表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画参加もの

雪女と武装

作者: 絹ごし春雨

偶然年下男子タグをつけようとして、企画をみつけたのでお邪魔しました。

 これが私の完全武装。


 私はつけていたネックレスを外す。まとめていた髪をばらりと解いた。髪留めを投げ捨て、ついでにかけていた眼鏡も外す。化粧を落とした。

__ああ自由だ。

全身が弛緩していくのがわかる。


 身体ごとベッドにダイブする。帰ってきてすぐつけたエアコンのおかげで、シーツは冷たく、気持ちがいい。

__私は今、暖かく柔らかくなっていく最中だ。


 外では理性的で硬質な女を演じているつもりだ。メタルフレームの眼鏡、理論的な言動を心がけ、時には冷たいとさえ言われる決断をする。

 仕事だ、負けられないと張り詰める。外は怖い。それを支えているのがお守りのようにつけているネックレス。そして、化粧。


私はこれでスイッチする。


 昔は、切り替えが上手くいかなくて、いつでもどこでも緊張してしまった。けれども、大人になって、化粧をするようになってから、オンとオフが切り替えられるようになった。単純に、化粧は武装なのだ。特に気合いを入れなければならない時は、派手な化粧をするようになった。


 電話がなって、慌てて取る。3コール以内で出るのは、もう癖みたいになってしまった。

「もしもし……」

「こんばんは。今日はオフモードなんだね」

ふふっと彼は笑った。


「なんでわかるの?」

「ちょっと声が小さい。いつも、もうちょっと大きくてパキッとしてる」

ほら、当たったでしょ? と私より年下の彼は得意げだ。

もうっと私は恥ずかしくなる。

「最近きついんでしょ?芽衣めいさん」

なんで、わかるんだろう。私は弱音は吐かないようにしているはずなのに。


「なんで? って思ってるでしょ。芽衣さん、オフモードの時は結構無防備だから、漏れてるよ。わかる」

 彼の声は暖かくて、包み込むようだった。年下のくせに包容力があるとかズルい。なんだそれ。もう好きになるしかないだろう。好きだけど。


「ねえ」

「なあに」

「会いたいな」

__ああもう、ズルい。私だって会いたい。

「ダメ?」

「いいよ」

すぐに行くから、と彼は言った。ああ、今日は金曜日か。

「お願い。化粧しないで待ってて」


 その言葉に、私は動きを止めてしまう。今まで、彼の前で化粧を取ったことはあっても、初めからしなかったことはない。

「無茶言わないでよ。」

「無茶じゃないよ。なんか今日はそのまま抱きしめてあげたい気分。ほら、俺、癒し系だし?」

癒し系なのは否定できないけど。


「ねえ、ダメ?」

彼は、たたみかけるように続ける。そんなはずないのに、上目遣いで見つめられている気がしてしまう。

「しょうがないなぁ、今日だけだからね」

そんな風に流されつつ、私は怖いのだ。彼はぐずぐずに私を溶かしてしまうから。


 電話を切って、エアコンの温度を2度下げた。せめて部屋くらい冷たくしないと。私が溶かされてしまわないように。


やがて、やって来た彼は部屋に入るなり、開口一番こう言った。

「寒っ。おまたせ」

「いらっしゃい」

「なんでこんなに寒いの?」

「私が雪女だから」

__あなたに溶かされちゃうとは、言わない。

彼はキョトンとした。ああ、可愛い。


「そんなに暑いの?」

私は答えない。

「コーヒーいる?」

「いらない。芽衣さんもコーヒーはやめて。お茶にしといてよ」


そう言って彼は私の身体に腕をまわして来た。

「なんでお茶?」

「コーヒー飲んだら、芽衣さん戻っちゃうじゃん。オンモードに」

「せっかく今可愛いのに、それはなしで」


そういうもんかな?

「ネックレスも外してるんだ。珍しい」

あれは彼にもらったものだ。外で冷たく武装している私を、唯一温めてくれる心臓みたいなもの。

「えーと、ごめんね。いつもはつけてるんだけど」

「そういう意味じゃないよ。今は何もつけてなくて、嬉しい」


そう言うと、いつもペンダントトップが揺れるあたり、鎖骨の間くらいに、彼はキスをした。

「あれって、さ。お守りなんでしょ? 今日は、俺が温めるから、ネックレスの出番はなし」

私は、顔が真っ赤なはずだ。ああ、恥ずかしい。


「お茶入れるから」

名残惜しそうな彼をそっとほどいて、冷蔵庫に向かう。コップには沢山の氷を入れる。

「そんなに暑いの?」

呆れたような彼に答えた。

「だって溶けそうなんだもん」

__私が。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] タイトルと作中にもでる雪女というワードが芽衣さんをよく表していて、文字数は少なくても作者様の書きたいことが伝わる作品でした。
[一言] 甘かったです! 仕事で疲れきった金曜日にこの電話は、もうアウトです。どうやってこんな彼氏を見つけたの? 色々想像してしまいました。 「年下男子企画」よりお邪魔致しました。 読ませて頂き…
[一言] はじめまして。 年下男子企画からお邪魔いたしました。 「会いたいな」の時点で持っていたスマホを放り投げ、布団に突っ伏したヘタレです。 甘くて甘くて、拝読している間ずっと赤面しておりました。…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