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いつか、おなじ空をともに  作者: 青山 樹
第四章 『転世者の結末』
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第八話 『眠りと目覚めをなくした者』

 日没前にすべての法石の点検を終え、大聖殿へもどる。その途中で日没を告げる鐘が鳴り、カイは眠りについた。

 今更だけど、不思議なことだ。カイもクウも同じ時間に目覚めていたいと言っているのに、どうして眠りは二人を引き裂くように訪れるのだろう。


「ソウタ様。大聖殿へ到着致しましたら、すぐにクウ様と礼拝堂までお越しください」


 わかってる、とうなずく。カイが眠ったということは、じきにクウが目を覚ますということだ。今朝みたいに、あのクソ野郎が忍び込んでなければいいんだけど。

 大聖殿に到着し、眠っているカイを抱きかかえて神霊の間へ戻る。どうやら杞憂だったらしく、部屋の中にいたのはクウだけだった。彼女はおれを見ると、不安に駆られるようにこちらへ走ってきた。


「ソウタ! シオンは、シオンはどうなったの?」


「わからない。ただ、今からクウと一緒に礼拝堂へ来るよう言われてる。たぶん、シオンのことだと思う」


「わかった。すぐ行きましょう」


 カイを寝台に寝かせ、クウを連れて礼拝堂へ向かう。


「大丈夫、だよね……」


 クウが弱気な声で言う。おれはクウの手を握り「大丈夫だ」と言った。

 神官や憲兵の姿を見ることなく、礼拝堂に到着する。世界樹の彫像がある台座の上に、人の姿が見えた。後姿だったけど、ルシカと同じ修道服のような白い衣服をまとった、小柄で細身の人物であることはわかる。

 相手もこちらに気づいたらしく、おれ達のほうへ振り向いた。少し長めの金髪がふわりと揺れ、薄暗闇の中にその顔を現す。

 そこにいたのは、シオンだった。


「シオン!」


 クウは喜びの声を上げ、彼女のもとへ走り、飛びついて、胸元に顔をうずめた。


「よかった、無事で。ほんとに、よかったよぉ……」


「なあ、クウ。その、あたしはさ、あんたにひどいことした悪い奴なんだぞ。なのに」


「そんなのどうでもいい!」


「本人がこう言ってるんだ。もう済んだことだ。それよりシオン、その格好は?」


「なんでも、あたしを許すようにって御神託が出たらしい。でも野放しにするってわけにもいかねえから、大聖殿の連中の目が届くところに置いとくことになったそうだ。で、そのためにもちゃんとした服を着ろってことでこうなった」


「なるほど。まあ、いいじゃないか。似合ってるぞ」


「うっせえ」


「ねえ、シオン。今の話ほんと? シオンはこれからずっとここにいるの?」


「ずっとってわけじゃねえだろうけど、まあしばらくはここにいるだろうな」


 それを聞いたクウは「やったぁ!」と声をはずませた。


「じゃあこれから毎日一緒に遊べるのね。あたしね、絵をたくさん描いたの。シオンの絵も描いたのよ。見せてあげるから、ついてきて」


 クウは楽し気な足取りで歩き出す。その後ろをおれとシオンはついていった。


「夜中だってのに、元気なもんだねぇ」


「日が出ている間はずっと眠ってるからな」


「そういえば、カイはどうしてるんだ?」


「カイは眠ってるよ。日が出ている間はカイが起きてて、日が沈んでからはクウが起きるんだ」


「じゃあソウタは本当に一日中二人につきっきりなのか。転世者なんて神霊のおまけみたいなもんだとおもってたけど、案外大変なんだな」


「まあな。おれだって正真正銘の役立たずってわけじゃないんだぜ」


「それでよく体がもつな。いつ寝てるんだ?」


「いつって、それは」


 え?

 あれ?

 ちょっと待て。

 そういえば、おれは、いつ寝てるんだ?

 シオンに言われるまで、今の今まで、まるで気にしてなかった。

 思い返してみれば、おれはこの世界に来てから、一度も眠ってない。


 これはいったい、どういうことなんだ。


「ちょっとー。二人ともー。なにしてんのー。早く早くー」


 クウがおれ達を呼ぶ。シオンは「はいはい」とクウのもとへ走った。

 その、クウとシオンの間に、ラトナが立っていた。

 クウにもシオンにもラトナの姿は見えてないらしく、二人は彼女に対して何も反応を示さなかった。

 ラトナも二人には何の反応もしなかった。彼女は、おれの顔をじっと見つめていた。無言のまま、ラトナはおれのそばへ歩いてくる。おれはただ、呆然と突っ立っているだけだった。

 おれのすぐ正面まで来たとき、ラトナは言った。


「二人が神霊の間に入ったら、あんただけもう一度礼拝堂まで来い」


 ラトナはおれのそばを通りすぎる。振り返った時、すでにラトナの姿は消えていた。

 嫌な予感がする。

 神霊の間に戻ると、おれは適当に理由を話して礼拝堂へ戻った。

 ラトナは世界樹の彫像のてっぺんに座って、退屈そうにあくびをしていた。


「言われた通り、戻ってきたぞ」


「おお、来たか。案外早かったな」


「シオンを許すよう御神託を出したのは、ラトナなんだな?」


「まあな。あの嬢ちゃんのおかげでクウもあんたも成長できたし、ほんのお礼や」


「ありがとう。クウの友達を、助けてくれて」


「なんやなんや、えらいまっすぐな目ぇでんなこと言いよって。気色悪いなぁ」


 ラトナは軽く咳払いをすると、彫像から飛び降りた。


「まあそれよりも、や。話さなあかんことがあるんや」


「おれも、ラトナに聞きたいことがある」


 おそらく、ラトナが話すことと、おれが聞きたいことは、同じ内容のものなのだろう。


「あんたの体についてな」

「おれの体についてだ」


 答え合わせまで、たった一秒すらかからなかった。


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