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いつか、おなじ空をともに  作者: 青山 樹
第一章 『世界に示す絆の姿』
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第九話 『別世界での第一夜』

 耳の奥にかすかな痛みを感じるほどの異様な沈黙が、世界樹の間を満たしていく。

 おれはどうすることもできずその場に突っ立ったまま、互いの手を握りあったまま倒れ伏している男の子と女の子の姿を眺めていた。

 二人ともすやすやと眠っているらしく、その姿からは悲劇性など一切感じられない。

 神官長はおれのそばを素通りし、二人のそばへ行って、何かを確かめるようにそれぞれの頭に触れた。

 やがて神官長はこちらに振り向き、厳かな口調で言った。


「神霊は無事に誕生した。これをもって、貴様が転世者であることが証明された」


「……ということは、おれは処刑されないってことだよな?」


 どうやら命拾いしたらしい。と安心した時、やたら暑苦しいおっさんの声が飛んできた。


「もちろんでございますぅっ!」


 議長が叫ぶように言った。直後、初老とは思えない身のこなしでおれの前に議長が現れた。

 彼はひざをつき、ははー、とひれ伏して地面に頭をこすりつける。


「どうかご安心ください! 我が都を守護する神霊を生み出してくださった転世者様を処刑するなど、そんな恐ろしいことをするわけがないではありませんか!」


「いや、だってさっきあんたが」


「その節は! その節は、どうかお許しくださいませぇっ! 私のごときゴミ虫が調子に乗ってしまい大変不快な思いをさせてしまったことは一生の不覚でございます! どうか! どうかお気のすむまで私の頭を踏みにじってください! さあ、さあっ!」


 議長は両手をついたまま地面にぐりぐりと頭をこすりつける。

 転世者と証明されたとたんにこれか……。うん。サイコパスかな?


「いや、べつにいいって」


「ゆ、許して下さるのですか? ありがとうございます。ありがとうございますうぅ!」


 議長は白髪を振り乱しながら何度も何度も激しく頭を下げる。

 土下座をしたりされたりと、おれもなかなか忙しいなあ。

 まあ、あれだ。人生ってのは大変なんだ。よくわかんねえけど。

 そんな議長にかまわず、神官長は今まで通りの態度と口調でおれに言う。


「今後の貴様の処遇については、次の御神託をもって決定する」


「とりあえず、命の保証はしてくれるんだろうな?」


「当然だ。転世者にはそうするだけの価値がある。ルシカ」


 名前を呼ばれ、ルシカはややかすれた声で「はい」と返事をする。


「転世者と神霊を最上階の神霊の間へ連れて行きなさい」


「……かしこまりました。神官長様」


 ルシカは神霊たちのもとへ走る。おれも彼女に続き、二人のそばへ走った。


 神霊の間はこの大聖殿の最上階にあるという。

 おれは男の子の神霊を、ルシカは女の子の神霊を抱きかかえて神霊の間を目指した。

 見た目こそ人間の子どもそっくりなのだが、重さはほとんどまったく感じない。体温はかなり高く、抱きかかえていると日の光を体いっぱいに浴びているような熱を感じた。こういうのも、神霊という存在の故だろうか。 


 うす暗い建物の中を、おれ達はひたすら歩く。

 階段を上り、通路を進み、また階段を上るをくり返す。砦だったということもあり、大聖殿はかなり大きな建物のようだ。

 かなり歩いたなと感じた頃に、ようやく神霊の間に到着した。そこは住居のようなつくりの広々とした部屋だった。部屋の形は正八角形になっていて、すべての壁にはバルコニーへと通じる大きな窓がついている。窓からは星明りがとりこまれ、部屋の中を静かに照らしていた。

 内装は中世ヨーロッパ貴族の邸宅の一室といったかんじで、ベッドやソファ、テーブル、立派なつくりの書き物机などが置かれている。ベッドは四人家族が全員並んで眠れそうなほど大きく、立派な天蓋までついていた。ベッドではなく寝台と言ったほうがいいかもしれない。

 ルシカは女の子の神霊をそっと寝台に寝かせる。


「この部屋にあるものは自由に使っていただいて構いません。詳しいことは、また次の御神託を頂き次第ご連絡いたします」


 そう言うとルシカは頭を下げ、部屋から出ていった。

 聞きたいことや話したいことはたくさんあるけど、それはまた別の機会にするしかないらしい。

 とりあえず男の子の神霊を女の子のそばに寝かせる。

 やれやれ、とおれはソファに腰を下ろし、今までの疲れや緊張を吐き出すようにため息をついた。


「さて、と。これからどうなっちまうのかな……」


 窓の向こうに広がる夜空を眺めながら、何気なく言ってみる。


「今から先のことを考えてもしゃあないやろ。とりあえず、命拾いしたことを喜んどきや」


「うぉおおおいっ!」


 いやもう、口から心臓飛び出るかってくらいビビったね。

 何の前触れもなく、いつの間にか、ごく自然に、おれの隣にラトナが座っていたんだから。


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