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いつか、おなじ空をともに  作者: 青山 樹
第三章 『光に暴かれるもの、闇に守られるもの』
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第四話 『小さなトモダチ大活劇』

 しまった、と思った時にはすでに手遅れだった。

 エポラッテは口元に下劣な笑みを浮かべていた。


「うふふ。も、し、か、し、てぇ……、アンタ、困ったサン? 困ったサンだから、おいらに助けてほしいのかな?」


「…………ああ、そう、だよ」


「んんんんんっえエエエエぇぇっポポポポポポ―っ! なあんだ、アンタ困ったサンだったのかぁ! なら早く言いなよぉ、アンタはおいらのトモダチなんだから、もちろんおいらはアンタの力になるさ!」


 えっへん! とエポラッテは胸を張る。


「ところでアンタ、こんな言葉知ってるかなあ? 親しき中にも礼儀あり! エポっ!」


 知ってるさ。お前がおれに何を望んでいるのかもな。

 しかし、ここは奴の力を借りるしかない。それ以外に方法はないのだから。

 クウを地面に寝かせ、奴に向かって土下座をする。そして絞り出すように「お願いします」と言った。


「うっぴょーっ! エポポポポポポ―っ! アンタってばほんと土下座がお似合いだね! 今度からアンタのこと、『ドゲザエモン』って呼んじゃおうかな。いいあだ名だと思わない? 思うようね? うふふっ」


 クウのためだ。

 カイのためだ。

 だからおれは耐えなければいけない。

 それが二人の生みの親である、おれの責任ってもんだ。


 そうだ。

 あいつらとはちがう。

 おれは、おれを見捨てたあいつらとは……。


「まったくぅ、そこまで頼み込まれちゃ断れないねぇ。ここで断っちゃぁおいらの仁義がすたるってぇもんだぜぇ! うむうむ苦しゅうない。面を上げよぉー、なーんちゃって。よーし! おいらがんばっちゃうぞぉ! って、言いたいところなんだけどぉ、アンタ図体がデカいから、おいらがいつも通ってる抜け穴は通れないと思うんだぁ。ごめんねぇ、期待させちゃってぇ。おいらのウッカリさん! うふふ」


 殺す。

 クウは眠っているし、誰も目撃者はいない。

 全力でこいつを始末してやる。


「うふふ。じょーだんじょーだん。おいらが大聖殿に入ってさ、通用口の閂を『えいやっ!』て外してあげるよ。アンタはそこから入ればいいって寸法さ。おいらってばお利口さん!」


「わかった。じゃあそれで頼む」


「オッケーオッケー! 万事よろしくこのエポラッテにぃぃぃ、お任せエポっ!」


 エポラッテは作戦にとりかかる軍人のように敬礼すると、ご機嫌な子どものごとき足取りで大聖殿へ向かった。おれはクウを背負い、無事にことがすむよう祈りながらエポラッテの後を追った。


 大聖殿の正門前に到着する。どこをどう通ったのか、すでにエポラッテは正門の向こう側にある広場にいた。奴はわざとらしく匍匐前進をしたり、古典漫画の泥棒がするような抜き足差し足忍び足を真似たりしながら広場を進んでいる。どうやらおれの窮地をとても楽しんでいるらしい。

 あんなものにすがらなけらばならない自分が、ひどく惨めだった。

 そうこうしているうちに、エポラッテの姿は夜の暗闇に飲み込まれるように見えなくなった。

 ていうか、まずは正門を開けてくれよ。これじゃ礼拝堂への通用口が開いたって意味ないじゃないか。

 ということを考えていた、まさにその時。


 ガラガラガッシャーンっ!

 ドタバタ! ドタバタ!


 大聖殿のほうから騒々しい物音が聞こえた。

 大聖殿の方から憲兵らしき人の怒声が飛んでくる。

 それに混じって何とも間の抜けた悲鳴が聞こえてきた。


 エポポっ! エポポっ! エェッポポポポポーっ!


 野郎。しくじったな。

 せわしなく響く足音が夜の静寂を踏み砕き、大聖殿の鐘は非常事態を訴えるように鳴り響く。やがて礼拝堂の門扉が地鳴りのような音を立てながら開き、そこからこちらへ走ってくるエポラッテの姿が見えた。

 なんだろうなぁ。絵的には道は開かれたのに、完全に道はふさがれたって感じだ。

 エポラッテは正門の閂を外し、おれの前に飛び出した。


「エポポ! なんてこったい、気づかれちゃった! でも大丈夫。おいらが奴らを引き付けるから、その間にアンタは大聖殿の中へ入るんだ! さあ、早く! おいらにかまわず先に行けぇー!」


「いやもう無理だろ。見ろよ。憲兵の人がこっち向かって走ってきてるし」


「なにさこの意気地なし! バカ言ってんじゃねえやい! おいらの頑張りと『ユウジョウ』を無駄にするってのかよ! のろま! へたれ! ごみ! 屑! こんちきしょうめ!」


 エポラッテは罵詈雑言をまき散らし、おれのすねを全力で蹴りつけた。骨の髄にまで響くような激痛に思わず悲鳴を上げる。そんなおれにかまうことなくエポラッテはスタコラサッサと走り去った。

 それからほどなくして、憲兵が息を切らしながら開放された正門から飛び出してきた。


「くそ、またしても逃げられたか……。ん? そこにいるのは誰だ!」


「待って、くれ。おれは怪しいもんじゃ、あ」


 相手の顔を見て驚いた。そこにいたのは地下牢で会った憲兵の兄ちゃんだった。

 むこうもおれに気づいたらしく「あ」と短く声をもらした。

 これはチャンスだ。うまくいけば憲兵の兄ちゃんに協力してもらって状況を打開できる。


「ひさしぶりっすね。いや、ほんと、お勤めごくろうさまで」


「失礼いたしました!」


 憲兵の兄ちゃんは叫ぶように言うと、その場に平伏した。


「転世者様と神霊様であるとは気づかず、大変無礼な態度と言動を。どうか、お許し下さい!」


「え、え? いやいや、全然いいってそんなの。いいからさ、顔をあげてくれよ」


 しかし憲兵の兄ちゃんは頭に地面をこすりつけたまま顔を上げようとしない。すねの痛みもようやくましになってきたので、おれはなんとか体を起こし、クウを抱きかかえる。

 そうこうしているうちに、礼拝堂から続々と憲兵が現れて、おれ達を取り囲んだ。


「なんだよ、どういう状況だ、これは」


「言ったはずだ。その神霊を大聖殿の外へ出してはならないとな」


 神官長の声が聞こえた。憲兵達は即座に隊列を組み、神官長を出迎える。神官長はおれのすぐ正面まで来ると立ち止まり、奇妙な紋様が施された面を被ったまま、おれと向きあった。

 ここまできたら仕方ない。自分の正当性をひたすら主張するしかないだろう。


「あれは事故だ。不可抗力だ」


「世界樹の間で神器を奏でたのは、お前達の意思によるものだ」


「おい、まてよ。どうしてそれを知ってるんだ」


「答える必要などない。お前達はただちに神霊の間へ戻れ。この件の処分は、次の御神託によって決定されるだろう」


「御神託って、それはラトナが」


「連れていけ」


 憲兵達がこちらに詰め寄ってくる。もはやおれに出来ることは、何も残されていなかった。


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