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百目鬼モモは選ばれし存在であることをワスれていました

ささき

/* 次元下の住人 */

座標軸と時間軸――

私はこの場所に立っている。

この瞬間の成立は二つの軸が定める。



座標軸――

この地球における緯度経度は塵一つの誤算も許さない。

それは宇宙規模で不変的なこの惑星内だけでの話だ。

我々は変化に気付けない。

いや、気付く必要がない。

二次元の住人に三次元の説明をしたところでその者には理解できない。

いや、理解できないのではない。

変化に気付けないのだ。

例え言葉での説明に理解したとしても理論に基づいて図解しても、

二次元の住人では変化を感知することは出来ないのだから。


まぁ、次元レベルの話ではないので惑星の移動に少なからず変化はある。

それらの位置、星座とそれによる文化、日食や月食等の重ね合わせによる現象。


空を眺めれば常に宇宙は変化を見せる。

宇宙規模、地球規模。

大半の人にとってそれはどうでもいいことである。


有限の時間の中で如何に人生を過ごすか。

生きることに意味など無いのに無理やり意味を見出して人々は生を授かるのだ。



時間軸――

時とは残酷なもので、死によって人々は引き離される。

その人と過ごした場所、座標軸が寸分の狂いもなく正確だったとしても、時は二度と同じ数値を示すことは無い。


だから人は時間の遡行を目指すのだ。

愛する人にもう一度会うため、あの日の失敗を無かったことにするために。


そして、本題――

三つ目の軸は存在するかもしれないし、そうでないかもしれない。

私が造るのかもしれないし、神が創造して最初からあるのかもしれない。


/*  1 */

遥か昔から地球とその衛星である月は密接な関係を持っていた。

宇宙から稀に飛来してくる月の欠片、特筆すべき性質はないと教えられていた。しかし、ある日発見された月の欠片は従来の物と見た目も構成している成分も未知の物であり、その日から頻繁に発見されるようになった。

それから何十年と時を経ているが、未だに全貌を露わにしていない。

現在の科学技術ではその性質のすべてを解き明かすことが困難で、研究は滞っている。

しかし、その研究の副産物として効率の良いクリーンエネルギーの開発が進んでいる。

解明されていないが故に危険視されており、未知のエネルギーを利用する事に対する反対派との争いは絶えず行われている。

幾つもの月の欠片のうちの一つ、ただ一つによる恩恵だ。


これは月の欠片から引き出した力の一端でしかないと言われている。

人々の生活の支えにはもはや必要不可欠と言えるレベルで、長年付き添ってきた。


/* 2 */

「ねー聞いた? もうすぐ世界がヤバいってさ!」

「世界がヤバい……なにそれ、毎年恒例の人類滅亡? よく飽きないね」

「チッチッチ、トンデモ大予言とは断じて違うのだよ。終わるのはアレ!」

「あれ?」


学校からの帰りと思しき少女の一人はムフフンと満足げな表情で人差し指を空へと突き上げ、もう一人は呆れ顔に口を半開きのまま指差しする方へ視線をやる。


『月』

ムーン、ルナ、古くから太陽と対比されることが多く太陰とも呼ばれた。

日輪ニチリンという呼び方に沿い、月輪ガチリンとも。


「月ぃ? ふぅーん、月でも落ちて来るって言うの? 大変なことになるわね~」

「もーー! そうじゃないの! 月がドカーーンって無くなっちゃうんだってさ」

「うーん。どうせ嘘なんでしょうけど、ホントにそうなったら少し困るわね。この辺り一

帯の電力って新エネルギーが中心らしいし、通信システムに障害が起きたりするのか

しら」

「電気だけじゃないよ、隕石も沢山降ってくるようになるかもだって! 今までオレらの為に隕石受け止めてくれていた月の兄貴パネーッす! 背中の傷を見せないとかカッケーー!」

「……というか、それもトンデモ大予言の類でしょ」

「そうだっけー」


茜色に染まる夕焼けに優しくぼんやりと光り輝く月、日が沈み月は満ち欠け日が昇る。

一日としてそのルーチンから逸脱することはない。

機械仕掛けなのかもしれないな、それほどまでに精密に繰り返す。


「そいでさー、今週末に最期の晩餐パーティしようよ! 土曜日は空いてる?」

「土曜日かぁ……大丈夫よ、空けとくわ」

「やったー! 買い出し楽しみ~♪」

「……最期の晩餐ってネーミングは最悪だけどね」


少女たちは笑い合う、内容などあってないようなものでコロコロ移り変わる。それでも毎日が楽しくて仕方ない。

あぁ、こういうのを平和って呼ぶのだろうね、なんて思いながら。

二人は立ち止まり、また少し談笑をした後に手を振り別れた。


/* 3 */

――モモは凄い。

別に特別賢いわけでも身体能力が優れているわけでもない。

それにそんなに性格も良くない、モモが聞いたら怒るのだろうか。

いいや、200%怒らないだろう。

彼女はいつもケロッとしてこういうだろう。

『そだよー? 何か問題でも?』

たぶん強がりではないと思う......

