私は聖女じゃありません。
この世界にはスキルと言う物がある。
スキルは小規模の街でも安価に手に入るスキル鑑定カードと言うネーミングセンスの欠片も無い安直な名前の道具を使えば自分がどんなスキルを持っているかが分かる。
そしてスキルには二種類ある。
一つ目は技術を表すもの。
これはレベルがあり、最大レベル10の中で高ければ高いほど技術が高いと言うことである。
例えば剣術や魔術などが当てはまる。
もう一つは特性を表すもの。
こっちにはレベルがあるものと無いものがある。
相手のステータスを数値化して見れる眼、鑑定眼など生まれつきのものが多く当てはまる。
前者は生まれた時から持っている人もいればあとから手に入れる人もいる。
個人差はあるがスキルのレベルは上げることが出来る。
「おぉ、慈悲の聖女様じゃあ!!」
「きゃあああ!!クリミア様よ。」
「あぁ、何て美しさなんだ。」
聖女。
そうまわりから言われているのはクリミア・エンジェ。
1000人に1人の美女とも言われた彼女は捨て子であった。
彼女はまだ赤子の時、今彼女が属しているクルシュア教の教会が経営している孤児院に捨てられていた。
だが彼女はひねくれることは無かった。
教会の聖職者達は孤児院の子供たちを愛していて、一緒に幼少期を過ごした彼女と同じ捨て子も皆優しく助け合いの精神を持っていた。
彼女も聖職者達の愛を受け同じ境遇の仲間たちと暮らしていた。
クルシュア教の教えで創造神であるクルシュア様が人々に力を与えたものがスキルであるというのがあり、スキルは間違った使い方をしてはいけないことになっていた。
まだ、判断力が低い子供たちに自分たちがどんなスキルを持っているかを知らせるには危険とされ、自分のスキルを知れるのは13歳からだ。
ただ、貴族や豪商などはあまり狭義を信じていないものは少なくなく更に幼少の時からスキルを教え、自分の出来ることを見極めたりもする。
彼女、クリミア・エンジェには生まれつき三つのスキルがあった。
一つ目は『幸運Lv10』。
これは文字通り運の良さを表したものである。
Lv10となれば可能性が数パーセントでもあればあらゆる事を可能に出来てしまう。
二つ目、これが彼女を聖女と崇められている理由でもある。
それは『神聖視』。
このスキルの効果は持っている人物の行動を全て正しいように思わせることが出来る。
極端な例はこのスキルを持った人物が殺人を犯しても周りはスキル持ちの人が何か意味があってそうした、スキル持ちは悪くないと解釈する。
だから彼女は小さな人助けでも、それこそ目の前に落ちたものを拾い持ち主に返すだけでも感謝され時にはお金や食べ物を渡す人もいた。
三つ目は『治癒魔法Lv9』。
これは自分の魔力を使い現象を起こす魔法の一つであり、治癒魔法は使うと怪我や病気を治すことが出来る。
Lv9となれば命を失ってない限りどんなに瀕死や重症でも治すことが出来る。
そんな彼女は幼い頃からの夢があった。
それは世界を見て回りたいと言うものであった。
本で出てくるようなエメラルド色の海や人の言葉を理解する龍。
どれも彼女は心を惹かれた。
そして17歳になったある日彼女は住んでいた町から出ていった。
念願の世界を見て回るために。
町を抜けて約1ヶ月が過ぎた頃、彼女が通りかかった所に人が倒れていた。
倒れていた男は腹から血を流しており彼女は慌ててスキルを使って治した。
男は傷を癒してくれたことを感謝して腕につけていた貴金属をふんだんに使った腕輪を渡そうとした。
彼女は慌てるも受け取るのを拒否して倒れていた男の身分を聞いた。
そして彼女は男の身分をしって物凄く驚いた。
男は実はこの国の第一王子であった。
倒れていた理由は王権を欲しがっていた第二王子が王の第一候補であった第一王子を殺そうとし、命かながら逃げてきたらしい。
道端にいたのは逃げるために転移の魔道具をつかって一定の距離の中のランダムで飛ばされたからだそうだ。
第一王子、フェルリンガル・フィールは彼女に感謝したがお礼の品は受け取ってもらえず困り果てていると彼女がクルシュア教の教会にある孤児院に寄付しては欲しいと提案してきた。
