#3
「はじめまして、マスター。私はモンテクリストNo.3。よろしくお願いします」
吐き出した煙の中心に光の玉が現れたかと思うと、次の瞬間にはそれが人の形になり、小柄な女の子の姿になった。葉巻の女神とか精霊って、光の玉から人型に変化するお約束なんだろうか?
かわいらしい声でモンテクリストNo.3と名乗った女の子は、僕の目を見て微笑んだ。肩ぐらいまでの長さの茶色い髪、大きな茶色い瞳で、優しそうな雰囲気を纏っている。そして、すごくかわいい!葉巻の女神様、ありがとう!
「はじめまして。僕はアキラ。これからよろしく。君は僧侶とか神官みたいな格好をしてるけど、もしかして、回復魔法とか得意なの?」
内心の喜びを隠しつつ、紳士的に挨拶をする。第一印象は大事だ。
モンテクリストNo.3は、青いラインが入った白いローブを着ていて、まるでゲームの僧侶とか神官みたいな格好だ。胸の辺りには、ありがちな十字架ではなく、モンテクリストのリングのデザインの紋章が入っている。
もしかして、モンテクリストは浄化力が高い葉巻だから僧侶っぽいのか?
「はい。私は回復魔法、浄化系の魔法が得意です!」
輝く笑顔で答えてくれる姿は、やっぱりとてもかわいい!葉巻の女神様、本当にありがとう!こんなかわいい娘と二人旅とか幸せだ!
でも、ちょっと待てよ?回復役の女の子と二人だけのパーティってことは、僕が前衛なの?無理無理。モンスターとか倒せないんだけど。
「マスター!葉巻の火が消えてしまいます!」
モンテクリストNo.3の慌てた声で、思考の海に潜っていた僕は我に返った。かわいい女の子との対面と、戦術面での問題点に思考がいってしまったせいで、葉巻を吸うのを忘れてた!
葉巻は一般的な紙巻きタバコと違って燃焼材とか含まれてないから、放置していると自然に火が消えてしまう。そして、火が消えたら、この娘の召喚も解除されてしまうのだ。
慌てて葉巻を吹かし、火種を大きくする。危ない、危ない。気を付けないと。
「ごめん、ごめん、つい……」
「つい?どうかしましたか?」
モンテクリストNo.3がかわいくてとは言えないから、今後の事を考えてたと説明して誤魔化す!嘘は言ってない!
「そうだったんですね。でも、大丈夫ですよ!私の浄化魔法はモンスターにも通じますから」
この世界のモンスターは、魔力の素になる魔素とかいうもので構成されているらしい。邪悪な意思に染まった魔素が集まって、モンスターが生まれるんだとか。そして、その魔素を浄化できるというロジックで、浄化魔法が有効らしい。
それにしても、誤魔化しても誰にも突っ込まれないって良いね!この娘は素直だし。
「それに、マスターもこの世界での一般的な冒険者並みには強くなってるんですよ。年齢も向こうの世界より若返ってますし。たしか、小太刀が得意なんですよね?武器さえ手に入れれば、それで戦えますよ」
なんと、僕も戦えるのか!この世界に来て身体が軽く感じるのは地球よりも重力が弱いのかと思ってたけど、若返った上に身体能力が上がってたからだったのか。女神様からは聞いてないぞ!
学んできた小太刀やスポーツチャンバラが実戦で役に立つ日が来るとは……。嬉しいような、そうでもないような。複雑だ。
それにしても、僕が小太刀を扱える事を、なんでこの娘が知ってるんだ?初対面なのに。
「どうして、僕が小太刀を扱える事を知ってるの?」
ストレートに質問してみた結果、僕と契約するにあたって、ある程度の事は女神から聞いたという回答が。個人情報保護法、どこいったよ!彼女達は人間じゃないから関係無いのか。
「街の近くは比較的、モンスターも弱いですから、試しに戦ってみますか?私の魔法をお見せしますよ」
彼女の提案で、試しに街の近くでモンスターと戦ってみる事になった。たしかにお試しは必要だから、渡りに船だ。
で、僕は武器を持ってないから今回は見学。女の子だけにせ戦闘を任せるのはう後ろめたい気もするけど、マスターとしてモンテクリストNo.3の戦闘力を見極めないといけないしね。これはマスターの仕事なんだ。うん。