大国皇太子にクリスは抱きかかえられてお出迎えされました
昨日は更新できずすいません。
少しドラフォード王宮編が続きます。
ここでもクリスは食料をゲットしていきます。
「ハックション」
オーウェンは大きなくしゃみをした。
「どうされました。オーウェン様。お風邪ですか」
オーウェンについて来たシュテファン・キッツィンゲンが尋ねる。
「いや、どこかのいけ好かない野郎が噂しているのさ」
オーウェンが応える。アルバート辺りが怪しいとオーウェンは思った。
今回のドラフォード行きは何かあった時の為にと元第三皇子のヘルマン・ゲーリングは留守番だった。
食料がどこに足りないかそれをどこから持ってくるか今必死にいろいろやり取りしているはずだった。
ジャルカから聞くところによるとマーマレードから足りない食料は融通してもらえるようだった。
それで食糧危機が回避されれば、今度は二度と食料が不足しないように、生産体制を整える必要があった。
そのための技術者の派遣依頼だった。
農業技術者の派遣は父である国王に頼もうとオーウェンは考えていた。
今年の秋の食糧不足の回避のためにもなんとしても技術者の派遣依頼を成功させなければと思っているオーウェンはクリスが追いかけてきているのはまだ知らなかった。
「しかし、船旅も疲れますね」
シュテファンが同じ景色の海を見ながら言う。
「馬の旅に比べるとよほどましだぞ」
呆れてオーウェンは言った。
この前クリスを追いかけて着の身着のまま馬に揺られた最悪の記憶がオーウェンの脳裏に思い出された。
5人の魔導師の協力で高速走行で2日でドラフォードのハイリンゲンまで行けるのだ。
馬の旅に比べればとても楽だった。
一方空の上の機内では窓からの景色にみんな釘付けだった。
「アデリナ、船が見えるわ」
「ミアさん。あの雲、熊みたいです」
「うわーすごい。イザベラ、砂漠よ。」
「空の上から地上を見れるなんて夢みたいです」
クリスもワクワクしているのは同じだったが、皆と同じように騒ぐのはまずいと思うので黙っていたが、はしゃぎたいのは同じだった。
「皆さま。お楽しみのところ申し訳ありませんが、当機はこれよりハイリンゲン着陸のため高度を下げます。再度ベルトの確認お願いします」
操縦士の声が響く。
「おい、降りる時も大変なのか」
アルバートが慌てて聞く。
「いえ、失敗しない限りはほとんどショックもありませんよ」
操縦士がすまして言う。
「その失敗が怖いんだけど」
ウィルがぼそっと言うが
「まあ、一度しか失敗したことありませんから」
男がスラリと答える。
「失敗したらどうなるんだ」
「頭から海に突っ込みました」
「……」
「おいっ。それって大変なんじゃ」
「機体が大破しましたけど今はバリアがあるので客室は問題ないですよ」
「ここは大変じゃないか」
「もう降りる」
「大丈夫ですよ」
二人がぎゃあぎゃあ言うのを無視して操縦士は高度を下げだした。
「皇太子殿下。そろそろ到着します」
ジェキンスがオーウェンに報告する。
3か月ぶりのハイリンゲンだった。
王室専用の桟橋は少しメイン桟橋から離れていた。
多くの船が行き来するのが見えている。
「うんっ?」
その時光る物体を上空に確認した。
低空をゆっくりとこちらに近付いてくる。
船の中を緊張が走る。
「ボフミエから連絡で人間ロケットの改良版を送ったとのことであれがそうじゃないですか」
「人間ロケット?」
オーウェンはジャルカに嵌められて乗せられた時の事を思い出していた。
あの時は本当に死ぬ思いだった。
「このままこの船に突っ込んでくるのではないだろうな」
ジェキンスに聞く。
あの時は船に体当たりして船を沈めていた。
その時オーウェンの魔導電話が鳴った。
「誰だ。この忙しい時に…」
思わず怒鳴った先に見えたのはクリスだった。
「すみません。オーウェン様」
しょんぼりして出てきたのはクリスだった。
「いや、クリス嬢なら問題はない」
慌ててオーウェンが言う。
「つい初めての事に興奮してはしゃぎすぎちゃって」
「?」
赤くなってるクリスを見てオーウェンは固まる。
「今から横に着陸しますね」
「えっ着陸?」
オーウェンが聞いたときには画面は切れていた。
切れた画面と迫って来る機体を見比べる。
「まさか、人間ロケットにクリスが乗って来た?」
オーウェンのつぶやきに答える者はいなかった。
機体はぐんぐん大きくなると胴体からゆっくりと着水した。
水しぶきを上げるがそのまま高速船の横に来る。
機体は結構揺れけたが、ウィルらが恐れるほどではなかった。
