マーマレードのGAFAの支店は怒った民衆の前に壊滅しました
一方マーマレードの内務省ではエルンストが大声を張り上げていた。
「テオ、聞いたか」
横に控えて聞いていた副官のテオの名前を呼んでいた。
夜と言ってもまだ内務省は宵の口、多くの人間が残業していた。
「直ちに、GAFAとの取引すべて停止しろ」
「GAFAとの取引停止ですか」
驚いてテオが聞く。
魔道具の大口取引も多く結ばれていたはずだ。
「きゃつら何をとち狂ったか6万トンの食糧を融通する代わりに娘のクリスを差し出せとボフミエに言ったそうな」
「クリス様を差し出せと?」
驚いてテオは言う。
ノルディンのマーマレード侵攻戦からエドワード王子の婚約破棄、王弟叛逆と多くのマーマレードの国民がクリスに救われていた。その聖女クリスを差し出せというなど、マーマレードにおいては許される事ではなかった。
「しかし、売れなくなった魔道具はどういたしましょう?」
「我が国の優秀な魔道具などすぐに次の売り手は見つかるわ。
GAFAめ。多少大きくなったとはいえ、我が家のクリスに手を出すとは許せん」
手を震わせてエルンストは言った。
「絶対に目にもの見せてくれるわ」
直ちに専門委員会が作られてGAFA王宮出入り禁止令が作成された。
一方王宮の食堂ではひと騒動持ち上がっていた。
「なんでほとんど食べていないんだ。どれだけ手間暇かけて作っていると思っている」
食器を返しに来たエルンストの部下らに夜遅くまで料理に付き合っていた料理長が切れていた。
「それが内務卿が娘さんが飢饉でほとんどお粥しか口にしていないと聞いて食べるのを止められて泣きだされて、我々もそれを見て食べているわけにもいかず…」
「なっ何だと。内務卿の娘ってクリス様じゃないか」
料理長が叫ぶ。
「そうです。でも、公私混同できないからボフミエには食料をほとんど送るなと王妃様がおっしゃられたとか」
それを聞くと料理長は
目の前の夜食を取ろうとして定食を受け取ろうとしていた文官の食器を取り上げた。
「定食は今から禁止だ。全てお粥にする。」
「えっそんな」
文官が思わず文句を言おうとする。
「何だ貴様。聖女クリス様がボフミエの地で飢えてお粥しか召し上がられていないんだ。
俺たち命を救われた者がそれ以上のものを食えるわけないだろうが。
文句があるなら今すぐ城を出て行け」
すさまじい勢いで料理長は宣告した。
「陛下らに出す分も全てお粥ベースだ。
余った食材は全てボフミエに送る」
王宮の食堂のメニューが全てお粥一色に塗り替わった瞬間だった。
侍女長のコマリーは回ってきたメモを見て驚いてメリーに言った。
「メリー。全部署に伝達。今後GAFAとの取引は全面禁止。破ったものは王宮を永久追放にします」
「しかし、宝飾品等珍しい物の多くはGAFAが噛んでいますが」
メリーが反論する。
「何言っているの。メリー。GAFAはクリス様に、食料を援助する代わりにその身を差し出せと傲慢にも言ったそうよ」
「えっクリス様に」
メリーは驚愕して聞いた。
ボフミエの皇帝に攫われたと思ったら、それを解決したは良いが、無理やりボフミエの筆頭魔導師をさせられていると聞いている。
「ボフミエは飢饉なのですか」
他の侍女が聞く。
「何でもGAFAの陰謀で食料の多くは前皇帝が武器と引き換えに渡してしまったそうよ。
クリス様はお粥しか食べていないそうよ。そして昨日は心労のあまり倒れられたそうなの」
暗い顔をしてコマリーが言う。
「えっ大丈夫なんですか」
「何とかお元気になられたそうだけど、この前の王弟叛逆時のお礼さえ碌に出来ていないのに」
コマリーは唇をかみしめた。
「判りました。全部署に伝達します。
クリス様を貶めるなんて許されません」
侍女たちは目を怒らせて頷いた。
「食料を集めてボフミエに送るのはどうでしょうか」
メリーが言う。
「そうね。直ちに手分けして集めましょう。輸送に関してはコーフナー兵部卿に私からお願いします」
コマリーは言っていた。
朝からマーマレードの首都マーレにあるアマダのマーマレード支店は大変な騒ぎになっていた。
急遽王宮から全取引の停止と契約破棄が突き付けられたのだ。
慌てて参内したイーサン・ウェストリー支店長はテオ副官にくってかかった。
「どういう事ですか。テオ様。契約の全面破棄のような手段に出られるなど」
「それを言いたいのは私だ。貴様らクリス様に何をした」
「クリス様?ボフミエの筆頭魔導師様ですよね」
それがどうしたかとイーサンは聞いていた。
「貴様もマーマレード人だろうが。なんでも貴様らのボフミエ店長がクリス様に1万トンの食糧の担保に御身を差し出せと言ったそうだな」
「えっそんな馬鹿な」
イーサンは驚いた。何か本社が動いていることは聞いていたが、そんなことを言ったとは。
イーサンはブライカーの不敵な面構えを苦虫をかみつぶしたような顔をして思い出していた。
クリスの活躍で王弟叛逆もほとんど死者は出なかったのだ。
それを感謝する空気はこの王都には今でも根強い。
元々皇太子の婚約者だったクリスは人気が高かった。
ノルディン侵略戦でもその身を危険にさらして今の皇太子のジャンヌと共に最前線において戦った事もある。
王弟反逆時にクリスの為に反逆罪の汚名をそそがれた兵士の数は1万人を超えた。
今回のボフミエ国主になったのも、古の魔導師たちが強引に頼み込んだとも言われている。
ボフミエの飢饉には本来何も関係ないのだ。
そして、その飢饉を起こしたのがGAFAが原因じゃないかとも言われ始めている。
そこへ食料のかたにクリス様を差し出せなどと要求したことが判ればマーマレードでの商売が出来る訳は無かった。
「という事だ。その方には責は無いかもしれんが、我々としてはそのようなGAFAとはこれ以上取引は出来ぬ」
その言葉を呆然とイーサンは聞いていた。
これからどうしよう。
呆然自失したイーサンは店に向かってゆっくりと帰っていた。
アマダのマーマレード支店はマーレの目抜き通りに巨大な店構えをしていた。
いつもは来客でにぎわっていた。
が、今日は石を持った住民らに囲まれていた。
「マーマレードから出ていけ」
「悪徳商人」
「クリス様になんてこと言いやがる」
「出ていけ」
「失せろ」
慌てて店の中に入ると店員らは蒼白としていた。
人混みは次々と膨らんでいるようだった。
今日のテオ副官の怒り様を見た限りはマーマレードの警備隊に助けを求めるわけにはいかなかった。
下手したらクリスに心酔している警備隊に攻撃される危険さえあった。
イーサンは店員らに直ちに避難させた。
怒った群衆によって支店が襲撃され全壊したのはそのすぐ後だった。








