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最後の戦いⅡ

 陽が地平へと傾いていく最中、人類の存亡を賭した戦いは激化の一途をたどっていた。

 一度剣が拮抗すれば仕切り直しとばかりに両者はその姿を消し、刀身からなびく光の線ばかりが取り残される。この世界において究極ともいえる体さばきの後、再び剣はぶつかり合う。


「クハハハハハ! 面白い! 面白いぞシンヤとやら!! 我が神速セカイに踏み入るか!!」


少女の清廉な顔に浮かんだ恍惚の表情にシンヤは恐怖を感じていた。


(この状況を楽しんでいるのか!? どちらかが死ぬというのに!?)


音が遅れてくるような剣技をどうにかなしながら、シンヤは改めて目の前の「骸の魔王」という存在を考えていた。

この世界に覇道を唱え、自分の猛攻を「余興」と呼ぶ。明らかな狂人に対し、シンヤは彼女に妙な違和感を覚えていた。

しかし明確な答えを出せるほどの猶予などあるはずも無い。


(どの道・・・コイツは危険だ・・・。集中集中――――)


 鋭く繰り出された突きを頬に流し、シンヤは即座に間合いに潜り込む。彼の剣が大きく弧を描くも既に魔王は数歩先に立っていた。

神薙真哉はこの瞬間も「骸の魔王」を学び続ける。いつも通りの集中力で。

 魔王は延々と繰り返される展開に業を煮やしていた。残酷な笑みとも違う、冷静な支配者の顔が勇者に向けられ始めている。


「ふむ。ならばわらわも本気といこうかの」


その不敵な笑みの意を介し、シンヤは回避を試みる。魔王は身体に着色された様なドレスから黒い霧を漂わせ、人語とは異なる言語での詠唱を行い、そして一言の如く終えていた。その手には固体化した影とも言うべき黒球が生成されている。


「さぁ、全力でもてなしてやろう。『虚無弾』開口―――――」


次の瞬間、部屋一面の影が一挙に膨張し、分裂していく。生み出された黒球は不規則な弾幕となり、一斉にシンヤに殺到する。

「陽が沈むまでは」。それは闇を操る魔王にとっての勝利宣言に他ならなかったのだ。


全方位より降り注ぐ攻撃に対し、シンヤはひたすらに回避を続ける。幸いにして彼の敏捷は黒球の初速を上回っていた。

 一撃、二撃―――――――三波、四波、五波―――――――闇が濃くなるほどに『虚無弾』の威力は増していく。

シンヤは焦りの色を見せつつあった。


「なんで、こんな・・・・・・!?」


あまりに圧倒的で、あまりに理不尽なこの異世界に憤りのこぼしながら、それでも、彼は最後の一撃を剣で薙ぎ払った。辺りの影が波打つ様子も無い。

そうだ、今までもこうやって乗り越えて来たんだと、達成感と高揚をその胸に、勇者は再び魔王と相対する。

魔王は最初に生み出した黒球に魔力を集約し、人ですら呑み込めるサイズにまで肥大化させていた。


(今なら、今の俺なら・・・・・・!)


もはや彼に迷いなど無く、後に退く理由ですら忘れ去っていた。


「――――――――――行くぞ」


少年は剣を構え





「・・・・・・・・・・・・え?」





 立ち止まるシンヤ。手が震える。


流線型に伸びていた、王国に語り継がれていた、どんな時も折れなかった、聖剣が、消えていた。


金の輝きを放っていた刀身は根元から全て抉れ、露出した芯部と革の柄だけが残るばかりだった。


窓辺から薄く尾を退く夕日は徐々にシンヤの視界を暗転させていく。


魔王は静かに笑い、言った。


「言うたろう? 陽は、失せた」



放たれた強大な魔力塊は敷き詰められた白の大理石ですらも奪い去り、喰らい尽くしていく。咄嗟に窓へ、微かな光の元へと走るシンヤ。

諦めてたまるかと、死力を尽くし駆ける彼の耳に、何か、残酷な何かが聞こえた。







「―――――――――――――『虚無弾』」






その小さな弾丸は、いとも簡単にシンヤの胸を貫き通した。

黒球に呑み込まれる刹那、少年の双眸には、光を失い紫になびく西の空だけが、まるでストロボのように焼き付いていた。




執筆のペースをとにかくアップさせたい今日この頃。どうも、起石です。

なんというか・・・・・・今回の話にサブタイ付けるとしたらアレですね、『シンヤ死す』的な?

予め書いておきます。「まだ続きます!!」


◇設定紹介◇

『虚無弾』 ~ 「骸の魔王」が使用した闇属性の高位魔法。魔族に伝わる秘術。周囲の影を媒体に強力な魔力の弾を生成し、全方位より攻撃する。

しかし、通常は燃費が悪く連射は不能。更に聖剣を破壊するほどの威力は無いはずなのだが・・・・・・。 

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