第33話 神工熾天使
遅れてしまい、申し訳ございません。
「『時間支配』」
その魔法を行使した瞬間――。世界の色が抜け落ちた。
「殺してやる」
殺気を更に濃密に広がらせる。その殺気に気絶する生徒達。俺は菜々に手を翳し、『グレイフルヒール』を掛けた。そして六枚翼の少女に向き直り、左手を翳し、開いていた手を握った。その瞬間少女は凍ったかのように動きを止めた。右手でストレージを操作し、『古式歩兵銃』を取り出し、ぶっ放す。打ち出された弾丸は少女に当たり、停止した。まるで少女の周りだけ時間が止まっているかのようにだ。俺は『古式歩兵銃』をストレージへ戻し、アイテムボックスから何の装飾もされていない無骨な剣が一振り俺の手へ収まった。俺は剣に周りを圧倒する程の剣気を撒き散らせ、握っていた左手を開けた。その瞬間弾丸が少女の体に着弾する。
「GYAAAAAAAAAAAA」
少女のようなモノは悲鳴と思わしき声を上げた。着弾した箇所からは翼と対照的な真っ黒な液体。いや、これは血と云うべきモノだろう。異形なモノの身体が金色の何かに包まれた。刹那、弾丸の着弾した箇所が急速に再生されていく。その姿は宛ら天使の様だった――。
俺は天使が再生を始めた瞬間――体制を低くし、天使に向け一気に駆けた。ドンッ、という音と共に爆風と木の破片(体育館の床)を撒き散らし、一秒という時間を懸けず肉迫する。そして剣気を纏わせた剣を天使の腹部に振るう。が、ゴガギンッ、という不吉な音がした。俺は天使の腹部を蹴り、天使との距離をとった。そこにすぐさま『短銃』を取り出し、発砲した。ドパン!ドパン!、と打ち出された弾丸は天使の眉間へと飛翔する。そして『短銃』を投げ捨て剣を胸の前に持っていき、そこから前へと腕を伸ばす。
「『翼』!」
俺は無属性魔法で翼を作り、一気に翼をはためかせる。翼をはためかせると、俺の体は上空に留まった。そして更に翼をはためかせると天使へと飛んだ。
「【七神刀流 毘沙門天】!!!」
切っ先から順に蒼白い光に包まれ、更に加速する。そして先程の弾丸が天使の眉間に着弾する。天使を大きく仰け反らせ、弾丸が逸れ、空へ飛翔する。ブン、という機械音の様なものが聞こえ、天使を包んでいた金色の何かが消える。そこに【毘沙門天】が天使の腹部を貫く。腹に穴が開き、真っ二つとなった天使は消滅し、大きな魔石が落ちた。俺はそれを拾い、アイテムボックスへ放り込む。剣を納刀する為剣を背中に回し――俺は回転し背後で光る剣を振りかぶっていた天使の光剣(フウマ命名)を上に弾き、仰け反らせる。仰け反って隙を作った天使の眉間に剣をぶっ刺した。ビチャビチャッ、という音を立て、真っ黒な血が噴き出し、消滅した。先程の魔石より二回り大きい魔石が俺の開きっぱなしだったアイテムボックスの入り口にスポン、と入っていった。俺は終始無言でアイテムボックスを閉じると剣を握りなおした。
「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!!!」
と、不意に天使の声が聞こえ、体育館の屋根が突き破られた。上を見上げるとそこには、
「ははは・・・嘘だろおい」
乾いた笑いを零し、絶望の声を上げた。上を埋め尽くすほどの巨大な顔に届くように・・・。
巨大な天使の顔はあざ笑うかのようにその巨大な腕を伸ばした。俺はバックステップで距離をとり、剣に魔力を込める。すると剣は眩いばかりの光を放つ。そして剣を肩に担ぎ、魔力を放出させる。バシュー、という空気の抜けるような音と共に刀身に電気が刀迸る。それを合図に俺は『縮地』を使い、天使の顔の前に飛び上がり、
「【第二秘剣 雷神雷撃】」
顔を薙ぎ払った。その刹那。バチリ、と静電気が発生し、空から雷が降り注いだ。轟音が響き渡り、雷が天使を襲う。何回落ちたのだろう。体育館の壁は吹き飛び、生徒達は叩き伏せられ、床は黒焦げになり、天使の翼の破片や、肉片が辺り一面にびっしりと張り付いている。俺はその中央で突っ立っており、傍から見たら魔王だと勘違いされる光景である。ふと、手に何かが当たる感触がした。俺は空を見上げる。ポツポツと顔にかかるのは真っ黒な血の雨。その雨は周囲に水溜まりを作った。と、剣を持っている右手に振動が伝わり、剣が粉々に、塵と化して風に飛ばされていった。空いた右手をブラリと垂らすとフラフラと身体が揺れる。最後に視界に映ったのは――八枚の翼を左右に生やし、俺を見下す――ユキノだった。
