大国皇太后はボフミエに農業指導に行く事を決心しました
クリスは与えられた部屋に帰るとシャワー浴びる暇もなく衣装だけ着替えた。
そこにオーウェンが呼びに来た。
オーウェンのエスコートで晩餐の間に向かった。
晩餐の間には中央に大きな丸テーブルがあり、国王と王妃は既に着席していた。
「クリス、お久しぶりね」
王妃が立ち上がって案内してくれる。
「ボフミエ筆頭魔術師様をお迎えしているのだけれど、クリスは家族同然だから堅苦しい形式は省かせてもらったの。良かったかしら」
「はい。私もそのようにおっしゃっていただく方がありがたいです」
「じゃあ席順も話しやすいようにさせてもらったから」
女官が座席を引いてくれる。
2人は席に着いた。
「遅くなってすまないね」
そこへ皇太后が公爵を連れて現れた。
一同挨拶して席に着く。
国王ピーター、王妃キャロライン、皇太后アン、バーミンガム公爵、クリス、オーウェンの順に一周回っている。
「国王陛下。此度は私どもの国に食料を援助頂き誠にありがとうございます。感謝の言葉もございません」
最初にクリスが頭を下げる。
「高々1万トンしか援助していない。筆頭魔術師殿以外にはそれだけしか出せないのかと散々文句も言われた。それで許して頂けるとありがたい」
「いえ、国の貴重な穀物を1万トンも援助頂けるのです。これほどうれしい事はございません。国民に成り代わって厚く御礼申し上げます」
再度クリスは頭を下げた。
「クリス嬢。もう頭を下げるのはやめてくれ。妻と息子と母とうちの筆頭公爵の冷たい視線に晒されて針の筵だよ」
「本当に。マーマレードが6万トンも出すのに、大国ドラフォードが1万トンしか出さないでは他国に対して示しがつかないね」
ぽつりと皇太后が言う。
「母上、今後は考えますよ」
「それより、クリス、今回は空を飛んできたそうね」
険悪になりそうな空気に思わずキャロルが話題を変えた。
「はい。そうなんです。ボフミエの国都ナッツァとドラフォードのハイリンゲンを2時間で来れて感激しました」
「それはすごいな。しかし、いろいろと大変だったのでは」
「ジャルカ様にはドラフォードでも売り込んで来いと詳しい資料を持たされたのでまた後で見て頂きたいのですが、基本はふわっとしたと感じたら空の上にいて、あっという間に着いていました」
クリスがあっさりと言う。
「飛び立つ時とか結構大変だったと思うんのだが」
信じられないという顔で国王が聞く。
マーマレードの技術者とボフミエの魔導師の合作が人に安全を考えて作られているとは到底思えなかった。
いつも新しいものはとても大変なものなのだ。国王は命の危険もあるはずだと思っていた。
「全く感じないかと言うと嘘のようですが、本当に一緒に乗っていたイザベラ・ナヴァールやナタリー・ウィンザーに聞いていただいても良いと思いますが、そんなに大変では無かったのです」
クリスがほほ笑んで言う。
「客席には衝撃を吸収する魔道具を設置しているとのことで、操縦室にいたウイルとアルバートは大変だったと聞いています」
(衝撃吸収魔道具か、そんなものが自分の時も使ってくれたらよかったのに)とオーウェンは思ったが、いつもジャルカに嵌められているオーウェンとしてはなかなか信じられる事では無かったが。
「陛下。2千キロが2時間で結べればこれは画期的なものですぞ。是非ともわが国でも検討すべきかと」
「そうだな。後で我が国の担当者と詳細を詰めて頂きたい」
国王は公爵に頷いてそう言う。
「ありがとうございます。こちらも担当者が来ておりますのでつめさせていただきます」
クリスが頷いた。
「そうか、そんな便利なものがあればこちらに帰ってくるのも楽だね」
皇太后が言う。
「ええ、ドラフォードとボフミエ間の航路が開設されればとても便利になります」
「じゃあ私も何かあればすぐに帰って来れるね」
「母上、どこかに行かれるのですか?」
国王が皇太后に尋ねる。
「実はクリスにボフミエで農業技術者が不足していると聞いてね。私が行こうと思うのだよ」
皇太后が爆弾発言をした。
「えっ皇太后様、自らお越しいただけるのですか」
「母上が」
「おばあさまが」
皆唖然とした。
「しかし、ボフミエは治安状況もあまり良くないですよ」
オーウェンが驚いて言う。
「そうですよ。母上。もうお年ですし」
国王も乗っかって女性にとっての爆弾発言をする。
「ピーター、お前、相も変わらず、何も考えずに話すね。女性に年などと良く言うよ。私はまだまだ現役のつもりだけどね」
額の一部を怒りで震わせながら皇太后は言った。
「ボフミエには私よりも年食っているジャルカもまだ現役で頑張っているそうじゃないか。
今までいろいろやってきた事をまとめて試すチャンスだし、ドラフォードにいても国王に年だと言われてあまり思い切ったことが出来ないしね。その点ボフミエでは自由に出来そうだ」
「でも、本当に危険なのでは」
キャロルが懸念する。
「ウィンザーが孫娘に会いたいと言っていたからね。彼を連れて行くよ。それに現地ではドーブネルの息子や公爵の息子もいるみたいだし、オーウェンらはうるさいばあさんが来ていやかもしれないけれど」
「いやそんなことはありませんが」
オーウェンが慌てて否定する。
「クリス。私では年を取りすぎているかい」
皇太后は改めてクリスを見る。
「いえ、決してそんなことは。私としては皇太后様自らお越しいただければそんなにうれしい事はありませんが、如何せん、今は国の建国期で治安状態も良くはありません」
「クリス、護衛の事はそんなに気にしないで。一応私もこの国の皇太后だ。正義の騎士や赤い死神、暴風王女には負けるがアルバートクラスの者ならば伝はあるよ」
「しかし、母上万が一の時は」
国王がなおもいう。
「GAFAと言えどもこのドラフォードの死にかけ婆には手を出して来んよ。
それにね。国主たるクリスの国民を飢えさせたくないという気持ちに応えたいんだ。
ボフミエにはこれから世界を動かしていく若い者たちもたくさんいるんだろう。
そいつらに農業とはどういうものかを見せるのも良いと思うんだよ」
皇太后は皆を見渡して言った。
「クリス、私では不服か」
「いえ、ご指導ご鞭撻下さいますようよろしくお願いいたします」
クリスは思わず立ち上がって深く礼をした。
「でもお母様…」
更に言おうとした王妃をピーターは止めた。
「キャロライン。母がこうと決めたら何を言っても無駄だ。
ただし、母上、くれぐれも無理しないでくださいね。無理をしていると知ったら迎えに行きますからね」
諦めてピーターは言った。
「判った。肝に銘じておくよ」
皇太后は苦笑いをして頷いた。
いつも忙しい中読んで頂いてありがとうございます。
次は暴風王女とGAFAに雇われた海賊です。
食い意地の張った暴風王女に海賊が…
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