暴風王女は美食を期待して母国に帰りましたが粥しか出てきませんでした
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次話はクリスが人間ロケットに乗り込みます
「マーマレードより、マーマレード国内の全取引の禁止を言い渡されました」
イーサン・ウェストリーはランベルト・アマダ会長に報告していた。
「何だと。マーマレードが」
アマダは慌てた。
「何故だ」
「聞くところによると我が商会のブライカーがクリス様に無礼を働いたのが原因だとか」
「父親の内務卿の差し金か」
忌々しそうにランベルトが言う。
「内務卿に敵対する貴族に働きかけよ」
「会長。マーマレードでクリス様の不興を買う事は国民の不興を買う事になると以前お話させて頂きましたよね」
「所詮侯爵の小娘ではないか」
「会長。マーマレードから撤退してください」
呆れてイーサンが言った。
「何だと。貴様。雇い主に口答えするのか」
きっとしてランベルトが睨みつけると
「ボケ会長よく聞けよ」
口調をがらりと変えてイーサンは言った。
「このマーマレードで聖女クリス様を貶める事はな、国民の反発を買う事になるんだよ。
ボケ会長が阿呆だから、俺たち下っ端の店員が死にかけたんだぞ」
「何だと。生意気な貴様は首だ」
ランベルトは叫んでいた。
「こっちから願い下げだ。あばよ」
イーサンは魔道具を叩き壊していた。
「モーリツ、お前がマーマレードに行って直ちに体制を立て直して来い。
イーサンにもこの世界で生きていけなくしろ」
「会長。その事ですが、マーマレードの支店は怒り狂った民衆の襲撃を受けて壊滅しています。
しばらくマーマレード国内に入り込むのは難しいかと」
「何だと」
きっとしてランベルトが睨みつける。
「直ちに王都のマーマレード外交部に連絡して損害賠償を請求しろ」
「判りました」
モーリツが出て行った。
「おのれマーマレードのボケなすどもめ。
GAFAの一角のこのアマダ商会を怒らすとどうなるか目にもの見せてやるわ」
ランベルトはペンを叩き折っていた。
オーウェンはクリスの側で看病していた。
新たに侍女になったアデリナとミアと交代で看病する中に、強引に混ぜてもらったのだ。
クリスは熱が少しあるようだった。
青白い顔をしていたが、そのクリスの顔もいとおしかった。
昔もこんな事した事があったなと子供の頃を思い出す。
まだ、クリスの婚約者になれていないけど、何としてもなりたいとオーウェンは思っていた。
体調不良のクリスの代わりに、自分一人でドラフォードに行って農業技術者を連れて帰る予定だった。
ジャルカからは人間ロケットの最新版が出来たので、是非とも試運転してほしいと言われたが、あれだけは二度とごめんだとドラフォードの高速魔導船を使って帰る予定だった。
10人の魔導師を使って1000キロを2日で走破する予定だった。
陸路も入れて片道4日の行程だ。
その前に少しだけ看病したいと強引に代わってもらったのだった。
昔のようにクリスの額のタオルを交換する。
クリスは熱があって寝ていた。
今日は皆とピクニックいく予定だったのに、自分だけ風邪を引くなんて本当に馬鹿だ。
「大丈夫か。クリス」
そのクリスをのぞき込む男の子がいた。
「オウ。どうしたの?」
「馬鹿は風邪ひかないって言うのにひいたやつがいるから、見に来てやったんだ」
「何それ」
ブスっとクリスは拗ねる。
「うそうそ」
笑ってそう言うとオウはクリスの額にのっていたタオルを取り換えてくれた。
「冷たい」
思わずクリスが声を出した。
「冷たすぎたか」
オウが慌てて聞く。
「ううん、冷たくて気持ちいい」
クリスがほほ笑んだ。
「ありがとう、オウ」
クリスがぼそりという。
「えっ」
オウが驚いてクリスを見た。
「寝るまで傍にいて」
クリスが頼む。
「ずうっと傍にいてやるからゆっくり休め」
オウの言葉に頷いてクリスは目を閉じた。
ハッとしてクリスは目を覚ます。
そこにはミアの顔が見えた。
「ミア」
「目を覚まされましたか」
ミアが声をかけてくる。
「オウが見てくれているのかと思っていた」
「オウッてオーウェン様ですか。明け方にいらっしゃいましたが」
「そう、オウも傍にいてくれたんだ」
しんみりとクリスが言う。
最近よく寝れていなかった。久しぶりに寝れたので頭は少しはっきりとしていた。
日はすでに登っているようだった。
「ミア、ドラフォード行きは」
慌ててクリスが起き上がった。
「大丈夫です。オーウェン様が自分一人で行くと出発されました」
ミアがクリスを寝させようとする。
「でも、農業の指導者は今後のボフミアの根幹をなすもので私も行かないと」
「クリス様。とりあえず、体調をお治しください。
最悪ウィル様が転移で連れて行くとおっしゃっていますし」
クリスは強引に布団に戻された。
ウィルの転移なら無理すれば3日くらいで行けるかとクリスは諦めてもう少し寝る事にした。
「ようし、マーマレードに還るぞ」
張り切ってジャンヌは言っていた。
マーマレードのジャンヌ魔導中隊はウィルを除いて18名。
ジャンヌは自分が蒔いた種がどうなっているかも含めて確認に行こうとしていた。
ジャルカの言うように6万トン用意できていたら、苦労も終わりだ。
また肉が食べられるようになる。
もうお粥だけの生活はこりごりだった。
それが無理でもマーマレードに外交で行くのだ。
絶対にうまいものが食える。
ジャンヌらは期待に膨れていた。
「肉だ肉だ」
嬉々として魔力を船にかける。
魔導中隊の全員の魔力は強力で船はあっという間に空に浮いた。
「マーマレードに着いたら肉が食い放題だぞ」
皆期待に燃えて船を走らせていた。
しかし、マーマレード国内についても粗末な食事は変わらなかった。
魔導電話でジャルカから注意を受けたのだ。
ボフミエの外交部隊は食料を受け取りに行くのだからくれぐれも途中の食事はボフミエと変えないようにとお達しを受けたのだった。
しかし、さすがに王都の会食では違うだろうとジャンヌは思っていた。
その会食だけを期待して何とか我慢してきたのだ。
しかし、出てきた食事をみてジャンヌは唖然とした。
大鍋にはお粥と梅干とそして形ばかりの肉が一切れ…
「母上。これは何ですか。我が国に対する嫌味ですか」
半分切れた状態でジャンヌは言う。
この4日間の旅の間もずーっと美食を期待していたののだ。
飢饉で苦しむ国の使節団に少しくらいご馳走を食べさせてくれてもいいではないか。
それを楽しみに来たのに。
「何言っているのよ。ジャンヌ。あなたでしょう。ミハイル卿にクリスが毎日少しの粥で我慢しているって言ったのは」
エリザベスが逆切れして言う。
「そんなこと言うからミハイル卿はそれ以来食事が喉に通らなくて、
それでクリスが粥しか食べていないことが料理長にばれて、怒った料理長がクリスがきちんとした食事がとれるまでは城の食事も全て粥になったのよ。
その分援助に回せって。
肉が一切れついているでしょ。それで我慢しなさい」
王妃の声にジャンヌは少しやりすぎたことを後悔していた。
王宮に帰ってくれば思いっきり普通のおいしい料理が食べられると思ったのに。
「何か文句でもあるの」
王妃の剣幕にジャンヌは返す言葉もなかった…。