「・・・・・・・え?」
そんな間の抜けた声を零し、地面に倒れた――。
☆ ☆ ☆
「ァァアアアアアアア!!!!」
俺は白と黒の剣を片手に持ち、奴に向けて一気に駆ける。黒い地面が抉れ、途轍もない突風を生み出す。顔の高さに持ち上げた剣の刀身に漆黒の光が灯り、切っ先に純白の光が灯る。それらは眩い光を放ち、更に加速した。奴は持っている漆黒の剣を引き、疾走している俺に向けて駆ける。
「光騎の矛!」
純白の矛が剣を包み、形作る。
「血に飢えた剣」
漆黒の剣に赤黒いオーラが纏い、六芒星が刀身に現れ、俺の剣とぶつかった。純白の光と赤黒い光が互いを侵食しあう。
そして白い世界に誘われた――。
「やあこんにちは」
目の前に俺がいた。
「俺・・?」
「そう。お前だよ。夏井楓真だよ」
俺は剣の柄を握ろうと背中に手を伸ばす。が、手には何の感触もなく、空振りした。
「あ、そうそう。言い忘れたけど・・装備があるわけないよ。ここは俺の世界だし」
と言い終えた瞬間。俺は奴の背後に移動し、殺す気で殴る。だが何かに阻まれた。
「おいおい。どうして言い終えてほぼノータイムで俺の背後に移動して殴れるんだか・・・流石イレギュラー」
「・・その言葉久しぶりに聞いたよ」
俺は殴った体制のままそう返す。
「で、さっきの戦いはなんだ」
「あれは未来視の一種さ。でもあれは運命の行く先だ」
「ってことはあれは確定事項という訳か・・」
「そう、現時点では・・・な」
なんとも意味深な言い方をする。
「あ、因みにお前天使達に囲まれてるからな」
「ファッ!?」
衝撃の告白に俺は思わず声を上げた。
「ま、取り敢えずこれを教えてこいって頼まれたし、教えるわ」
「一体何をだ?」
「ま、必殺技ってやつだ」
俺にウィンクし、何処からか剣を取り出した。
「さぁ、修行ってやつを始めようか」
そして俺に迫ってきた。
☆ ☆ ☆
俺が目を開けると俺の周りを天使が囲っていた。俺はダイナミックに起き上がるとストレージから『聖剣エクスカリバー』を取り出し、あるスキルの名を口にする。
「『英霊降し/アーサー・ペンドラゴン』」
蒼いオーラが俺を包み、髪の毛が金色になっていた。俺は剣を横に構え、
「刀聖の名に懸けて全てを葬る」
過去の通り名を口にする。刹那空間がズレ、ボトリと天使達の上半身が落ちた。俺は剣を鞘に納めた。
「たわいない」
俺は背後に気配を感じた。
「お見事」
「何者だ?」
俺が問いかけると「そうですね・・」と考えるように間を置き、答えた。
「『創世神』・・とでも言って――」
ガギンッ
「おいおい。いきなり攻撃かよ」
「黙れクソ野郎」
『エクスカリバー』が創生神を名乗る者の剣に止められている。
「その剣・・神器か」
「そうだ、神器―天叢雲剣って奴だよ」
俺は舌打ちすると男から距離をとる。
「『英霊降し/クー・フーリン』」
俺の髪の毛が緑色に染まる。『聖剣エクスカリバー』をストレージに仕舞い、『戦槍ゲイ・ボルグ』を取り出す。そして一気に攻めに転じた。赤く光る『ゲイ・ボルグ』は更に怪しく光った。レイピアのように刺突を何度か重ね、一時的に連撃に昇華させる。だがそれを全て剣で捌かれる。
「お前・・・まさか」
「おや、やっと気づいたのか」
ギリッ、と歯軋りをした。俺の槍は跳ね返され、男は真実を告げた。
「そうさ、お前の前世を鏡写しにして力を行使してるんだよ。だから正真正銘『創世神』ってわけだ」
(あー・・くっそ、コピーとは言え『創造神』だ。森羅万象を司ってるわけだから木々に命じて俺を捕らえることも容易な筈・・・それが出来ないのは普通の人間とは違うからか・・?もしかしたら俺の前世が『創造神』なのと関係が?いや、根本的には人間と変わらない筈だ。何だ・・?何が奴の能力を制限しているんだ?)
