朝焼けの中で
目を覚まして早々に、シギルは息を荒げていた。
あの時と同じ悪夢────シギル・キルケーが骸の魔王、自分でない自分に壊されていく地獄だった。
深く息を吐き精神をなだめていた時、不意に甲高い金属をぶつける音が耳に届く。
天蓋のベッドから起きレースの揺れる窓際へ。
眼下に見える草原の一角、屋敷前に立つ大樹の下にあの男の姿があった。
最早驚くことも無い。
この邸宅に赴任という名の左遷をされてから早3日、神薙真哉という男は昨朝も薪を一本枝に提げ、それを長剣を以て切り付けているのである。
叩いては戻って来る薪を懸命に往なし、躱していく様はシギルにとってはひどく滑稽なものだ。
誰に教わったのかも分からないその型は全く足を使った体重移動が出来ていない。
太刀筋に至っては何故あれ程までに定まらないのか、寧ろあの薪を割らない訓練なのかと思う程。
要は素人そのものである。
昨日に初めてこの光景を目にしたシギルは二つの感情を抱いていた。
一つは人間の為す事を見た嘲り。
もう一つはあの日を思い出す様な屈辱──────自分はこの程度の、戦士にも満たない者に負けたのかという憤りであった。
シギルの感情など知る由も無く、真哉は一通り剣を振り終えると次は弓を、その次は馬を持ち出す。
ぎこちない動作、その一挙手一投足はいずれもが見るに堪えないものだった。
「────────何故」
何故なのだろうか、あの男に負けたのは。
何故なのだろうか、意味の無いことを繰り返すのは。
何故なのだろうか............あの男の能力は。
ついにシギルは昨日と同じ疑問に行き着いてしまった。
これ程の実力差を優に埋めてしまえる真哉の力の正体。
自身の「消滅」の魔力をも切り裂いた、あの技なのだろうか。
真哉が全ての鍛錬を終えた頃、朝焼けの耀きがシギルの居た窓辺にも射し込んできた。
頭の回らない時間に考え過ぎたこともあり、眩しさから逃げるようにして、結局シギルは二度寝した。
これから明らかになるであろう数々の疑問も、残された布団の温もりに勝てはしなかったとさ。
短めですみません(-_-;)