XⅠ
《Edward》
初夏に入り、上着を手放せるようになった。
今日はエリザベスが行きたがっていた庭園へ行く予定だ。
ローズガーデンは今が見頃だろう。
「リズ、紅茶の用意をしてくれるかい?」
「分かったわ。どれがいい?」
「そうだな・・・アールグレイにしようか」
湯気の立ちのぼるケトルを手に取り「気をつけて」と彼女に手渡す。
「キュウリのサンドイッチも忘れないでね!それと、」
「クリームチーズも塗って、だろ?」
「正解」と彼女は嬉しそうに笑った。
そんな彼女に少し得意気な顔をしてからサンドイッチ作りを再開する。
「美味しい」と喜ぶ彼女の顔を思い浮かべながら。
《Elizabeth》
紅茶の用意を済ませ、手際よくサンドイッチを作るエドワードの隣に立つ。
「エディって本当料理上手ね」
「君の作るものだって美味いよ。少し見た目が不格好だけど」
うっと言葉を詰まらせる。
「料理は僕に任せればいいさ。君が美味しそうに頬張る姿が好きだから」
未だに頬にキスするだけで耳を赤くするのに、こういうことはさらっと言ってのけるのだ。
なんだか悔しくて、背伸びをして彼の耳を食むと、予想通り驚いた表情で顔を赤くする。
そんな彼が面白くて、悪戯の成功した子供のようににんまりと笑った。
《Edward》
庭園まではそう遠くないので歩いて向かう事にした。
彼女の歩幅に合わせて、ゆっくりと歩く。
「ねぇエディ。手を繋いでも?」
「あぁ、勿論」
彼女の小さく柔らかな手を握る。
初めて食事に行った時とは大違いだ。
あの時はどうやって殺すか、そればかり考えていたっけ。
まるで変わってしまった自分が可笑しくて小さく笑う。
「?どうしたの?」
「いや、前の僕が今の僕を見たらどう思うかなって」
「んー・・・怒るか呆れるか?」
「睨みつけて溜息つく僕が目に浮かぶよ」
楽しそうに笑い合い、手をぎゅっと握り直した。
今の方が幸福に満ちていることは言うまでもない。
頭の中で過去の自分に「羨ましいかい?」と問い掛ける。
小さな舌打ちが聞こえた気がした。
《Elizabeth》
日当たりのいい芝生の上でランチを済ませ、食後のアールグレイで一息ついてから庭園内を周る。
満開の薔薇達が咲き誇る様は自らの美しさを自慢するようだ。
「薔薇は色で花言葉が変わるのよ」
「へぇ。知らなかった」
「エディがくれた濃紅の薔薇なら、恥ずかしさや内気って意味があるの。ピッタリね」
くすくすと笑うと、緊張したような顔で彼が口を開いた。
「じゃあ、本数にも意味があるのを知ってるかい?」
「そうなの?じゃあ五輪はどんな意味?」
「・・・・・・『貴方と出会えた喜び』」
言い終えてから、「あー」とか「その」とか言う彼の続きを待つ。
「言っとくけど、意味を知ったのは渡した後だから」
誤魔化すように逸らした顔は薔薇に負けないくらい赤かった。
《Edward》
太陽が西に傾き始めた頃、彼女の腹の虫がくぅ、と鳴った。
「帰って夕食にしよう。何が食べたい?」
恥ずかしそう笑い、彼女が立ち上がる。
「一緒に作りたいわ。私も料理上手になりたいもの」
「教えてあげるよ。僕は今のままでも構わないんだけど」
「私だってエディが美味しそうに食べるのを見たいわ」
「それじゃあローストビーフにしようか。好きなんだ」
「大好物?」
「・・・まぁ、普通の料理では一番、かな」
彼の答えに彼女は可笑しそうに笑う。
「なら私の料理が大好物って言わせるよう頑張らなくちゃ」
意気込むように腕を組む彼女の頭をぽんぽんと撫でて、手を差し出す。
「さぁ、我が家に帰ろう」
こんな日がいつまでも続けばと心から願った。