本当は何としてでも受け取らせようとしてくるフェルリンガルを鬱陶しく思い適当に言ったことであったがフェルリンガルが彼女を
(何て無欲なんだ。自分よりも他人を想う。正しく聖女だ。きっとこの女性はクルシュア様の遣いなのだろう。)
そう思い国に帰ってからクルシュア教の孤児院に出している補助金を王子の権限で2倍以上にした。
もちろん第二王子は王の候補から外され幽閉された。
フェルリンガルが王都中にクリミアの話をした。
その話はすぐに国中に伝わり海外にも伝わった。
これが慈悲の聖女と呼ばれる所以である。
そんな私、クリミア・エンジェであるが一つだけ言わしてもらおう。
「私は聖女じゃありません!!!!!!!!!!」
ふう。
ちっとだけだけどスッキリした。
もちろん周りには誰も居ないことを確認している。
本当に何なんだよ。
どうして野良猫を撫でたらさすが聖女様とか言われるのよ。
どうして道を歩いただけで崇められないといけないのよ。
「本当にどうしてよ。」
確かに聖女と呼ばれてから得になった部分はあるがそれ以上に生活に不自由になった。
最近じゃあまともに買い物すら出来ない。
私はただ普通に世界を見て回りたかったのに。
「おいおい噂の聖女様がそんなんじゃあ世間様に呆れられるぞ。」
そう話しかけてきたのは全身黒色の装備をした黒髪黒目の超絶イケメン。
私と一緒に旅をしている黒騎士と呼ばれるディアだ。
「はぁ、呆れられるなら呆れられたいわよ。」
「そうかい。まぁ、無理な話だろうけどな。」
ディアは笑ながら言ってくる。
「そもそも何で聖女と呼ばれる私と旅をしているのが悪魔の王なのよ。まず、そこからおかしいでしょう!!」
そうディアは悪魔だ。
悪魔の中には階級がある。
王、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、準男爵、騎士、の順番でなっていて階級が高ければ高いほど強く知的で他の悪魔にも命令権がある。
その中でのディアの階級は王。
要するに悪魔界のトップなのだ。
そしてクリミアに恋心を抱いているが素直にはなれていないのだ。
「別に貴方とは契約もしてないし、そもそも召喚魔法とかで呼んですらないのよ。」
「はぁ、悪魔に理屈が通じるとでも思ってるのか?」
「通じないのは重々承知よ。全くはぁ、じゃないのよ。溜息をつきたいのはこっちよ。」
(やっぱし、素直になれないな、俺。)
本来スキル『神聖視』は権力者などの欲深い者であれば喉から手が出るほど欲しがるスキルだ。
何せどんな事をやっても周りからはプラスに受け取られるのだから。
しかし一般的な女性、しかも無欲とまでは言わないがあまり欲の少ないクリミアにとっては邪魔なだけだ。
お金だって治癒魔法を使えば稼ごうと思えばいくらでも稼げる。
「あっ、ここにおられましたかクリミア様。」
また、1人の男がクリミアに近寄る。
この白髪赤目の白装備をした優男風イケメンもクリミアと一緒に旅をしている白騎士こと、リュート・ボロスだ。
「けっ、折角置いてきたのに。」
「ハハハ。残念でしたね。本当に。」
ディアは露骨に嫌な顔をし、リュートは額に青筋を浮かばせながらも笑っている。
そう、リュートとディアは物凄く仲が悪い。
理由は二つある。
一つはクリミアを取り合ってだ。
ディアがクリミアに恋心を抱いているのと同時にリュートもクリミアに対して恋心を抱いている。
ディアもリュートもお互いが恋敵なのは分かっているが問題の中心のクリミアは鈍感だ。
もう一つはリュートが聖龍でありその中でも王というのだと言うことだ。
龍とはクルシュア教の神の遣いとして神話にでてき、リュートは火龍、水龍、土龍、風龍、聖龍の中で最も優れていると言われる聖龍である。
龍にも階級がありそれは悪魔と同じでディアとリュートの階級は同じである。
光や聖の属性の魔法を使うリュートに対してディアは闇と魔の魔法を使う。
要するに2人は対極の存在なのだ。
「もう!2人とも喧嘩しないの。」
クリミアが止めに入り一旦は落ち着くのだが毎回すぐに問題を起こす。
「そもそもリュートも何で私に着いてくるのよ。」
「聖龍である私が聖女様であるクリミア様に仕えないのはおかしい話です。」
一応理屈は通っている...の?
