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Eat xxx  作者: 凱
12/13

XⅡ

《Elizabeth》


小鳥の囀る声に目覚め、まだ夢の中にいるエドワードの額にキスを落とす。


「ん・・・」

「おはよう、エディ」

「・・・・・・ん」


瞼は開いたが、朝に弱い彼はまだ半分夢の中にいるらしい。

その黒髪をくしゃっと撫でてから起き上がろうとすると、再び目を閉じた彼に腕を掴まれる。


「どこに、行くの?」

「お茶の用意をするだけよ」


クスクスと笑えば、彼はゆっくりと目を開けてのそのそと起き上がる。


「ふぁ・・・おはよう、リズ」

「おはよう。ほら、顔を洗って目を覚まして」


ん、と短く返事をして伸びをする彼を愛おしそうに見つめる。


「あ・・・朝食が済んだら少し出かけて来るから」

「買い物?私も一緒に行くわ」

「僕一人で行くよ。リズは留守番しててくれないか?」


む、と不満気に眉をひそめると、彼が「やっぱり拗ねた」と笑う。


「今日は君の誕生日だろ?御馳走作るから楽しみにしてて」

「え?」

「え?」

「エディが誕生日覚えてるなんて思ってなかった・・・」

「リズのは覚えてるさ。誰かが産まれてきた事を祝いたいなんて思ったのは初めてだから」


そう言ってはにかむ彼は、とても嬉しそうだった。





《Edward》


抱える荷物の重さに「少し買いすぎたかな」と思いながら帰路についていると、ある宝石店のショーウィンドウに目が止まった。

青い石の嵌め込まれたペンダントが、慎ましくもキラキラと輝いている。

エリザベスの瞳の色によく似ていた。

ジーッとそれを眺めていると、突然を声をかけられた。


「贈り物をお探しですか?」

「!えっと、その、」

「もし良ければお手伝い致しますわ。どうぞ店内へ」


従業員らしい女はそう言って、恭しく店のドアを開ける。

慣れない店に気後れしながらも、躊躇いがちに店内へ足を踏み入れた。





《Elizabeth》


エドワードが出掛けてから掃除を始める。

料理は彼に適わないが掃除ならお手の物である。

一緒に暮らし始めた頃、天井隅の蜘蛛の巣や窓の桟に積もる埃を取り除いていたのが懐かしい。

部屋の隅々まで掃除を済ませ、汚れている場所がないか確認してから「よしっ」と一人頷いた。


「エディが帰ってくる前におめかししなくちゃ」


るんるんと寝室へ向かうと、クローゼットからシフォン生地でできたお気に入りのワンピースを手に取る。

ライラック色のそれは、彼女の透き通るような肌をより際立たせた。

着替えを済ませてから薔薇色のルージュを塗り、姿見の前でくるりと回ってみた。


「・・・髪もあげてみようかしら」


今日は今までの人生で一番幸せな日だ。

愛しい人に産まれた事を祝ってもらえるなんて、これ以上の事があるだろうか。


「貴方は世界一の幸せ者よ」


鏡の中の自分に微笑みかけると、ガタッと物音が聞こえた。

彼が帰ってきたのだ。

心を踊らせながら寝室のドアを開け、笑顔をむける。


「おかえ、り・・・」


部屋に立ち尽くす男を見て、目を見開く。

そこにいたのは愛しのエドワードではなかった。


「・・・アルバート?」





《Edward》


店員にあれやこれやと色々薦められたが、結局ショーウィンドウで見惚れたペンダントにした。

アクセサリーの善し悪しなど全く分からない彼は、不安と期待でいっぱいだった。

彼女は喜んでくれるだろうか?

少し緊張しながら住居のドアを開ける。


「ただいま」


綺麗に掃除された部屋は静けさに包まれていて、彼の声が虚しく響いた。


「リズ?」


寝ているのか?

それとも驚かそうとして隠れているのだろうか。

子供のように無邪気な彼女のことを思い、小さく笑う。

手に抱えた荷物をテーブルの上に置き、ペンダントをポケットに忍ばせる。

そして半分開いたままの寝室のドアに手をかけた。


「リズ、どこに・・・」


中を覗き込むと、一瞬頭の中が真っ白になった。

ベッドに横たわる彼女の腹部にはナイフが突き刺さっていて、淡い紫のワンピースがどす黒く染まっていた。


「・・・エディ?」


蚊の鳴くような声で呟く彼女に駆け寄る。


「リズ!!」


刺さるナイフをよく見ると、彼が護身用にと渡したナイフだった。


「貴方以外に、殺されるなんて、ごめんだもの・・・。ふふ、彼、真っ青な顔して逃げてったわ・・・」


そう言って咳き込むと、辛そうに顔を顰めた。


「彼って・・・誰が、!すぐに医者を、」

「そんなことより、抱き締めて・・・。何だか、寒いの」


伸ばしてきた彼女の手を握ると、ひんやりと冷たかった。

その体温に、広がる赤に、もう手遅れだと悟る。

泣きながら、傷に触れないよう優しく抱きしめた。


「泣か、ないで。貴方の笑顔、とても素敵よ」


彼女の言葉に笑顔を繕っても、溢れる涙は抑えられなかった。


「・・・リズ、渡したい物があるんだ」


ペンダントを彼女に見せると嬉しそうに微笑んだ。


「とても、素敵・・・」

「君の瞳に似て、とても綺麗だろ?」

「ええ、ありがとう、エディ」

「・・・・・・」

「愛して、くれて、ありがと」


嗚咽を押し殺しながら、彼女の頬を撫でる。


「産まれてくれて、僕と出会ってくれて、ありがとう」

「・・・今、とても幸せよ、私。嘘じゃ、ないわ」

「っリズ・・・」

「愛してるわ、エド、ワード・・・。ねぇ、キスして」


目を閉じる彼女の冷たい唇にキスをした。


「リズ・・・愛してるよ、永遠に」


彼女が目を開く事はなかった。





《Elizabeth》


短い間だったけど、幸せだった。

エディは素敵な人だから、きっとまた愛しいと思える人に出会えるわ。

少し嫉妬しちゃうけど、幸せになって。

貴方が幸せそうに笑う顔がとても好きだから。

・・・あぁ、貴方の笑顔、もっと見たかった。

もっと話したかった。

もっと触れたかった。


意識が消える直前、彼の叫ぶ声が聞こえた。


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