モモは凄いよ。何事も俯瞰的に捉えていて外野からの観測者みたい。

干渉しているようでしていないような、なんだか不思議な子。

一緒にいて飽きないんだよね。


それに比べて私は、私は……うーん、負けず劣らず?

まぁ、過度に羨むことも少ないし必要以上に自分を卑下することもない。

私達はもう少し思春期らしくドギマギするべきだと思うのだよ。

はぁ~恋の一つや二つ経験するものだと思っていたのに。

そんな世界があってもいいのかもしれない。


パラレルワールド、異世界。

今いる世界とそっくりだけどどこか違う世界、常識が180°グルっと変わった世界、ないものねだりの人々はそんなおとぎ話に憧れる。

非日常が訪れるのを心待ちにしているなんて小学生の頃から変わっていないんだな。

しかし、子供の頃と大人になってからでは根本から違うのだと知人に教わった。

子供は非現実的状況に胸を膨らませ冒険に出る。対して、大人は現実からの逃げ道として目指す。

誰もかれも疲弊しきって世知辛いのじゃ、とのことだ。

女子高生に向かって何を嘆いているのだ、そんな現実まだ知りとうなかった。


とにかく、もしそういった話があるのならロマンだな。

私は、オカルティックな噂や非現実的な現象に興味がある。

昨日みた記事は何だったかな。

「異世界から来たけど質問ある?」

「幽霊だけど質問ある?」

「未来人だけど質問ある?」

って……

色んな人が質問に答えてくれるイイジダイダナー。


きっと平行世界の私はいい塩梅になんとなく上手くやっているだろう。

いや、適当人間が100人いたところで残念な私なのだからそう上手くいかないさ。

200%確信が持てる、泣けてきた。

非日常なこと考えて現実逃避したくなってきました……


空を眺めると満天の星空になっていた。

「月が綺麗ですね」

無意識のうちに零れた言葉にハッとする。

いかんいかん、何を口走っているのだ。

それでも、本能的に手を伸ばしてしまう、綺麗だな、月光を手中に収めると指の隙間から光が漏れる。

手の届かない場所にあるからこそ、それは美しく見えるのかもしれない。

「私は――――――」


風が心地よく頬を撫で、傍らの樹木から切り離された木の葉が目の前を通過する。


転。

視界がぐにゃりと揺らぐ気がした。否、世界がスロースピードになる。

眼前の一枚の葉はまるで無重力空間に放り出されたように、ゆっくりと落下している。

落下というより移動という表現が正しいかもしれない。


転。

突如置かれた自分の状況に虚をつかれたかと思いきや、世界の速度は元に戻る。

少なくとも私がいま体験した現象は既に終わっていた。

今のは一体なんだったのだろう?


人間にはわからないことだらけだ。

文字通り天文学的な数の星々と、宇宙の解明。地球のこと、ましてや我々人間についても闇に紛れている。

深海についても、脳の仕組みについても、まだまだ知識欲は満たされない。

しかし、私は今の現象に急ごしらえの一つの解を導く。


「気の、せい……?」

再び口から零れた言葉は友との会話とは打って変わって、か細く。

言葉はガタガタと小刻みに振動する唇から放たれ、白い息と化して空に消えていった。



「あっ、明日の話題にいいかも」

私はひどく楽天家なのだった。


/* 4 */

たまに自分が世界の中心だと錯覚することがある、それは決して自尊心が高いわけでも周りを見下しているわけでもない。

気の合う仲間との微笑ましいひと時も壁一枚隔たれた空間に取り残されているような感覚に陥ることがある。

 意識。

他人の意識を証明することは不可能だろう、そもそもが曖昧なものなのだから仕方ない。さっき一緒に帰り道を歩いていたあの子に意識はあるのだろうか? もしかしたら肉塊に設定された動作を命令のままに行っているのかもしれない。

