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いつか、おなじ空をともに  作者: 青山 樹
第四章 『転世者の結末』
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第十一話 『たどりついた答え』

 昨夜と同じく、今夜もシオンがクウの遊び相手をしてくれた。昨夜は一晩中絵を描いていたので、今夜は大聖殿前広場で体を動かして遊ぶことになった。脱走のおそれがないためか、見張りは一人もつかなかった。夜は境界の浸食が激しくなるため、大聖殿の周囲も危険地帯になるからだろう。

 おれ達はこの世界で広く親しまれているボール遊びをやった。サッカーに似たスポーツで、案外楽しめた。おれも人並みにボールを使った遊びは知ってるから、今度いろいろと教えてあげようと思った。

 そう。いろんなことがうまくいって、その時まだおれが生きていたら。

 たくさん、いっぱい、遊んであげよう。いや、遊びたい。クウと、カイと、みんなで。

 最後の時が来るまで、一緒にいたい。

 夜明けが近づき始めた頃に、クウは力尽きるように仰向けに倒れた。その顔にはそれはもう満足げな笑みが浮かんでいた。


「せめて部屋に戻るための体力は残しとけよ」


 そう言いながら、クウを抱きかかえる。


「あはは、ごめんごめん。ほんと楽しくって。早くカイも一緒に遊べるようになったらいいのにね」


「ああ。そうだな」


「……ソウタ? なんであたしの顔をじっと見てるの?」


「いや。なんでもないさ」


 おれが見ていたのはクウの顔じゃない。彼女の胸元にある、世界樹の紋様だ。もちろん今は衣の下に隠れていて見えないし、あのクソ野郎に脱がされていた時にも何も見えなかった。けれどおれの右手の甲には、ちゃんと紋様が浮かんでいる。あるいは、特定の条件が整わないと見えないのかもしれない。


 シオンと別れ、神霊の間へ戻る。クウはすでに眠っていて、おれは彼女をカイの隣に寝かせた。ふと思いつき、二人の手をそっと重ね合わせる。こうすれば二人が結び合われているように見えなくもない。もちろんこれは不正解だ。これはただの接触で、絆を結び合ってるとは絶対に言えない。


 絆を結び合うには、心と心を通わせ合う必要があるのだから。


 テーブルの上にはスケッチブック代わりに使っていたノートが置いてある。開いてみると、ほとんどのページにクウが絵を描いていた。思えばカイはここ最近まったく絵を描いていない。

 互いに絵を描きあうことが鍵になるのではと思ったりもしたけど、きっとこれもはずれだったんだろうな。結局、絵の具も色鉛筆も手に入らなかったし、黒一色の絵ばかりになってしまったし。


 ……だめだ。一人だと悪いことばかりが頭に浮かぶ。


 気分を変えようと思い、ノートと鉛筆を持ってソファに座る。窓から入り込む未明の空の薄明りを頼りに、おれはノートの最後のページに絵を描いた。カイとクウ、二人の姿を描いた。

 大聖殿なんてしみったれた場所を出て、どこか広い草原の上で、青く澄んだ空の下で、心地よい風に吹かれながら、無邪気に、純粋に、生きる喜びを胸に抱いて笑いあっている。そんな状況を思い浮かべながら絵を描いた。


 おれは自分の理想を絵に託した。

 もはやそれくらいしかできなかった。


 ページに小さな染みが広がる。一つ、また一つ。

 何やってんだおれは。こんなことでどうすんだよ。ラトナも言ってたじゃねえか。

 二人を守れるのは、おれしかいないんだ。

 わかってる。頭では理解できている。だけど、心の震えは止められない。


 本当に情けない話だ。


 十五年も生きてきて、別の世界に転世までして。

 それでこのざまだ。

 結局おれは、何もできないまま終わるのか。


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