第十一話 『日の出とともに目覚めるは』
二人が目覚めるのを待ちながら何をするでもなくぼんやりとしていた時、東側の窓からかすかな明かりが部屋の中へ入り込んだ。この世界でも太陽が東から上るかどうかはわからないが、とりあえず東側だと考える。自分で基準をつくらなければ、いろいろと面倒ごとが多いのだ。
窓から差し込む不確かな光は、ほどなくして黄金色に輝く朝日の光に変わった。空の果てから太陽がその姿を見せたのだ。それを証明するように、どこからともなく鐘の音が響き渡る。
そして、鐘の音が止んだころに神霊の男の子が、いや、カイが目を覚ました。
カイはゆっくりと体を起こし、眠たげに目をこする。そばで眠っているクウの姿を見つけると、彼女を起こそうと思ったのか少し遠慮がちに彼女の体を揺さぶった。しかしクウはまったく目を覚ます気配を見せない。それでもカイはクウを目覚めさせようとがんばっていた。
そんなカイを見かね、おれは思い切って声をかけた。
「えっと、おはよう。よく眠れた?」
声をかけられて、初めておれの存在に気づいたのだろう。カイはビクッと体を震わせ、寝台のシーツを引っ掴みながらこちらに顔を向ける。カイの深みのある青い瞳は、完全におびえていた。
「あ、あ……、あ、あなた、は、だれ……?」
男の子にしてはか細くて、透明な響きのあるきれいな声だった。
「そんなに怯えなくていい。おれは颯太。何言ってるかわからないかもしれないけど、君たちはおれが神器を奏でたことでこの世界に生まれたんだ」
「それって、その、あなたが僕たちのお父さんなの?」
おびえた眼差しを向けながら、甘みのある柔らかな声でカイは言った。
……なんだろう。この感覚は。
父親というのも、案外悪くないかもしれないな。
「お父さん、ではない、かな。おれは人間で、君らは神霊だし。なんか自分たちにそういう自覚はないの?」
「…………ごめん。よくわからない」
「そっか。まあいいさ。これからわかっていけばいいのさ」
うん、とカイはうなずく。
なんだろう、このかんじは。
なんかこう……、いけないことをしているような気分だな。
「それにしても、普通に会話ができるんだな。昨日生まれたばかりなのに」
まあ、そのほうが不都合なくコミュニケーションをとれるから好都合なんだけどさ。
「昨日?」
「君ら二人がこの世界に生まれたのが昨日なんだよ」
「どうしてソウタは、ぼくたちを生み出したの?」
「あー、まあ、その、色々と事情があるんだ。話すと長くなるけど、かまわないか?」
うん、とカイはうなずいた。
というわけで、おれは今に至るまでの一部始終を話した。
おれが別世界からの転世者であること。
おれ達がいるこの都は、都の守り神となるための神霊を欲しがっていること。
神霊は転世者にしか生み出せず、おれは神器を奏でて二人を生み出したこと。
「二人が生まれてきてくれてほんとに助かったよ。もし二人が生まれてこなかったら、今頃おれは殺されていたかもしれないんだからさ」
カイはほんのわずかに笑みを浮かべたが、すぐに表情をくもらせる。
「つまり……、ぼくとクウは、この都を守るためだけに、生まれてきたってことなんだね」
その言葉を聞き、今更ながらかなり残酷な事実を伝えてしまったことに気づいた。
自分が生きる理由を誰かに一方的に決められるのがどういうことなのか、おれはよく知っているはずなのに。
「それでも、二人が望まれて生まれたことは事実だ。あまり暗く考えることはないさ」
そう言いつつも、おれにこんなことを言う資格があるのだろうかと自問する。
カイも考えを巡らせるように口を閉じ、下を向いた。
部屋の中に日の光が満ちていくにも関わらず、おれ達は時が停滞したかのように沈黙し続けていた。
この場の沈黙がじわじわと重みを増し始めた時、ドアをノックする音が聞こえた。




