食事を台無しにされた暴風王女は海賊団を1つ殲滅しました
ジャンヌ一行はマーマレードの港町バームストンから500トン積みの帆船4艘を伴い出港していた。
マーマレードに来ればまともな食事にありつけると期待していたジャンヌは、ほとんど希望がかなわずに、げっそりしていた。
「はあああ」
盛大にため息をつく。
「久しぶりに肉が食べられると思ったのに…」
「やっぱり、ミハイル卿をいじめすぎたのがいけなかったのではないですか」
ザン・ルイスがぼそりと言う。
「そうですよ。姫様。適当なところで止めておけば良かったのに」
ライラも頷く。
「しかし、おかげで6万トン食料援助してもらえることになっただろう」
ジャンヌがシャカリキになって言い訳する。
「じゃあ名誉のお粥という事で、諦めるしかないですね」
ヨハンが諦め顔で言った。
「しかし、こうも毎日お粥だけでは力が出んぞ」
ジャンヌが言う。
もはや気力も無くて甲板に寝転がっていた。
「何ですか。その陸に釣り上げられた魚のようですな」
「そうだ。魚だ」
ザンの言葉にジャンヌは慌てて起き上がった。
「魚って何ですか。お腹が空いて頭までおかしくなったんですか」
「馬鹿か。魚を釣り上げるんだよ」
「そうか、その手がありましたな」
「ようし、さっそく釣り大会だ。一番でかいの釣り上げた奴には30年物のボフミエ産のワイン1本づけるぞ」
ジャンヌの声に皆いきりだした。
慌てて釣竿を探し出し、無ければ作り出す。
網を作る者、魔法で魚を捕まえようとするものまちまちだ。
みんな必死にやったが、食い意地の張ったジャンヌは3メートルもの巨大魚を釣り上げてトップになっていた。
「元々こうすればよかった。無ければ狩りをするなり釣りをするなりやれば良かったのだな」
早速船の上にもかかわらず、さばいて大鍋を設置して炊きだす。
やっとおいしい食事にありつける。
ジャンヌの頭は期待に膨らんでいた。
その4隻の船に近づく10隻の船があった。
ボフミエのすぐ隣の島を根城にする海賊団だ。
今回はアマダ商会から金貨10000枚もの依頼料が出ていた。
なおかつ、荷物の食糧は自由にしていいとのことだった。
1000トンで金貨1万枚だ。
4艘とも拿捕できれば2万枚の特別報酬も手に入るはずだった。
情報屋によると4艘には船員200人に、兵士は20人くらいしかいないようだった。
こちらは10艘で1000人。負ける訳は無かった。
島影に隠れて4艘が近づくのを待っていた。
「お頭。奴さんやってきました」
手下が叫ぶ。
「ようし、全船出撃だ。まず、前の1隻をやる、火矢の準備を。魔導師は衝撃波を1隻めに集中しろ」
「姫様。不審な船が10隻ほど現れました」
ライラが叫んだ。
「何。今からせっかく食べるって言う時に」
ジャンヌは不機嫌になった。
「姫様攻撃です」
火矢がわんさか飛んでくる。
それをザンらが衝撃波で弾き飛ばしていた。
しかし、敵船からも衝撃波が飛んでくる。
船が大きく揺れた。
慌てて鍋を押えようとしたが、そのジャンヌの目の前で鍋は大きくひっくり返った。
「ギャアアア」
ジャンヌの悲鳴が戦場に響き渡った。
「何だ。今の気色悪い悲鳴は」
海賊の頭が叫ぶ。
「さあ、男みたいな女の悲鳴でしたな」
「ひょっとしてかわいこちゃんが乗っているのか」
「でもあの声じゃ顔は見られたものじゃないと思いますぜ」
「それは最悪だな」
海賊たちは笑い合っていた。
そう、彼らは知らなかった。
悲鳴を上げたのが誰だったのか。
「おのれせっかくの食べ物を」
ジャンヌは憤怒の顔で切れていた。
「許さん」
次の瞬間には巨大なファイアーポールを先頭の船に放っていた。
ドカーン
一瞬で先頭の船が燃え上がる。
そして次の船が。
「ザン、右舷の3隻破壊しろ」
「了解。姫様」
ザンは衝撃波を3回放った。
すさまじい音をたてて3隻が真っ二つに割れて沈んでいく。
残りの5隻の船員は呆然としてそれを見ていた。
海賊の頭もそれを唖然として眺めていた。
そして次の瞬間には目の前にジャンヌが転移してきた。
剣で横殴りに一瞬にして頭を弾き飛ばしていた。
そして、その真横に剣先をたてて置く。
「全員降伏しろ。次に動いたら叩っ切る」
「ヒェェェ」
海賊の頭は悲鳴を上げた。
「ぼ、ぼ、暴風王女」
船員の一人がポロリと言った。
ノルディンの赤い死神と互角に戦えるマーマレードの王女の名前を知らない者はいなかった。
言った男が一瞬で黒焦げになって後ろにはじき飛んでいた。
「貴様らよくも私の飯を台無しにしてくれたな」
ぎろりと目を怒らせてジャンヌは言った。
「丸焼きにしてそのまま食ってやろうか」
「ヒェェェ」
ボフミエ近海を荒らしていた海賊団の面々もジャンヌの前には形無しだった。
その日名を馳せた海賊団の一つがこの地上から消滅した。