いや通ってないだろう。
私は聖女じゃありません。
無欲じゃないし偏見もあるし嫌悪感もある時はあるし普通に怒る。
何が慈悲の聖女よ。
「あんな奴のことほっといて次は何処に行くんだ?」
いや、貴方も同んなじよ。
何、自分はまともな理由があるみたいに言ってるのよ。
「そんな目で俺を見るな。で、何処に行くんだ?」
私はしばらく考え、言う。
「確かここから北に少し行ったとこに小国があったわよね?そこなんかどう?」
「私は構いません。」
「俺もだ。」
そうして1日後。
私とディアとリュートはすぐに町からでる。
町を出ると辺りは草原だったのでリュートに本来の姿に戻ってもらう。
リュートは汚れのない純白の龍へと姿を変えた。
そしてリュートの背中にクリミアは乗る。
ディアはと言うと背中から黒い蝙蝠のような翼が生える。
そう悪魔の翼だ。
ディアもリュートと同じで本来の姿を魔法で隠しているのだ。
今回はリュートみたいにかけてある魔法を全体を解くのではなく一部分解いた。
「クリミア様。苦しくはないですか?」
「大丈夫よ。」
もしリュートが全力で飛んだ場合クリミアはあっという間に肉塊になる。
リュートの全速力は悪魔の王でもあるディアでさえ追いつけない。
ただ攻撃力と防御力で言ったらディアの方がリュートよりも上回っている。
なのでもし二人が戦ったとしてもディアの攻撃は当たらずリュートの攻撃は効かないということになる。
「そろそろありましょう。流石に人に見られるのは。特にディアは。」
「なら、ディアを置いてきましょう。聖龍である私に聖女であるクリミア様が乗っているとなれば騒ぎにはなりましょうが特に問題は無いはずです。」
「分かった。ケンカ売ってんだな。生憎様俺は翼をしまっても飛べることには飛べるんだが。」
「全く。その騒ぎは問題なのよ。さっ、降りるわよ。」
ディアとリュートは睨み合いながらも降りた。
そうしてしばらく3人が歩くと大きな門が見えてきた。
その門の門番に通行証を見せる。
この通行証は何処ぞの第一王子を助けた時に貰った品物だ。
これは割と便利なので使わせてもらってる。
何せよっぽど鎖国的な場所以外フリーパス出来る。
普段この通行証を見せればすぐに通れるのに今回は30分近く待っている。
「すいません。わざわざ待たしてしまい。私はこの地域を治めるバトソン伯爵に仕えるケサランと申します。」
「そうですか。この度は何用で?」
「はい。是非バトソン様が貴方様に会いたいと申していまして。」
きたか。
私は結構な国を回ってきたがこういう誘いは私を妻にしたいか政治の道具にしようかのパターンだ。
「その理由は?」
「すいません。私もそこまでは聞いておりません。理由は出来れば本人に聞いほしいです。」
おいおい、かなりきな臭いぞ。
「ディアとリュートはどうする?」
「俺は構わんぞ。」
「私もです。全てはクリミア様のご意思に。」
ダメだ役に立たない。
でもまぁ、一応誘いには乗ろう。
下手に断ると恨みを買ってめんどくさくなる。
行くだけ行ってすぐに帰ろう。
最悪の場合はディアとリュートがいるんだし絶対に来ない。
「では行かしてもらいましょう。」
「おぉ、ありがとうございます。ではあちらの馬車に。」
そう言われクリミア達3人は馬車に乗る。
かれこ15分位すると割とでかい屋敷があった。
「ではどうぞ中へ。おっと、黒騎士様と白騎士様はこちらです。」
中へ入ろうとするとディアとリュートは別の方へ案内される。
「ちょっと怪しいけどもし何かあったらあの魔法具で呼ぶから安心して。」
あの魔法具とはクリミアが持っている鈴型の魔道具のことだ。
これは受信機と送信機に別れており送信機はクリミアが、受信機はディアとリュートの二人が持っており送信機側が魔道具に魔力を流しながら鳴らすと遠くにある受信機に鈴の音を届けることが出来る。
これも第一王子に貰ったものだ。
ディアとリュートに耳打ちしケサランに付いていく。
ついた先には豚か人か分からないほど肥えた人がいた。
恐らくあれがバトソン伯爵なのだろう。
私を見る目がいやらしい。
何かじっくり品定めをされているようだ。
「おぉ、よく来てくれた。クリミアよ。実はな、少し話があってな。どうじゃ?儂の第4夫人にならぬか?お主にとっても悪い話じゃなかろう?」
ついでにクリミアは19歳、バトソンは48歳だ。
バトソンはクリミアにメリットがあるように言っているが実際はほとんど無い。
