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番外編:駆けゆく戦場と剣鬼の最期Ⅲ 3017.02.06

 その魔剣は己の熱に揺蕩っていた。

あれはそも剣の範疇に在るものか、思考。

惑い逃げ行く者、或いは既に物言わぬ者。

自分は、確かに後者になっていた。

たった一振り、間合いですらもその斬撃は切り殺したに違いない。



 その威力をもって魔剣は討伐隊の大半を瞬く間すらも無しに屠った。

100mはあろうかという射程を前に精鋭の軍も為す術は無く、俺だけが生き返ってしまっていた。

生き延びた後方隊も凄惨な光景の前にその多くが逃げ惑い、また同様に、煩いも無く切り殺される。

言うなれば、それは地獄。

立ちふさがる未知に本能すらも抗えず、俺は馬上で呆気に取られてしまっていた。

その間にどれ程の命があの真紅の刀身に飲まれたのかは分からない。

しかし、その中の誰かの叫びが、慟哭が、ついにはこの体を動かしたのだ。

我に返ったとき、俺のやるべき事は既に決まっていた。

手綱を握り、一直線に死山を駆る。

こちらに気付いた頭目、魔剣使いはゆらり、と。


断絶。


また、だ。

もう流石に理解している。

また、俺は死んだのだ。

今度は馬諸共に、手を返しての縦一文字に巻き込まれたのだ。

しかし、尚も俺は生きている。固有能力オリジンによって()()()()()()()()()()()()()()()()()()

ということは、やはり魔剣あれはこの世にあってはならぬもの。かつて転生神を名乗る者に託された使命、それを果たすべきは今この時なのだろう。

考えを巡らせ腐らせぬようにするその刹那に、


断絶。


また、しても。

途切れた思考を繋ぐ。

繋ぎ直せ、一秒でも早く。

遠隔で刻まれながらも、俺は遮二無二走る。一歩でも距離を詰めるべく。

その間、魔剣は振るわれる度に光線じみた斬撃を放ち、その度に間合いの一切を無視した傷がこの体を開くのだ。

何度意識が途切れたかは判らない。

が、何れも()()()()()()()()()()()()

相手からしてみれば不死者アンデッドも宛ら、確かな手応えですらも飲み込んでいく様はそれこそこの世に在っていいものではないのかもしれない。

その点に関して、俺は相性が良かった。

あと一歩。

吹き飛ばされて尚進撃を続ける。

例えこの手が、足が、意志諸共に切り裂かれようと止まることなど知る気も無い。

背にした幾千の死者に押されるように、ようやく俺は魔剣使いの死線に踏み入った。

直後、振り下ろされた袈裟懸けの一閃。

それを払ったのは金色の長剣である。

かつて無銘だったそれに付けられた號は「聖剣」。

手に馴染み始めた感覚を頼りに、俺は魔剣使いと打ち合っていく。

僅か5合の間に対照的な二振りは火花を散らし、また不協和音を叫ぶ。

恐らくは互いの性質か。魔剣が発する瘴気を聖剣が浄化クリアライズし続けているのだろう。

鍔迫り合いの後に初めて魔剣使いは後方へ退いた。

こちらは殆ど消耗しているというのに、相手は依然として無傷。

一塊の盗賊などという概念は既に消え去っていた。


「あなたが賊の頭目か......?」


早鐘を打つ胸を押さえ、俺はこのとき初めて対話を試みた。

返答は、無論皆無。

代わりに返ってきたのは虚ろな眼差しと低い唸り。そして、


断絶。


やはり、死なない。

少なくとも()()()()()()()()()()()()()()

しかし、それに代えても剣という物の意義を崩す斬撃とは厄介でしかない。

......だとしても。だとしても、だ。

理不尽極まりない力の全てをこの世の神は許しはしない。許してはならない。俺に与えられたのはそういう類の能力だった。

兎にも角にも真に留意すべきは本当の魔剣のリーチ。その一つに限られる。

柄を握り締め、弧を描きながらも疾駆する。

これが、最後の打ち合いだ。


 死角の端から振り上げられる魔剣。

半ば跳躍していた俺は咄嗟に刀身に足を当てる。

強烈な衝撃、魔剣を支点に後方へと飛んだ俺は再び挑む。

更なる一撃は真っ向から受けずして流す。すり抜けた聖剣は頭一つ、やはりその一歩が届かない。

荒れ狂う剣戟の猛威は互いの死地を幾度も踏み越え、高く啼く刃と刃にその輝きですらも追随することは能わない。

あのくすんだ刀身が視線を過る度に死を覚悟した。

それでも、だとしても。

許せなかったのだ。死を弄ぶ輩が、仲間をも切り捨てる奴が。

負ける訳にはいかないのだ。

何回切り裂かれようとも、何回血反吐を味わおうと。

これは誰が為でなく、己が為の戦い―――神薙真哉という人の在り方だ。

例えこれから何度死の間際に立ち会おうと、この手が届く限りは守るべきものがあって、この世界に来たときからずっと変わらない意志を描いている。

だからこそ、

負けられない。

逃げられない。

今は只立ち向かおう。

自分が、自分である為に。



 結果から言えば、勝敗は既に決まっていたらしい。

俺の持つ性質を魔剣も遂には越えられず、果てしない消耗戦の後に俺は頭目諸共それを叩き切った。


あの魔剣、後にティルフィングと呼ばれるそれを王国が恐れた理由。それはやはりあの剣が持つ「間合いを無効化する」「相手を即死させる」という特性が故だった。

とある遺跡から出土したというこの剣を、当初王国は対魔族軍用の切り札として運用するつもりだった。しかし研究が進むにつれてそのデメリットも明らかとなる。

一つ、この剣は生物の魂を魔力に変換する。

二つ、この剣は使用者の精神を依代とする。

三つ、この剣は全ての生命に敵意を持っている。

とどのつまり、魔剣ティルフィングは加速度的に周囲の生命を刈り取る()()()とのことだった。

こうした研究結果が出た矢先に実験工房を例の盗賊が襲撃。結果として使用者であった賊の頭目は意識を吞まれ、魔剣がその仲間をも切り伏せたのだろう。


 確かに俺は勝利を得たのかもしれない。

しかしそれは多くの犠牲を払った為であり、その上俺はお守り代わりに持たされた能力無しには勝てなかったのだ。

相手が許されざる領域の者であって、それを狩る使命を帯びていたとしても、結局俺は自分の実力すらも行使出来ないでいた。戦いにあるはずの誇りも信念も、活かせた瞬間など覚えてすらいない。

俺は相も変わらず自分が情けなかった。


 戦死者の墓石に別れを告げて、俺は北東へと急ぐ。

全ては悲劇の連鎖を断ち切る為に。

そして何より、己の弱さと決別する為に。

モデルとなった魔剣ティルフィングは北欧の伝説「ヘルヴォルとヘイズレク王のサガ」に登場する剣で流石に「間合いを無効化」だとか「精神を蝕む」のようなぶっ壊れ性能ではありません。

実際の能力は「岩でも紙のように切る」「願いを3つまで叶える」「血を吸うまで鞘には戻らない」「使用者は最終的にこの剣で殺される運命を背負う」です。

前言撤回。ハイリスクハイリターンなチート兵器ですねコレ!

願うだけで勝利確定とは......聖○戦争とかならエグイなぁ、という薄っぺらい感想が出ました。


最後までお読みいただきありがとうございました!

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