クリスは大国の第一大隊長を従えました
昨日はすいません。
今日は何とか間に合いました。
明日は厳しいかも…
その頃、ドラフォードの国王ピーター・ドラフォードは怒りに切れていた。
「どうなっている。なぜ東方第一師団が勝手にボフミエに侵攻している?」
軍務大臣のブルーノ・ハウゼン軍務大臣に怒鳴りちらしていた。
「攻撃を受けて反撃したという報告です」
お手上げという感じでブルーノは言った。
「反撃で何故100キロも侵攻している?」
更にヒートアップしてピーターが叫ぶ。
「残敵掃討戦で追っているとのことです」
「直ちに止めさせろ」
ブルーノの言葉に即座にピーターが命じる。
「全軍停止を命じておりますが、あいにくボヘミアは魔導電波の届きにくいところでして伝達に時間がかかっております」
「本来ミューラーは誰が何と言おうと動くことは無いと申しておったではないか。それが何故、攻撃に転じた?」
「ボフミエからの攻撃を受けたとのことですが」
「それは既に聞いた。攻撃を受けようがその場で反撃すればよいではないか」
ブルーノとアーサー・アルフェルト外務大臣は顔を見合わせた。
「皇太子殿下がボフミエに向かわれているという事に何故我が軍が攻撃に参加しないのかと下士官から突き上げを喰らっている時にボヘミアの攻撃があって、ベン・ドーブネルが反撃を言い訳に猪突猛進、それに全軍が引きずられミューラーでも止められなかったというのが実情かと」
「またベン・ドーブネルか」
苦虫を噛み締めたような顔をしてピーターはつぶやいた。
ベンドーブネルはドーブネル将軍の長男であり、彼の第一大隊は騎兵中心の猪突猛進型。
その攻撃力と速力はすさまじく、味方においてこれほど力強いことは無いのだが、猪突猛進、上官のいう事を聞かないことも多く、挑発されたら我慢した事も無く、戦争の始まりはベンから始まると言われるくらい緒戦を開くのは彼が多かった。
きちんと手綱を引けるかどうかが彼の上官の役割だった。それが失敗したらこうなる。
「クリス嬢誘拐事件でボフミエに厳重抗議を外務省からしましたが、逆に我が軍の侵攻について抗議されました」
外務大臣のアーサーが困って言う。
「奴らが挑発攻撃をするからだろう」
ブルーノが言う。
「そうは言いましたが、ボフミエは攻撃した事実は無いとそちらの自作自演では無いのかと逆に抗議されるくらいで」
苦々しそうにアーサーが言う。
「ウィンザーらならやりかねまいが」
国王も頷く。
「しかし、バーミンガム公爵によるとやろうとしたら勝手にボフミエがやってくれて万々歳だと喜んでおりましたが」
ブルーノが言う。
やろうとしたのか…やはり
残りの二人は心に思ったが…
「本当につながらないのか」
ピーターが聞く。
「はい、(おそらく電話をわざと切っています…)」
後半は思うだけでブルーノが応えたが、その言葉に懲りずにピーターは電話を取った。
コール音が響く。
「おいっ、つながったぞ」
ピーターが二人を見て言う。
(何処のあほだ。電話切っていないのは)
ブルーノが慌てたが、その電話に出た画面を見て判った。脳筋だ!
「誰だ!この忙しい時に」
噂の人物ベンの顔が画面いっぱいに広がった。
「ベン。交戦命令は出してはおらぬが」
ピーターが言う。
「これはこれは国王陛下。ここは前線。敵から攻撃を受けたら当然反撃するのは我々前線の兵士の務めですぞ」
「反撃で何故100キロも侵攻する必要があるのだ」
平然と言い返すベンにピーターは切れる。
「何をおっしゃいます。前線に出れば進退は各将軍に任されます。私はミューラー将軍の命令に従っているだけです」
「何だと!」
国王は真っ赤になって怒鳴った。絶対にベンが先頭切って全軍を引きずっているに違いない。
「そもそも、私はミューラー将軍の命令を聞いているのです。国王陛下と言えども勝手に後方から命令されることは二重命令になり、前線の混乱のもとになりかねません。おやめいただきたい」
「いつも命令違反の常連の貴様が言う事か」
ピーターは更に切れた。
慌てて残りの二人がなだめようとする。
そこにすさまじい爆発音が聞こえた。
「どうした?」
ベンの声がする。
「10キロメートル先で巨大な魔導反応がありました」
「よし、直ちに前進する。国王陛下、ではこれで」
「おい待て!」
しかし、ピーターの電話はあえなく切れた。
そして電話のスイッチを切ったようで二度と出なかった。
「おのれ、ベンめ。勝手な事を」
ピーターのヒステリーをなだめめるのにアーサーとブルーノは大変だった事は言うまでもない。
「大軍です。南から騎兵が数百騎駆けて来ます」
クリスは拝跪する人々を何とか立たせて場を収めようとした時に新たな軍勢の接近を知らされた。
「南から?」
ボフミエ軍ならば北から来るはずだった。
「ドラフォードの軍のようです」
「ドラフォードの軍が侵略してきたと」
ジャスティンは困惑した。
ボフミエ軍ともまともに戦えるだけの戦力は無いのに、ドラフォードの軍勢なんて相手に出来る訳も無かった。
「クリス様。ここはクリス様のお力によって何とかならないでしょうか」
ジャスティンがお願いする。
「私ですか?」
確かに王都で一部の軍関係者にはあった事があったが、東部方面軍とは直接の面識はない。
確かに第一師団長はアルバートの兄だとは聞いていたが、話が出来るかどうかは判らなかった。
「何卒宜しくお願いします」
皆に担ぎ上げられてクリスは困惑した。
なにしろまた拝みかねない。
クリスは仕方なしに砦の上に立った。
結界魔法で防御しながら近づいてくる大軍を見下ろす。
「隊長、女が立っています」
ベンに隣の兵士が声をかける。
「女だと」
ベンは目を細めて砦の上を見上げた。
「おい、あれはクリス様ではないか」
ベンが目ざとく見つけて叫ぶ。
「あっ本当だ。クリス様だ」
ベンは全騎を止めると一人前に出た。
「クリス様。ドラフォード東方方面軍第一師団第一大隊長、ベン・ドーブネルです。
クリス様をお迎えに上がりました」
と大声で言うと跪いた。
後ろに立っていた兵士たちも次々に跪く。
「えっ、ちょっと皆さん、やめて下さい」
クリスは慌てたが、ベンらは跪くのを止めなかった。
「さすが聖女クリス様。顔を見せるだけで他国のドラフォードの兵士たちまで跪くとは」
ジャスティンは感激していたが、クリスとしてはなんでドラフォードの兵士に拝跪されているか判らなかった…
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