何せ今でもクリミアに求婚している男は多いのだから。
その中には次期王になる可能性があるのもいれば大国の大貴族の青年もいる。
小国の貴族で更に自分よりも30歳近く離れた相手より優良物件は沢山ある。
そもそもクリミアは今結婚するつもりは無い。
「お断りさせていただきます。」
「ほほほ。そう言うと思ったわ。しかし、な?やっぱしの欲しいものは無理矢理にでも手に入れたくなるものじゃな。」
そういった途端バトソンの身体が不自然に膨張した。
元々醜かった身体は人間らしさを失い紫色になり、皮膚はテカテカと光を反射して湿っているのがわかる。
その姿はまるでカエルと豚のキメラを無理矢理人の形にしたみたいな様が姿だった。
クリミアの背中に寒気が襲った。
それとほぼ同時に鈴型の魔道具を使う。
しかし発動したものの2人が来る前にバトソンが使った魔法で檻に閉じ込められてしまった。
そして数十秒が経ったあと2人がドアを蹴破って現れた。
「お前何してんだ?」
「今すぐクリミア様を解放しなさい!!」
2人ともブチ切れているのがひと目でわかる。
怒りからか2人とも身体から魔力が溢れ出ている。
「何かと聞かれたら手に入らないものを手に入れようと頑張っているんじゃが。それと解放しろと言って解放する阿呆じゃ儂はないぞ。」
そう言うバトソンに余計にディアとリュートは腹を立たせていた。
しかしクリミアが捕まっているので下手に手出しができない。
「何を心配しとるか知らんがこのクリミアを捕らえている檻は一日過ぎるまでは何があっても開かない様になっておるのじゃぞ。さぁ、存分にかかって来て良いぞ。」
次の瞬間リュートの足がバトソンの顔にめり込む...ことは無かった。
そう、リュートの蹴りを避けたのだ。
「その姿に身体能力。貴方は一体何者何ですか?」
「何じゃ。まさか知らんのか。魔神の心臓を。」
魔神アシュルク。
それはかつて創造神であるクルシュアが増えた世界の民を管理するために生み出した自分の分身。
そしてクルシュアの唯一の失敗作。
本来造り手のクルシュアに従うはずのアシュルクはクルシュアに従わずに住んでいた天界から降りて人間達が住む場所で破壊を尽くした。
しかしラシュルクと違い気がるに天界から離れれないクルシュアは人間に自分の加護を与え魔神を討伐したのは神話として有名だ。
その魔神の心臓とはどういう事だろうか。
「まぁ、ピンとは来ないじゃろうな。何せ神話にも語られてない事じゃからな。魔神を倒した勇者がどうなったかを。」
それからバトソンは独りでに語り始めた。
勇者のその後を。
勇者は魔神を倒した後クルシュアの加護、強大な力を失うのを恐れどうすれば力を失っても良くなるのだろうかと考え、結果クルシュアの分身であるアシュルクの一番力のある部分。
心臓をクルシュアに知られないように隠し持っていた。
しかしクルシュアは勇者の加護を奪わず勇者は寿命がきて死んだ。
だが、魔神の心臓は残った。
勇者は最後自分の息子に心臓の在り処と処分してほしいと伝えたが息子は加護を受けておらず多少腕は立つが勇者と比べるとかなり弱かった。
勇者の息子は勇者が生前使っていた神器ロスを使い魔神の心臓を切り刻んだ。
けれど神器のお陰で切り刻むことは出来たが完全に処分は出来なかった。
勇者の息子は切り刻んだ後それを海底へと沈めた。
しかし時が経つにつれ心臓を封じていた箱は劣化し風化した。
その結果、魔神の心臓は世界各地に散らばった。
「もうこれくらいで分かったじゃろ。儂はその魔神の心臓を体内へ摂取したのじゃ。まぁ、1%にも及ばないくらいの微々たるものじゃがな。案外これ以上摂ると儂自身が耐えれなかったかもの。」
バトソンは愉快に笑うがディアとリュートは一瞬も気を緩めなかった。
「じゃあそろそろ姫を守りきれなかった騎士達には退場して貰おうかの。」
バトソンはそういい動き始める。
それに警戒して2人とも構えるが次の瞬間ディアは吹き飛ばされていた。
「グハッ!!」
どうしてこうなったかと言うと単純にバトソンがディアを蹴っ飛ばしたからだ。
ただそれだけでディアは壁を突き破り隣の部屋の壁にもたれ掛かっているのだ。
「ディア!!」
クリミアの悲痛な叫びが部屋に響く。
「大丈夫だ。待ってろ。直ぐに助けてやるからな。」
そうディアが言うとディアの背中から翼が生える。
