第32話 襲撃
ジャンヌと話して校舎を出ると辺りは暗く、漆黒に塗りつぶされた空には星の運河が宝石のように輝いている。そんな中俺は空を見上げず黙々と宿へと向かう。ロビーへと続く扉を開け、宿の中に入っていく。
「おや、随分と遅い帰りなのですね」
と背後から声をかけられ、俺は後ろを振り向いた。そこにいたのはこの宿の女将の娘だ。
「はい、実は集まりがあって、話し合いをして校舎を出たら真っ暗でした」
勿論ジャンヌと居残りの件は黙っておく。勘違いされても困るからね。
「そう、それで?カウンターに向かってたということは私に用でもあったの?」
「ええ、明日チェックアウトすると伝えようと思いましてね」
事情を話すと少し悲しそうな表情が覗き、直後。あの表情が嘘のように消え、笑顔になった。
「また泊まりに来てくださいね」
俺はそれに笑顔で答えた。
「ええ、また来ますよ」
そう言い、自分に用意された男子寮の部屋へ向かった。
☆ ☆ ☆
俺は部屋に入るなり近くに設置されているベッドにダイブし、仰向けになり、言葉を零した。
「フランスか・・・あっちに戻れたら行ってみようかな」
そう呟き、アイテムボックスからナイフを取り出し、振りかぶった。ビュン、という風切り音がなり、直後。天井にナイフが刺さった。そこで俺はナイフに結び付けていた糸を引き、天井から抜く。すると必然的に俺の顔めがけて落ちてくる。それを二本の指で挟む様に止め、手でクルクルと回し、遊ぶ。しばらく遊ぶと、アイテムボックスに戻す。因みにストレージの方はもう入らないので渋々アイテムボックスに入れているのだ。まあ話が逸れたが今試したかったのはナイフではなく、ナイフを引き抜く為に使った糸の方である。この糸の原材料は『アラクネの蜘蛛糸』(フウマ命名)というものだ。意外と糸が固く、加工や使用に適していないため買い取ってくれないのだ。まあもし手に入ったとしても売る気はさらさらない。せっかく便利な使い方を考えたんだ、そう簡単に情報提供なんてしてやれるかよ。自作のアラーム時計を見ると深夜二時をまわった頃だった。俺は照明魔法具に流す魔力注入台から下し、布団を被った。睡魔が襲い、俺の意識が沈んでいった。
☆ ☆ ☆
朝起きた俺は生徒手帳でノエルに連絡をとる。何度か呼び出し音が鳴ると「はーい」という元気な声が聞こえてきた。
「オッスノエル」
『フウマ君!久しぶり!今度食事行かない!?』
「ああ、今度の休み一緒に行こうか」
『やった、やった!フウマ君とデート、デート!』
ノエルの喜ぶ声に苦笑いをし、本題へと入る
「・・なあノエル」
『なあに?』
「この学園の宝物庫を見せてもらっていいか?」
『・・そっちが本題なのね?』
「ああ」
『・・・まあ、他ならぬ貴方の頼みだし、許可を取ってあげるわよ』
「ん?ノエルの独断で開けられないのか?」
『ええ、私一人じゃ流石にね』
「了解。じゃあ連絡してくれ」
そう言うと通話を切る。そこで大きく深呼吸すると制服を着、部屋を出る。出たところで菜々と出会った。
「お兄様。おはようございます」
「ああ、おはよ」
そこで昨日菜々と一緒にいた女子生徒が階段から現れた。
「ナナちゃーん。此処男子寮だよ~」
息を切らせながら上がってきた女子生徒は俺を見て顔を赤くした。
「あ、お兄さん!」
駆け寄ってくる女子生徒の名を俺はまだ知らない。どこぞのアニメタイトルかよ。
「えーと・・何ちゃん?」
「あ、はい。ショウカ・カタストロフィーです!」
「ショウカちゃんね。よろしくね」
二コリと笑いかけると彼女の名前について考え始める。
(カタストロフィー・・・意味は『破滅的な災害』・・あと『悲劇的な結末』だったか?・・災害ね~、何かありそうで怖いな)
俺はそんなことを考えていた。
ソノコトバガゲンジツニナルトモシラズニ・・・。
☆ ☆ ☆
数分後俺は教室の自分の席に座り、担任を待っていた。何気なく過ぎていく時間を心地良いと感じていると突如滅多に鳴らない鐘の音が響き渡った。この鐘の役割は二つある。一つは卒業式、または入学式に鳴る。そのどちらでもない。そこから導き出される結論はもう一つの使用用途である――襲撃、またはテロリストが学園の敷地内に入って来た時である。そのことに気が付いた生徒達は当然――。
「パニックになるよな~・・・」
周りの騒がしい声を聴きながらそう呟いた。俺は先を立ち、窓に向かって歩く。それを見た勇者は当然。
「夏井!一体何処に行くんだ!」
大声で言った為、周りの生徒達は動きを止め、俺を見た。勿論扉に群がっていた生徒達には聞こえる筈もなく、我先にと教室から出ようと必死である。
「・・何処に行こうと俺の勝手だ」
「だめだ!君一人では危険すぎる!行くんだったら僕も行く!」
