大国王妃はクリスの父にお願いします
昨日は更新できなくてすいません。
今日もう一話更新します
「これはこれはゲーリング皇帝陛下。ようこそいらっしゃいました」
ボフミエからやってきた皇帝は王都の宮殿でサウサンプトン外務卿の出迎えを受けていた。
「お久しぶりですな。サウサンプトン外務卿。
ところで国王陛下は?」
ゲーリングは尋ねる。
「国王陛下は今会議に出ておりまして、夜の晩餐の席でご一緒させてもらうとのことです」
サウサンプトンは慌てて言い訳をする。
「中々お忙しいのですな」
ゲーリングが嫌味を言うが、
「すいません。各国から国王陛下が3人、皇太子殿下が2人、ドラフォードからは妃殿下もお越しになっておりまして。皇帝陛下に置かれましては外務の責任者の私がご案内させていただくことになっております」
ボフミエは最優先しているとサウサンプトンは言いたかったのだが、国王はドラフォードの相手をしていると気づいたゲーリングは不満だった。
「それで外務卿。明日は我が王子の晴れの舞台を見る事は出来るのかな?」
ゲーリングは話題を変える。
「それは当然講堂に国賓席を設けさせています」
「出来たら公演の前にリハーサルでも見学したいのだが」
ゲーリングは振ってみるが、
「申し訳ありません。公演前のリハは見学は難しいという事は学園側からすでに言われております」
サウサンプトンは謝る。
「そうか。息子の練習風景も見て見たかったのだが」
「ほう、皇帝陛下は子煩悩でいらっしゃいますな」
意外だという顔で外務卿は言った。子煩悩なんてボフミエ皇帝の調書にはどこにも書かれていなかったし、サウサンプトンが知る限りでも無かった。
「グリンゲン公爵の息子もヴァイオリンが見事だという事で声をかけたかったのだが…」
「ほう、皇帝陛下は多彩ですな。音楽にも興味がおありだとは」
サウサンプトンは更におかしいと思った。
「いや、わが国の者が異国で、それも文化的に優れていると思われるマーマレードで活躍するなどめったにない事ですからな」
「いやいやご謙遜を。近年ボフミエは各地から人を集めていろいろやっていらっしゃるとお聞きしておりますぞ」
何をしているかは知らないが…
と言葉の外に思いながらサウサンプトンは言うと
「ほう、そのようなうわさが…」
「何か一大事業をしていらっしゃると」
サウサンプトンの言葉に皇帝はむっとしたが、
「歴史的な事をいろいろやっておるのですよ」
横からサロモンがフォローする。
「何ほどそうですか。誠に申し訳ありませんが、明日は後夜祭が開かれまして、その時には殿下のクラスメート等ともお会いできると存じます。その時までお待ちください」
「そうですな。貴国やドラフォード、ノルディン各国の皇太子殿下等次代の世界を統率する方々がおられますからな。楽しみにしておきますよ」
皇帝は話を終わらせた。
一方のマーマレード国王夫妻もドラフォード王妃の襲来を受けていた。
「これは姉上、お久しぶりですね」
エリザベスは国王と共にキャロラインを出迎えた。
「10年ぶりかしら。陛下も妹がいろいろとご迷惑をおかけしております」
「いやいや、エリザベスは私のいたらないところを補って大変良くやってくれておりますよ」
ジョージはキャロラインの言葉に応える。
「そうだと良いんですけど」
白い目でエリザベスを見る。
「姉様。どういうことですか?」
少し剣呑になってエリザベスが聞く。
「クリスをいろいろいじめたんだって」
一番触れてほしく無い事をズバッとキャロラインは指摘する。
だからこの姉は嫌なのだとエリザベスは思った。
「まあ、キャロライン殿。その事は私も含めて反省いたしました。
それくらいで許してやってくれ」
ジョージが言う。
「いやいや、国王陛下からそのようなお言葉頂けるなんて。
まあ、エリザベスのおかげでマーマレードの聖女様をうちのオーウェンの嫁にもらう事になったし、ドラフォードとしては万々歳ですのよ」
ニコッと笑ってキャロラインは言う。
「キャロライン王妃殿下。そのような事私はまだ認めておりませんぞ」
横からミハイル卿が出てきて言う。
「まあ、ミハイル卿お久しぶりですわね」
キャロラインが言う。
「先日は家内らがお世話になりました」
エルンスト・ミハイルが頭を下げる。
