアメリアが言う。
「何をおっしゃっていらっしゃるんですか。ボフミエは魔導士の国。当然ボフミエの魔導学園は魔導師にとっては世界のトップの学園です。
初代学園長アメリア様の名前を取ってボフミエ・アメリア魔導学園の学園長です。
アメリア様の名前が魔導史の歴史に燦然と輝くんです」
「アメリア魔導学園…」
アメリアにとって母国にも名前を冠した物など何も無かった。
それに確かにボフミエは魔導の国、その学園のトップならば世界魔導学のトップの学校になるかもしれない。
その学園に自分の名前が冠するという事は歓迎すべき事だ。
オーウェンの下でこき使われるのは嫌だし、うまくいけば世界の教育史に名前が残るかもしれない。
「判ったわ。そこまで言うならやってあげる」
皆は唖然とアメリアとクリスを見ていた。
そして思ったのだ。クリスの口車には乗らないように気を付けようと。
何でもないことをものすごい事のように言われて喜んでいるうちに戦場に一人で放り込まれかねないと。
クリスの人たらしの才能は世界一?








