第35話 運命のあの日
短くて申し訳ございません!許してください!何でもしますから!
ユーリディア「ん?今何でもするって?」
(言って)ないです。と、言う事で久々な本編をどうぞ!
俺は妹を部屋から追い出した後、手渡された服に着替える。何故か上着のポケットに入っていた謎の白い布を部屋の外にいる妹にぶん投げるという事件が発生したが、特に何かあったということもない。俺はいつも通りに玄関に置いてある木剣を手に取った。
「お兄ちゃんまた素振り?」
「ああ、行ってくるよ」
妹は何かを言いたそうにしていたが俺はそれに気付かずドアを開け、外に出た。俺は庭に周り、素振りを始める。
(なんだろう・・・何か軽い気がする)
そんな疑問が不思議と自然に浮かんできた。そんな疑問を打ち消すように新たな疑問が浮かんできた。
(俺こんなに筋肉あったっけ?)
自分の腕を見ながら記憶にある自分の腕と照らし合わせる。明らかに違いすぎる筋肉量に頭を悩ませる。が、素振りをしている腕は止めない。うーん、と唸っているとズズズッ、と身体から何かを引き出される様な感覚があり、?を頭に浮かべ、木剣を見ると蛍のように光の粒子が木剣に纏うように漂っていた。俺はピタリと木剣を止めた。
「え?なんだこれ・・」
俺はこの不思議な光景に目を奪われた。だが直ぐにその光の粒子は散ってしまった。俺は木剣を下ろし、家に入る。先程の現象を考察しながら――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
部屋に戻ると制服に着替え、教科書や筆箱をバッグに入れ、それを片手に居間に向かう。テーブルには朝食が用意されていて、親父が鎮座している。親父の片腕が何故ないのか、それは俺がまだ小6の時響の暗殺を依頼されたときに俺が抜刀術で切り落としたからだ。まだ俺はあの時響を殺した奴を憎んでいる。俺は黙々と朝食を食べ、食べ終えるとバッグを肩に掛け、ドアの取っ手に手を掛けた。その時――親父がぽつりと呟いた。
「あの時は・・・・すまなかった」
またその言葉だ――・・。
俺は我慢が出来なくなり、親父の胸倉を掴み上げた。
「今まで何回その言葉を俺に向けた!?そんな安い言葉であの事件を――響を片付けんじゃねぇ!!!」
俺は力いっぱい親父を壁に投げた。壁に穴が開き、その前で座り込んでいる親父を一瞥し、母親の制止を聞かず家を出た。ムカムカしながらも、通学路を辿る。そこに子供っぽい外見の俺の通っている中学の制服を着た少女が俺にむけて全力疾走で頭突きをかましてきた。俺は自然にその少女の頭突きを躱すと、何事もなかったように歩み始めた。少女は壁に頭をぶつけ、悔しそうに俺を見つめると地団駄を踏みだした。放っておけばキーッ!!とでも言いそうである。
「キーッ!!」
言いおった!?
俺はそんな出来事に驚き、呆れながらも通学路を進んだ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
~放課後~
「おい夏井!」
俺は振り返り、声をかけてきた男に返答する。
「なんだ裕理。何か用か?」
制服にマフラーと面妖な恰好をした親友がそこには立っていた。
「いや、お前が何か物凄く変わったような気がしてな」
「あー、なるほどな、それについては俺も気になってたんだよな。どうしてなんだろうな」
俺も疑問をぽつりと零す。
「お前自身も何か知らないのか?」
「ああ、全く」
親友の問いかけに俺もお手上げという事を伝える。
「ま、それはいいか、早く部活行こうぜ」
よく見ると裕理は竹刀袋と防具袋を持っている。
「あー、やっべ。今日無いかと思って置いて来ちまった、わりぃ。先に行ってもらえるか?」
俺は裕理に頼むと裕理は任せろと言った表情で自身の胸を叩いた。俺は踵を返し、自身の教室へと戻った。そこには俺の防具袋と竹刀袋が二つ。そして――菜々の首と男が俺の机に座っていた――・・。
「――は?」
