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/* 6 */

「ホントに存在したんですね……事象の地平線イベントホライズン


 眼前に広がる光景は常軌を逸していた。

 空を切り裂き門が開かれる様子は、知っている言葉で例えることが出来ない程だった。

 どこからか声が聞こえる。


――アナタは選ばれたのです――

――喜びなさい、そして哀しみなさい――

――現存するモノに別れを告げるのです――

――新たな出会いに感謝するために――

――幸か不幸か、アナタの記憶は消えません――

――アナタもまた、選ばれたのです――

――怒りなさい、そして楽しみなさい――

――奪われる悔しさは痛いほどわかるはず――

――安心しなさい、与えられたモノはアナタを満足させます――


 神秘的かつ高圧的な物言いをする声の主は、度々そうやって押し付けるように助言らしきものを残してきた。

「うるさいですね……」

 まったく煩わしい、いつだってそうです。素直に従うことも抗うことも上位者の思うツボなのですから。

 与えられた最低限の知識が如何ほどか見当もつきませんが、両の掌に埋め込まれた月の欠片がゲートに共鳴するかのように妖しく光っていることと胸の高鳴りがこれから起こることを示しているのでしょう。


 手のひらの上で転がされていようと構いません。世界に抗うなど造作もないことです。

「ファシリテーターの選出が分かり次第、出発しますがそちらの状況は?」


――えぇ、じきにお知らせします――

――ゲートが開通する頃には最終儀式も完了するでしょう――

――実は選出は既に決まっていて、旅立ちの直前に知らせているのです――

――選ばれし存在の名は――


「……そう、ですか」

 隠されていた事に対する憤りは少なからずあるが、今はどうでもいい。

 初めて聞くにも関わらず、その名に何か運命めいたものを感じる。

 これがファシリテーター。この方が……


――それでは、これにて失礼致します――

――西蓮寺ヒカリ様――

――使命をお忘れにならぬよう、気を付けてくださいませ――


――選出者、『百目鬼モモ』を亡き者にし、座を継ぐのです――


「フッ、アナタたちの思い通りにはさせませんよ」


 その選択もまた想定されているのでしょう。それでいいのです、下位世界の足掻きを見せてさしあげましょう。まぁ、彼の御仁がそれに値する人間であればの話ですけどね。


/* 7 */

もぐもぐ、もぐもぐ、もぐもぐ。

 簡素な飾り付けに囲まれた温かみのある部屋、清掃の行き届いたその部屋でひとりケーキを食べている。私の好きなチーズケーキだ。ちなみにリオは、毎年のように食べているモンブランを食べ終わりそそくさとリビングから出て行った。

 日は既に沈み、カーテンが閉められている。布と布の隙間から淡い光がのぞいている。

 最期の晩餐という不謹慎な名前は照れ隠しのようなもので、今日は誕生日パーティという訳だ。

 宿主である入間リオは、部屋に用があると行ったきりである。大方、誕生日プレゼントでも用意しているのだろうが、私も準備万端だ。

 早すぎるお返しではない。

 入間リオと私は、同じ日に生まれたのだから。


「モモ、ごめんごめんどこに置いたか忘れて探すのに予想以上に時間かかっちゃたよー」

「えぇ、構わないわよ。それでプレゼントに何をくれるのかしら」

「何で私がモモに渡すプレゼント探しに行ってて、気恥ずかしくてモジモジしてたの分かったの!?」

「……。エスパーよ」

「な、なんだってー!」

「冗談よ、サイキッカーよ」

「な、なんだってー!」

「冗談に決まってるじゃない、パトリオットよ」

「な、なんだってー!」


 リオは頭が悪いのかノリが良いのか、私の冗談に対して全力で反応してくれる。

 それに負けじと、私も全力で冗談を言うのだ。決して私のせいではない。

 リオがモジモジしているのがいじらしく、さっさとプレゼント交換を済ませてしまうことにした。

 丁寧にラッピングされたプレゼントを渡すと、頬を染めながらその白く細い指で丁寧に

接着部分を剥がし、中身を取り出した。

「気に入ると良いのだけれど」

「ん、おぉー! なにこれすっごい綺麗な、首輪?」

「チョーカーっていうのよ。まぁリオはペットみたいなものだしそういう認識でも構わないわ」

「ぺ、ペットって……でもチョーカー自体は結構カッコ良いかも……うん、アリガト」


 いつもの覇気はなく可愛げな声で告げる感謝の言葉によって、胸がポカポカとしたもので満たされた。

 リオはプレゼントを受け取り、それを部屋の明かりに照らして嬉し気にしている姿をみている。


「着けてみる?」

 私が提案してみると、より一層表情が明るくなった。

「うん! お願い!」

 そう言って、私に背を向け後ろ髪をもたげる。

 肩にかかる程の長さのそれは、白銀の輝きを放ち、サラサラと指から零れる。

 毛先は光の当たり具合で薄い桃色のグラデーションを見せる。

 口を閉じてじっとしていればお淑やかで気品溢れているのに、中身はかなり残念だ。

 指先が首筋に触れると艶めかしい声を発す。勘弁してくれ、ギャップ萌えたまらないです。

「はい、でーきた」

「おぉ……ど、どうかな?」

「うん、似合ってるよ。凄く」

「えへへ……」


 あ、そうだ。と、照れ隠しをするように私へのプレゼントを探る。

「はいっ、お誕生日おめでとう」

「これ、は……」

「ロケットだよ。知らない?」

「いや、それは知ってるけど、なにこの写真」

「写真? むふーんいいでしょ、私が選んだんだよ」

「……私、目が半開きなんですけど」

「WA・ZA・TO☆」


 写真の私は、半開き界のレジェンドを獲れるほどの見事な半開きだった。

 先ほどの照れによる反動か、目と舌と両手で精一杯の変顔を作って煽り倒している。

 本当に可愛くないやつだ。

「ひどい……喜んでくれると思ってプレゼント選んだのに……グス」

「ごごごごご、ごめん! 冗談だよぉ? 泣かないでよぉ」

「冗談よ」

――キリッ

「あわ、あわわわわ」

 リオは急展開に脳がキャパシティオーバーしてしまったようだ。

「写真なら今撮ればいいじゃない」

「もう……カメラ取ってくる、ブー」


 すっかり拗ねてしまったリオは、ロケットペンダント用の写真を撮る為にデジカメを取りに行ってしまった。

 立方体を模したペンダントは、ルービックキューブのように更に小さな立方体から構成されている。

 ずっと見ていたくなるような魅力があるが、一体どこで買ってきたのだろうか。


「お待たせ―ってあれ? アレアレ? なーに、私からのプレゼント気に入っちゃった? 私の審美眼に恐れおののいたかしら?」

「うるさい」


パシャッ――

「写真出来たらお開きにしましょうか」

「え~、モモもう帰っちゃうの?」

「文句言わないの、私も一緒に片付けるから」

「へいへい」


 リオとは何かにつけては一緒にパーティーとは名ばかりの会合を開く。

 それは、パリピやウェイ系など他の追随を許さない確固たる意志の元開かれるパーティーである。

 要は、そういうことだ。

 どういうことだ。

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