「今回の婚約破棄の件。そもそもあなたが我が国からの婚約の申し込みを袖にしてエリザベスを優先したから起こった事では無くて」
強烈な嫌味をキャロラインは言う。
「いや、それは王家からのたっての願いで」
「まあ、当然自国の依頼の方をドラフォードなんていう弱小国家より優先するのは当然の話ですわね」
「いやそんな、決してドラフォードをないがしろになんて」
「だって先にお話しさせていただいたのは、我々共の方だと聞いておりますわ。にもかかわらず、あとから来た自国の方を優先されたんでしょう」
「いや、そこは」
エルンストはもうたじたじだ。
「まあ、クリスのお父様としては異国には嫁に出したくなかったという事でしょうか。」
こうキャロラインに言われれば苦笑いするしかなかった。
「私の息子を信用頂けず、自国の皇太子を信用したところが公衆の面前での婚約破棄でしたのね」
キャロラインの言葉に三方とも固まってしまった。
「どちらが信用できるか見誤ったあなたが悪いのでは無くて」
「いやあそれは…」
キャロラインの舌鋒にエルンストはたじたじだ。
「そのおかげでうちの息子は婚約者がずうーっと無しよ。
お母様がちゃんと言わないからこうなったと息子には散々嫌味言われてたんですけど。
実の息子から白い目になって言われるその身になってみてよ」
白い目でキャロラインはエルンストを見る。
「うちの息子は報われないにもかかわらず、ずうーっとクリス一筋。
それに対してエドは浮気した上に婚約破棄。どっちが誠実だと思っているのよ」
その言葉に国王も王妃も侯爵も何も言えなかった。
「今回うまくいかなかったらマーマレードとの同盟も考え直すわよ」
キャロラインは言い切った。
マーマレード側は絶句した。
そこまで言われるとは。
「しかし、キャロライン妃。ここは双方の想いが。」
「ふーん、で、前回はマーマレード王家が強引に話を通したと聞いているけど。
クリスがエドが好きで婚約したんじゃないわよね」
キャロラインは全員を見渡す。
「そうですよね。ミハイル卿」
「それはそうですが…」
エルンストは言葉に詰まった。
「じゃあ今回はドラフォード側について頂いても良いんでは無いですか」
キャロラインは言う。
「前回政略で婚約しましたが、婚約破棄されました。
で、今回再度ドラフォードが申し込みました。
今回はドラフォードのメンツをかけて申し込んでいるんです。
一度ならず二度も断られたとしたらこれは国際問題よ。
それが2回も袖にされたら本人は黙っていないし、わが国の国民も黙っていないわ」
キャロラインははっきり言いきった。
「ミハイル侯爵。オーウェンはずうーっと10年前からクリス嬢一筋です。
オタクの元皇太子みたいに婚約したのに浮気した挙句に公衆面前での婚約破棄なんて絶対にしないから
ここは賛同いただけないですか」
「しかし、貴国ほどの大国だと婚約破棄された娘に反対される方も多いでしょう」
エルンストが懸念材料を言う。
「何言っているのよ。そのような反対派はクリス自身でこの前の訪問時に叩き潰して行ったわよ。
あなたシャーロットから聞いていないの?」
エルンストは確かに一部の方々には好かれたとは聞いていた。
アルバートは反対派筆頭のバーミンガム公爵家の息子だとも。
「何言ってるのよ。反対派の最たるものがその公爵家よ。
その息子を言っては何だけど隣国の高々1侯爵家の護衛騎士にすると思うの?
クリス嬢はうちの国王とあんまりうまくいっていない軍部も完全掌握。
王弟鎮圧の時のクリスの活躍聞いて騎士の誓いを早くクリスに誓いたいという騎士候補生が殺到してるそうよ。王妃の私を差し置いて」
キャロラインは言い切った。
「今回も軍部からは行くならば何とか侯爵家からの確約もらって来て欲しいとさんざん言われたわよ。
はい、これ」
そう言うと侯爵に手紙の束を渡した。
「何ですか。これは」
「聞いての通りるの嘆願書よ」
「嘆願書?」
「そう、クリスになんとかドラフォードに来ていただきたいという趣旨が書いてあるわ」
怪訝そうに聞くエルンストにキャロラインは応えた。
「という事でミハイル侯爵。あなたの自慢の聖女様をなんとかドラフォードに頂けないでしょうか?」
キャロラインは笑ったが、目は笑っていなかった。