俺はそんな声しか出せなかった。直ぐに我に返り、構えた。が、男はいつの間にか目の前に現れていて――俺の横腹を目にも止まらぬスピードで蹴り上げた。俺は真横にかっとび、壁に衝突した。ビキビキと壁にヒビが入り、パラパラと粉状のコンクリートが床に落ちた。それでもまだ男は何も語らずいつの間にか出していた剣を俺に向けた。その剣は酷く神々しく、そして醜かった。それを見た俺もまた、いつの間にか竹刀袋から取り出した二振りの愛刀が腰に挿さっていた。俺は白い刀を抜刀すると水平に男を斬った。が、神々しくも醜いあの剣に止められた。更に俺はもう一振りの黒い刀をすらりと抜き、胴を斬るように滑らかにその刃を走らせた。が、男は剣を俺の刀ごと横から縦に持って行き、致命傷を防いだ。今度は男が吹き飛び、綺麗に並べられた机を弾き飛ばしながら黒板にぶつかった。俺はそこにある首に視線を向ける。
「あぁ、そうか。菜々って死んだんだっけ」
心に引っかかっていた何かがスッと抜けた気がした。そして誰かに聞かせるようにぽつりぽつりと言葉を零す。
「俺さ、やっと思い出したんだよ、この愛刀の銘を・・・ずっと愛刀って呼んでたからさ、お前は名前つけてあげなよって、言っていつの間にかお前が銘をつけてたよな・・・・ギリシャ神話に出てくる運命の三女神、だっけか?・・・・・あの時恥ずかしくってその銘を呼べなかったけどよ・・・今なら胸を張って呼べる気がするんだ――」
男はゆっくりと立ち上がると自然な動作で剣を振り上げた。俺は二振りの愛刀を天に掲げた。その刹那俺の二振りの愛刀が眩いばかりの光を周囲に撒き散らした。
「――黒刀『ラケシス』」
黒い刀――ラケシスを力強く握る。
「――白刀『クロト―』」
白い刀――クロト―を力強く握る。俺は二振りの愛刀に自然と魔力を込め、一振りの刀を作り出す。
「――双刀――・・・――『アトロポス』――・・」
二振りの愛刀を同時に振り下ろし、一振りの巨大な刀を形作る。男も負けじと剣に魔力を込め、刀身を金色に染め上げ、真横から俺の愛刀に剣を叩き付けた。その時男が言った言葉は一生忘れることはないであろう――何故なら――・・。
「宮刀流―終伝―八岐大蛇」
響の家の刀派である宮刀流、その終伝と言えばとんでもない時間ととんでもない技術を要求されるので実質初代しか習得出来なかった技を今目の前の男が使ったのだ。それを見て動揺をしないわけがない。だが、俺はその感情を無視し、容赦なく振り下ろすスピードを速めた。そして、金色の光と紫色の光が交差した。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・・」
浅い呼吸を繰り返し、呼吸を整える。呼吸を整え終わるとタイミングを窺ったように男もユラリと立ち上がる。
「おいおい、ふざけんなよ。今放てる最強の一撃だぜ・・?耐えんのかよ・・・」
絶望の含まれた言葉を紡ぐ。男はその言葉を聞いていたのか口角を吊り上げ、剣を持ち上げた。俺は腕に力を入れようとするが、上手く力が入らない。
「クソがッ!!!」
自分の体に鞭を打ち、無理に立ち上がる。男は一歩一歩確実に俺へと歩を進め、距離を詰める。対して俺は立つことに精一杯で、剣すら振り上げることもできない、満身創痍だ。
(魔力も尽きた、体も動かない。・・・どうする・・?スキルを使うか?いや、今使ったところで役に立たない。あぁ、畜生、何もできねぇじゃねぇか・・・・)
絶望に打ちひしがれ、ただ立ち尽くすしかなかった。男は俺の目の前に来ると剣を振り上げ、俺の左肩から一気に斬り裂く――筈だった剣は何者かに弾き飛ばされ、宙に舞った。驚きに満ちた顔を俺の背後に向ける。背後には懐かしい顔の女性――いや、少女がいた。
「引け!低級なる我が兵よ!汝達は弱きを弄ぶ貧弱な者なのか!」
少女は数ヶ月前の無邪気な笑顔を浮かべておらず、凛とした表情で男の前に立つ。俺は無意識に懐かしく、そして思入れのありすぎる名前を口にした。
「――ユキノ」
そう、数ヶ月前に突然現れた邪神に連れ去られ、その後消息不明になった俺の恋人――いや、妻はここに姿を再び現したのであった。ユキノはゆっくりと振り返り、懐かしい無邪気な笑顔と声で俺の名前を呼んだ。
「久しぶり、フウマ君」
その言葉に俺は返答が出来なかった。