江戸型航空母船
江戸型航空母船は、日本の沿岸警備隊である海上保安庁が保有していた航空母船である。商船構造を前提に設計している事から、世界初の商船空母として見られている。
同型船は2隻(『江戸』、『大阪』)
準同型艦は1隻(『竜飛』)
建造の経緯
日露戦争後、新たに整備された海上保安庁の主な任務として領海内における警備・警察任務を遂行する事であった。しかし、広大な水域を3ケタにも及ばない数の巡視船のみで担当するのは無理があった。この解決策として、当時開発されて間もない航空機を活用する方法が示された。その一環で建造されたのが水上機母船『鳴門』型であった。水上機母船の活用により一定の成果が出たものの新たな問題が浮上がした。それは水上機母船特有の高波に弱い特性により、荒天時の作業で機体や船体設備が破損する報告が相次ぎ、この問題はかなり頭の痛いものであった。そこに当時の海軍が、『山城』の主砲の上に滑走路を設けてそこから飛行機を発進させる方法を試していると話しが入ってきた。そこで海軍と共同で陸上機を運用できる船を研究する計画が立ち上がり、そうして建造されたのが日本初の改造空母『風船丸』であった。そして『風船丸』や海軍の『鳳翔』からの経験と英国の改造空母『フューリアス』を元にして設計されたのが本船である。本型は自国建造の試みに技術的未熟を抱えていた事や予算の点から船体の大まかな設計を高速輸送船を元にした。
構造
『鳳翔』と同様の起倒式の3本煙突と、安定性強化の為に船体動揺安定儀を採用した。1段式の開放式格納庫を有し、ここに12機前後の艦載機を収容した。『鳳翔』での失敗を生かしている事から、当時からした本型はかなりの完成度を誇る。本型の概要を表現すると「それなりの速力を有する輸送船に、格納庫と飛行甲板を上から載せた」ものと言える。
航空艤装
航空艤装も『鳳翔』の物を採用している事から、『江戸』の竣工直後の着艦装置は、「鋼索縦張り式の着艦制動装置」と「既倒式縦棒型制動装置」を併用装備していた。この為、着艦と引き換えにプロペラや翼を損傷する機が続出した。2番船の『大阪』では、実験も兼ねてアメリカで行なわれた着艦実験に使用された「横索式アレスティング・ワイヤー」を採用した。ワイヤーは飛行機の進行方向と直角の横向きに10本ほど張られていた。『大阪』での着艦実験に於いて「横張方式」が制動能力に優れ確実に機体を制止させることができ、事故も少なかったことから、以後の標準となる。
防御性能
海上の警察組織である事と予算低減の為に商船構造を採用している事から、軍艦と比べると脆弱性が目立つ。その変わり、当時の防火対策としては些か過剰と云える程力を入れており、燃料庫や格納庫などの可燃物の周辺には消火設備が複数設置されている上に、格納庫各所に設けられた防火シャッターなど、少しでも有効と判断された設備や設計がされている事から、当時としてはかなり高い延焼防止と火災鎮火能力を有していた。
装備
舷側部に自衛の20mm連装機銃6基12挺を装備。
特徴
「着艦誘導灯」
『鳳翔』で初めて採用された誘導用の灯火装置。複数の赤と緑の灯火で適正な侵入角度を搭乗員に知らせる装置で、着艦誘導員の技量に左右される事のない優れた物であった。しばらくして各国が着艦指導灯を元にした物を開発し、現在も陸上用も含め様々なタイプが存在している。
「シュナイダー・プロペラ」
シュナイダープロペラとは船舶用推進装置の一形態である。シュナイダーとは、開発したオーストリアの技術者エルンスト・シュナイダーを指す。このプロペラを装備した船舶は旋回性能、コントロール性が大幅に向上する。一例として船首を中心にして360度の急旋回、反転が可能であり、静止状態から船体を前後に動かすことなく回頭もできる。『江戸型』は操舵室から自船の水線部を直接目視出来ないという問題の解決策として、シュナイダー・プロペラが装備された。速力は求められていないため、技術習熟も兼ねて電動モーターで駆動する。
余談
観艦式などの式典の際に本船の超信地旋回する様子が映像が残されている。このパフォーマンスは大変好評で、それを見る為だけに人々が駆けつけた。天候等の関係で中止された場合は後日布告され、このパフォーマンスだけを行われる事から察せられる。
尚、イギリスの観艦式で同様のパフォーマンスを行った結果、翌日発行された全ての新聞の一面を埋め尽くした。