二人はホッとした表情をした。
「無事に着陸してくれてありがとう」
「いえいえ、こちらこそ。女王陛下御一行にご同行できて光栄でした」
「本当に命が縮まったよ」
ウィルとアルバートは操縦士と握手を交わした。
高速船が桟橋に着くとその後ろに鳥型機体が着く。
オーウェンは慌てて船を降りると出迎えの連中を無視して機体に走り寄る。
機体の扉が開いてウィルとアルバートが飛び出してくる。
それをかき分けて機体に脚をかける。
「オーウェン様」
機体から顔を出したクリスが驚く。
「クリス。人間ロケットなんて乗って大丈夫だったか」
思わず声をあげてオーウェンは言っていた。
「えっ。全く快適でしたよ」
不思議そうに聞く。
「取り敢えず降りて」
オーウェーがクリスの手を取って引き寄せて抱きかかえていた。
「えっちょっとオウ!」
クリスが抗議したが、無視してそのまま抱えて桟橋に降り立つ。
「どうしてこんな危険な事を」
抱きかかえながらオーウェンが聞く。
「何の事だか、とても快適な空の旅でしたよ。それより降ろして」
真っ赤になってクリスが言う。
「ゴホンっゴホンっ」
二人の後ろで咳払いがする。
後ろには出迎えのフィリップ・バーミンガム公爵が立っていた。
「お二人の熱いところはお二人だけでやって頂けますかな」
二人は赤くなって慌ててクリスはオーウェンから降りる。
「これはこれはバーミンガム公爵。わざわざお出迎えご苦労様です」
クリスがあいさつする。
「いえいえ、クリス様。お久しぶりです。お二人のお熱い仲を見せつけられてこの公爵久々に赤面いたしましたぞ」
「それは違います」
赤くなってクリスが否定する。
「公爵、戯言はそのあたりで」
オーウェンも皇太子の姿に戻って窘めた。
「まあ、臣下といたしましてはドラフォードの未来を担われるお二人が仲の良い事はこれに勝る喜びはございますまい」
クリスは否定したかったが、恥ずかしさのあまり言葉も出なかった。
「筆等公爵自ら出迎えてもらえる等どうしたわけだ」
赤くなったオーウェンは話題を変えようとした。
「ボフミエからの国賓が来られたのですから、本来なら国王自ら出迎えるところ、私が出て参った次第なのです」
公爵は笑って言った。
(嘘つけ。マーマレードの国王が来ても公爵自ら来ることなんて無いだろう)
オーウェンは余程言いたかった。
(それだけクリスを重視しているという事か)
皇太子が帰って来ても絶対に公爵自ら来ることは無いはずだと判っているオーウェンとしては複雑な思いだったが、
「アルバートはきちんとやっておりますかな」
「それはとてもよくしてくれています」
クリスは後ろに控えていたアルバートを見る。
「父上、お久しぶりです」
「うん。活躍はいろいろと聞いている。これからもクリス様に尽くすように」
「はい」
アルバートはそう言うと後ろに下がった。
馬車は4人乗りでクリス、オーウェン、バーミンガム公爵と4人目はナタリー・ウィンザーが乗ることになった。
アルバートは堅苦しい父と一緒にいるのを嫌がり、残りの護衛連中で喧々諤々やった中で、父同志が仲の良いナタリーに決まったのだった。
「食料問題でGAFAに嵌められたそうで大変ですな」
「元々アマダはドラフォードの商人だと思ったのだが」
「皇太后様がアマダの先代を贔屓にされておられたのです。その息子は恩知らずにもクリス様に牙を剥くなど皇太后様もご立腹していらっしゃいます」
いまいましそうにバーミンガム公爵は言った。
「食料事情はなんとかなりそうですか?」
「皆さま方のお陰でなんとか光は見えて来ました。こちらの国からも一万トンもの食料を援助頂けるようで感謝の言葉とありません」
クリスが公爵に頭を下げる。
「たった1万トンですか。3万トンぐらい援助すれば良いものをとても少ないですな。国王がしわいとどうしようもありませんな」
さらりと不敬な事をバーミンガム公爵は言う。
「本当に父上もけちだよな」
オーウェンが同調する。
「オーウェン様。一万トンも援助頂けるのですから国王陛下にも感謝申し上げなくては」
クリスがオーウェンを嗜める。
「しかし目処はついたのですか?」
心配して公爵は尋ねた。
「クリス嬢の父親が用立ててくれた」
「ミハイル内務卿ですな。どこかの父親とは偉い違いですな」
「公私混同は良くないと思うのですが」
クリスが申し訳無さそうに言う。
「今回の件は人道援助ですからな。気にされる事はありますまい」
「本当だ。ドラフォードの国王にも人の心をもってほしいものだな」
オーウェンが追従した。








