ボフミエ最終戦5 戦神シャラザール怒りの鉄拳がさく裂しました
「そこの豚皇帝。余にこんな気持ち悪いものを突き付けるなどどういう事だ」
怒り狂ってシャラザールは皇帝に近寄る。
「ひいいいい」
皇帝アーベルは怒り狂ったシャラザールに戦慄した。
(殺される)
思わず、後ずさりするがその足を踏みつけられて止まってしまった。
(これは小娘ではない)
(何だ?)
今まで体験した事も無い巨大な力の持ち主が目の前にいた。
あまたの魔導士を見てきたアーベルにも目の前の者がただならぬ力を、それも圧倒的な力を持っているのははっきりと判った。
もうアーベルには恐怖しかなかった。
「このような胸糞悪いものなど、こうしてやる」
シャラザールはその石を鷲掴みすると空のかなたに向かって思いっきり投げ捨てていた。
石は一瞬で成層圏に向けて一目散に飛んで行った。
アーベルはシャラザールの視線が石を追って自らから外れてほっとするが
「ギョエエエエ」
急所を思いっきり踏まれて叫んでいた。
そしてその顎を思いっきり蹴り飛ばされる。
「陛下」
サロモンは思わずそのアーベルに駆け寄るが
「退けっ」
シャラザールの拳がサロモンに触れるとサロモンは張り倒されて、いや、弾き飛ばされていた。
そしてそのまま起き上がれなかった。
シャラザールは蹴り飛ばした皇帝の胸倉を掴んで持ち上げて張り倒す。
皇帝は歯が10本ほど飛び出して見るも無残な血の塊と化して地面にのびていた。
ヒクヒクと震えながら。
「口ほどにも無い。そのような気概で余に逆らうなど1000年早いわ」
「ギョエ」
アーベルはそのシャラザールに腹を踏みつけられて声をあげる。
顔中血まみれにして気絶していた。
ボフミエ軍の他の魔導士は驚愕のあまり1歩も動けていなかった。
「出た!シャラザールが出た」
日頃の行いからは絶対に見られないほど取り乱してアレクは小さくなって震えていた。
来るんじゃなかったとアレクは思った。
しかし、こんな事で後悔するなどまだまだ早かった。
「ジャンヌ!」
シャラザールが不機嫌そうに叫んでいた。
「はい」
思わず姿勢を正してジャンヌが返事する。
「貴様。何故あのような反吐の出そうなものを余に近づけさせた」
「えっ。いやそれはそこの豚に聞いていただきたく…」
「その豚が近づく前になぜその豚もろとも処分しなかったのだ」
理不尽な事をシャラザールは言う。
「それはあなた様が捕まっていたから…」
ジャンヌは言い訳しようとした。
「甘い!その豚など隙だらけであったではないか。
豚が剣を娘に突き付けていようが、豚が動き出す前に豚を殺せば済んだ話だろう」
平然とシャラザールが宣う。
「えっ」
ジャンヌは思わず声をあげた。そんなときに動けば下手したら皇帝にクリスが殺されていただろう。
もっともナイフで突かれてもシャラザールの憑代が死ぬわけはないのかもしれないが…
「まだまだ全然なっておらん」
「そんな、無茶な」
ボソリとジャンヌが文句を言う。
「何か言ったか」
きっとしてシャラザールが睨みつける。
余程その突き付けられた石が嫌いだったらしい。
前回出現した時とは比べ物にならないくらいシャラザールは機嫌が悪かった。
「そこのお前」
シャラザールはジャスティンを指さす。
「今の遅い動きは何だ。なぜ。クリスが捕まる前にこの豚を処分しなかった」
「申し訳ありません」
素直なジャスティンは頭を下げた。
ジャスティンには彼女のこの信じられない魔力の強さからも何かが来臨したのは理解できた。
「そう、まだまだ力不足だ」
そして次にウィルを見る
「はっ申し訳ありません。是非ともご教授頂ければ幸いです」
「余っ余計なことを」
ジャンヌが慌てて口をふさごうとしたが、もう遅い。
「そうか、その謙虚な姿勢や良し」
シャラザールは機嫌が少しはなおる。
「そこのお前」
「姉様…」
ウィルは信じられなかった。
姉様が変わっている。
今はなしているのは姉などではなかった。
ウィルには魔王のようなまがまがしいものに感じられた。
「3年前はまだ子供だったから許したが、今も全然なっていないな。
そんななまくら刀で本当に姉を守れるのか」
「そ、それは」
ウィルはまだ頭がついていかなかった。
姿はどう見ても姉だ。しかし、この感じは全然違った。
「それとノルディンの犬」
アレクに叫ぶ。
「はい」
直立不動でアレクが立つ。
ウィルはアレクが何を恐れていたか初めて判った。
かれは姉では無くてこの女を恐れていたのだ。
「3年前から全然腕が上がっていない」
そしてニヤッと笑った。
「貴様ら全然なっておらん。今から余が稽古をつけてやろう」
「ヒィィィ」
アレクが思わず声を出す。
「そこの兵士ども、貴様らもだ」
何のことか何もわからず呆然としていたドラフォード軍の兵士たちもやっとそこに悪魔がいるのが判った。
おそらく今地上にいる者の中で最強の悪魔が目の前にいた。
「そんな」
一人の兵士が思わず声をあげていた。
「反論は許さん。貴様ら全員で余にかかってこい」
シャラザールの目は不気味に光った。








