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前編「長屋の三文記者」
これは、一九八〇年の盛夏のこと。出版社の新米記者である三田は、翌朝、納涼ホラー特集に提出するための原稿を、自宅に持ち帰って書こうとしている。ちなみに、三田はランニングとトランクス姿で、部屋の隅では扇風機が羽根を回しつつ、首を振っている。
「ポマード以外にも、べっこう飴バージョンがあったんだよな。アレ? 金平糖だっけ? まぁ、いいや。聞いて確かめよう」
男臭い四畳半の和室で、三田はちゃぶ台の上にあるテープレコーダーを再生する。すると、数秒ほどザーッというノイズ音が流れ、すぐにカチッと三角印のボタンが持ち上がる。
「ん? おかしいな。裏面だったのか?」
三田がカセットを取り出し、ひっくり返して巻き戻してから、もう一度再生するが、今度は陽気なディスコミュージックが流れるだけである。三田は、再生を止めると、しばし天井を見上げ、蛍光灯の切り替え紐、そして、その先に結んだズボラ紐を目で追いながら呆然としていた。
が、目線がちゃぶ台に戻ったところで、三田はハッと我に返る。
「録音データが飛んだから書けません、では通用しないものな。こうなったら、無い知恵を絞るしかない。頭の体操だ」
テープレコーダーを万年床に放り投げ、三田は原稿用紙にボールペンを走らせはじめた。




