第二話 『転世の道』
おいこらちょっと待て、なんだこの仕打ちは!
とにかく浮上しようと必死にもがく。
しかし何かに引きずり込まれるように体はどんどん沈んでいき、水面に見える光は遠ざかっていった。
しばらくして、息苦しさをまったく感じていないことに気づく。
口に水が入ってくる感じはしないし、目や耳も痛くない。
水に浸かっているという感覚もなく、水温も感じなかった。
これは一体、どういう状況なのだろうか。
改めてまわりの様子を見ても、暗闇以外には何も見えない。星の光が全て消えた宇宙空間のようだ。
手や足を動かしてみても、何の感触もない。
……ん? 待てよ。
どうして自分の体は、はっきりと見えるんだ?
「いよいよわけわかんねえな、これ……」
ためしに声を出してみると、普段と同じように聞こえた。
しかしこれで現状の謎が解決されたわけではない。周囲には何も変化がなく、おれは沈み続けていた。
もしかするとこの空間は、おれがいた世界とこれから行く世界の境界みたいなものなのかもしれない。
だとしたら、今は移動中ということなのだろうか。こういう面倒な手順は省略してほしいもんだ。
気がついたら別世界に転世していたとか、そういうサービスに変更するべきだろう。
今度ラトナに会ったらそう提案してみるか。
しかし……。また、会えるだろうか。あの自称神様に。
それにしても、おれはどこまで沈んでいけばいいんだ。
このまま地獄の底まで落ちていくんじゃないかと恐怖すら感じてしまう。
沈むより浮上するほうが天国に召されているようなかんじがしてまだ気が楽だってのに。
そうだ。もしかして……。
逆立ちをするように体を動かし、頭と足の位置を逆転させる。
すると思った通り、おれの体は浮上していった。
どうやらここではおれが何かしらの基準になっているらしい。
やがて、はるか上のほうに水面にゆらめく光のようなものが見えた。
その光を目指して体を動かす。それにともない、光はどんどん近づいてきた。
あと少しで光に手が届く。
そこまで来たところで、光は爆発するように弾け、目の前が真っ白になった。