 少し前にふと気になって相談をしたら私以外にも同じようなことを考えている人はいくらでもいるそうだ。

 哲学的ゾンビ、スワンプマン、その子はつらつらと話していたがいつものオカルト向けまとめサイトやインターネット上の百科事典から得た浅い知識だろう。

 それでも興味深いと思うものは多く、いつも楽しませてくれた。

 その中のクオリアという単語について少しだけ調べてみた。

私が今見ているあの夕焼けの色、橙色と黄色を主とした綺麗な景色は他の人にとっては違うのかもしれない。

 晩御飯のカレーライス、食欲をそそるルーの香りに色とりどりの野菜たち。

 もし、ルーの香りが甘ったるいハチミツの香りだったら?

 もし、野菜の色が普段と違う青色だったら?

 私だったら耐えられないかもしれない。それらは普通でないから脳が拒否反応を示すだろう。

 でも、他の人の感覚ではその甘ったるい香りこそがカレーの匂いであり、青い人参が普通であるのだとしたら?

 他の人にとって夕焼けというのは空が緑色に染め上げられたことを指し、それを美しいと感じるのだとしたら?


 確かめようがない。

 私の主観でいう夕焼けのオレンジ色と、誰かが見た夕焼けの緑色。

 私の主観では緑色とは普通ではなくキャベツの色であるのが普通であるように、誰かからするとオレンジ色というのはブロッコリーの色のことを指すのが普通かもしれない。



 だからどうした、という話ではある。

 人間の素晴らしい点は、複雑なものを簡単にすることが出来ることと誰かが言っていた。

 しかし、当たり前のことを当たり前だと感じ取れるのは何故だろう。きっと途方もない努力と時間を費やして考えられてきたのだろう、知らんけど。


 もしもその仮定が正しかったとして、何も影響はないのだから。

 勉強に悩み、学校に悩み、交友関係に悩み、恋に悩み、家族に悩み、進路先に悩み、環境の変化に悩み、仕事に悩み、配偶者に悩み、我が子に悩み、病に悩み、怪我に悩み、死に悩む。

 悩み過ぎて禿げてしまいそうだ。

 忙しい忙しい私達の人生はそんなものでいいのだ。

 必要以上を求めるのは余裕を持った人間のみに許された行為なのだ。

 なのだ……


 熱が入り少し恥ずかしくなった。


/* 5 */

AM 7:50

西之学園 校舎3F 2-C教室


「それでね! 目の前がぐにゃぐにゃーってなって、落ちてきた葉っぱが物凄くゆっくり動いてたん!」

「ハイハイ、プラズマでしょ」

「ぐぬぬ、またバカにしたー!」

「拾い食いするクセまだ治ってなかったの? 倒れてからじゃ遅いでしょ」

「そんなクセ持っとらんわ! ま、気のせいだろうけどさー話のネタになるかなーつって」

「あ、そうそう。この前クオリアがなんとかーって教えてくれたでしょ?」

「スルー!? んー、なんだっけ。思考実験?」

「そんな感じ、あれで気になったことがあって実験台になってくれない?」

「実験? いーよー! よくわからんけど楽しそうだし」

「よし、行くわよ~」


――アチョッ!

「ヴェッ」


急に脳天に振り下ろされたチョップに驚き白目を向く先ほどまで無邪気に話しかけていた少女。

 彼女の名は、入間 リオ(いるま りお)。早い話がアホの子である。

 チョップの使い手は、百目鬼 モモ(どうめき もも)。


「ヌォォ、何すんの! バカになっちゃうだろ! フシャー!」

「どうだった?」

「どうって……え、何が? イタイヨ!?」

「つまり、私が受けたら痛いと感じるチョップをあなたも痛いと感じる。リオ、これは興味深いデータよ」

「ど、どういうことだってばよ……」

「……っていうのは口実で、あんたが変なこと宣うから治してあげたのよ」

「あたしの頭はテレビか……それもブラウン管かよ」

「あっ、あとバカなのは元からでしょ?」

「ツッコミを後から足すな!」


二人の間に沈黙が流れる。少し経ってから入間リオは、百目鬼モモが爽やかかつ不敵な笑みを浮かべる理由に気付く。

「~っ! 元々バカじゃない!」


 教室内は数人の生徒たちがまばらに座っており、読書でリラックスする者、課題の提出期限に追われる者、親しい友人と談話する者、机に突っ伏して寝たふりする者、枕を用意して寝ている者。

 各々が思い思いの時間を過ごしている。



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