と、そこで俺の思考を男の攻撃が遮った。
「【天ノ叢雲】」
そこにとんでもない量の水が召喚され、流れてきた。正に洪水だ。俺は即座に魔力を左手の掌に集める。集めた魔力を魔法陣に展開し、魔法を発動させる。
「『アースウォール』」
水を囲むように土の壁を出現させる。そして出現させた土の壁を崩れさせ、水を土で埋め立てる。掌の魔法陣を握り潰すように手に力を込める。
「圧縮」
魔法陣を握り潰すと、パリン、と魔法陣の砕ける音と共に埋め立てた地面がバシュッ、という何かを潰す音が重く響く。
「『英霊降し/ジークフリート』」
俺の髪の毛が緑色から輝く綺麗な銀髪に変化した。『戦槍ゲイ・ボルグ』をストレージへと放り込み、『龍剣バルムンク』を引きずり出す。『バルムンク』は幅広で、黄金の柄には青い宝玉が埋め込まれ、鞘は金色の打紐で巻き上げられている。気品のある剣である。この剣に込められているエンチャントは『硬化』、『龍殺し』そして『自動修復』で、『硬化』とはその名の通り使用者の皮膚を硬化させ、攻撃を通されにくくする。『龍殺し』は龍に対して異常なまでのダメージを与えられる。そして最後の『自動修復』とはその名の通り時間が経つにつれ、破損した箇所や金属疲労をリフレッシュさせ、万全の状態に保つことができる。かなり汎用性の高いエンチャントだ。
「地を割り、敵を穿て!【バルムンク】!」
武器開放という武器のポテンシャルを瞬間的に最大限に引き出す技。それが武器開放。俺の剣――『龍剣バルムンク』は青い宝玉を真っ赤に染め上げ、刀身に赤いオーラを纏った。そして俺は一気に男を――叩き伏せた。
ドッ・・・・ガァァァァァァァァァァァン!!!!
空気の割れるような轟音が体育館跡地に響き渡った。生まれた暴風は地面にひれ伏す生徒達を攫い。また、生まれた衝撃波は体育館の残骸を消し飛ばした。男のいた位置まで地面が割れ、生えていた雑草全てが枯れていた。
「『英霊降し/解除』」
輝く綺麗な銀髪が徐々に黒へと染まっていく。俺は力を振り絞り、満身創痍のまま手に持った『龍剣バルムンク』を天へと掲げた。
「俺の・・・勝ちだ・・ッ!」
『龍剣バルムンク』は淡い光と共に消え、既に満身創痍だった俺は体を支えきれずに地面に倒れた。
2017/8/20 修正。
「『創生神』・・とでも言って――」→「『創世神』・・とでも言って――」
「そうさ、お前の前世を鏡写しにして力を行使してるんだよ。だから正真正銘『創造神』ってわけだ」→「そうさ、お前の前世を鏡写しにして力を行使してるんだよ。だから正真正銘『創世神』ってわけだ」