そして目が金色に輝き着ていた装備が黒く光る。
他にも爪と牙が伸び、首元には黒い体毛が生えて動物の様な角が2本頭から生えてた。
これがディア、悪魔の王の姿だ。
「安心してください。クリミア様。すぐにこの不届き者を倒します。」
ディアが本来の姿に戻るのに合わしてリュートも本来の聖龍の姿になった。
2人とも本来の姿の方が戦いやすいのだ。
そして本来の姿に戻ったということは2人とも全力ということだ。
「やっと本気か。じゃあ、儂も本気を出されてもらおうか。」
先に仕掛けたのはリュートだった。
一点特化の光のブレス攻撃。
光ではダメージが無さそうに見えるが光は浄化と熱を同時に与えることが出来る。
魔神の心臓を摂取したバトソンは当然魔属性を備えている。
ブレスを浴びたバトソンは体の端が溶けて半ば原型を留めてない。
しかしすぐに再生し始めた。
ディアはバトソンが再生しきるまでに闇を纏った剣で切りつける。
この剣はディアの魔力を固めて作った剣だ。
バトソンは切られ続け最終的に地に伏せた。
「ごフッ。まさかこの状態の儂がここまで追い詰められるとは思いもせんかったわ。じゃがな儂にはまだ切り札があるのじゃよ。」
そういいバトソンは自分の口に放り込んだ。
ごくり。
「ぐふっ。げho。」
苦しそうにバトソンが唸った次の瞬間バトソンはさらなる異形へとかした。
人の原型は留めずタダの肉塊、それもかなりの大きさに変形した。
「ugaaaaaaaa。」
知性の一欠片もない醜い姿と濁った声は見るに耐えない姿だった。
元バトソンは屋敷を壊し更に膨張し遂に屋敷と同じぐらいの背丈になった。
「まさかこれが魔神の心臓の力か?」
「...恐らくそうでしょう。しかし今ならはっきり分かります。あれは私一人では倒せません。」
「チッ、俺もだ。俺には火力があってもスピードが無い。」
「私はスピードはあっても火力が無い。」
静まり返る二人。
「2人ともお願い共闘して!!」
そこにクリミアの声が響く。
それは二人共が考えており取りたくなかった手段だ。
しかし現状はこちらが圧倒的に不利だ。
「...これはクリミアの願いだ。」
「えぇ、そうですね。光と闇、聖と魔。拒絶しあわないか分かりませんが今はどうこう言ってられませんね。」
「安心しろ。文字通りは俺らには幸運の女神が付いてるんだぞ。」
そんな言い合いをした後、一拍おきディアはリュートの背中に乗る。
そしてディアはリュートに、リュートはディアにお互いに自分の魔力を流しあい混ぜ合わせる。
するとディアの装備に白いマダラができ、リュートの鱗には黒い線が入った。
「「行くぞ(いきます)!!」」
そして二人はバトソンに突っ込む。
光のスピード闇の破壊力。
本来は拒絶するのだがしないのははっきり言ってクリミアのお陰だ。
クリミアのスキル『幸運Lv10』は自分だけではなく信頼している者にも効果を発揮する。
普通だったら外れる攻撃も当たり当たる攻撃はクリティカルヒットする。
だから本当に幸運の女神が見守っているのだ。
『光闇複合魔法 堕天使の剣』
ディアが魔法を使い自分の剣を更に強化する。
『聖魔複合魔法 聖者の悪行』
リュートもディアに合わして自分を強化する。
「全速力で飛びます。落ちないでくださいよ。」
リュートは一旦バトソンから距離を置き猛スピードでバトソンに突撃する。
そして背中に乗ったディアが剣でバトソンを何度も切りつける。
切り刻まれたバトソンは苦しそうに叫ぶ。
「guwaaaa」
追い打ちに2人が力を合わせ最強の魔法を発動する。
『光聖魔闇複合魔法 全て0に』
黒と白の光がバトソンを包み最終的に何も残らなかった。
「クリミアは無事か?」
「分かりません。もしかすると巻き込まれたのかも...。」
クリミアの居場所を見失った二人は心配になるが
「2人ともありがとう。」
クリミアは多少服が汚れているが無事だった。
「ふぅ。疲れた。」
「流石に私も疲れましたね。」
二人は人の姿になり地面に横たわる。
それをクリミアは見て思う。
聖女とは博愛であるべきだ。
(どんな時でも私を助けに来てくれる。そんな姿に私は...)
しかしクリミアは2人を異性として好きになっていた。
(だから私は聖女じゃありません。)
そうまた思うのであった。
ただクリミアは鈍感で2人の想いには気づいていないし、自分の恋心は完璧に隠しきっている。
この恋が進むにはかなりの時間が必要そうだ。