(本当にこいつには虫唾が走る)
口の中で密かに舌打ちをし、本音をぶちまけた。
「てめぇは足手まといなんだよ!」
俺の怒号に扉に群がっていた生徒達も動きを止めた。
「・・僕は勇者だ!君を守る力だって・・!」
堪忍袋の緒が切れた。俺は殺気を教室全体に高密度で放った。勇者や菜々を含めた生徒全員が片足を付き、口に手を当てた。
「勇者、勇者って担ぎ上げられ、ぬるい訓練で音を上げていたお前が俺を守る?ふざけんじゃねぇよ!こちとら力不足で嫁を連れ去らわれてそれから奴を殺す為に必死に、血の滲むよう訓練で、地獄と呼ばれる場所で戦わなきゃ死ぬって状況を延々と繰り返してやっとのことで神の領域に足を踏み入れたんだ!高々人類を少し超えた程度で守るとか言ってんじゃねえよ!!!!」
俺は強度上昇のエンチャントが付与されたガラス窓を拳を叩き付け、割った。叩き割ったことに対して驚きを隠せないようだが、怒りが勝り、それどころではなかった。俺は大量の魔力反応のある北側へ走った。
☆ ☆ ☆
北側に着き、俺が目にした景色は正に地獄絵図だった。純白のローブに返り血を付けた集団を中心に警備冒険者と思われる男たちが血を大量に流しながら絶命していた。俺はストレージから黒いロングコートを取り出し羽織った。そして腰に挿した『銘無しの刀』の柄を握り、問うた。
「お前等!此処に何しに来た!!」
すると純白のローブを着た集団は俺を見ると姿勢を低く保ち、猛ダッシュで此方に向かってきた。更に腰を落とし、低姿勢の獲物を狩れるようにする。
「【第六剣聖奥義 閃卍】」
刀の刃が光ると同時に俺の周り半径40mに光の円ができた。そして集団が一斉に光の円に侵入した結果。彼らの上半身と下半身がサヨナラを果たしていた。すべてを切り裂き終わった光の円は役目を終えたかのように空に散っていった。そして脳内アナウンスが流れた。
[闘神の討伐を確認――認証。
戦神の討伐を確認――認証。
刀神の弟子の討伐を確認――認証。
闘神の弟子の討伐を確認――認証。
闘神討伐報酬――『闘神のガントレット』はアイテムボックスに送られます。
戦神討伐報酬――『戦勝の大剣』はアイテムボックスに送られます。]
無機質な声を聴きながら思ったこと。それは――。
「神が俺を狙ってる・・?もしくは俺のすぐそばに回収しなければならない物でもあったのか・・?」
その思考をぶち破るかのように爆発音が響く。俺は物凄い勢いで振り返ると先程まで俺達のいた校舎が炎に包まれていた。瞬間的に『縮地』を使い、駆けた。唯一の妹を探す為に――。
校舎には既に魔獣と呼ばれる高位のモンスターが何匹もいた。だが俺はそいつらを『銘無しの刀』で斬り倒していく。流石に数十匹を切り倒した頃には刃毀れが激しく、もう使える状態ではなかった。なので俺は容赦なく『銘無しの刀』を折り、放った。アイテムボックスから次の武器を取り出す為、手を突っ込んだ。そこで何かを掴み、それを引っ張り上げた。それは上質な革と世界樹と呼ばれる物の枝で作られた鞘の中に納められた知識の無い者が見てもそれは業物だと一目でわかる大剣だった。腰から『銘無しの刀』が納められていた鞘を投げ捨て、腰に大剣を提げた。その大剣を鑑定すると先程受け取った『戦勝の大剣』だと判明した。鑑定している間に囲まれていることに気付き、大剣を抜刀した。姿を現した刀身は眩いばかりに光を反射し、ギンギラと輝いていた。
「押して参る」
呟くと同時に周りからは消えたように見えたろう。だがそれは違い、俺は魔獣達の背後に回り、斬り刻んでいた。
「【完全剣技】」
刹那、バラバラと魔獣達の体は細切れになった。俺は口に溜まった血を吐き出した。
(流石に時間圧縮と縮地の併用は内臓に負担がやべぇな・・・というかよく考えたら俺のフィニッシャー全部体に負担かかってんじゃん)
今更自覚し、肩を落とす。だがそんなことをしている暇はない。俺は魔獣を斬り倒しながら体育館へと向かった――。
☆ ☆ ☆
―体育館へと続く廊下―
魔獣と対峙している俺は進むにつれて魔獣の強さが格段に強くなっていることを不審に思っていた。
(明らかに可笑しい。何故生徒達がいるであろう場所に近付けば近付くだけ比例するように魔獣達は強くなるんだろうか・・何か秘密があるのだろうか)
そういう風に考えてしまう。
「ヴァリエッタをぶちかませば終わるんだろうが方向は体育館側の被害が計り知れないしな・・・」
チッ、と舌打ちを無意識にしてしまう。何かが喉に張り付いているような違和感があり、その違和感の正体を探ろうと魔獣を斬り倒しつつ思考を巡らせる。
(何だ?何なんだこの拭えない違和感は・・何か引っかかる。・・・まるで誰かがここを通したくないような異常な強さの設定。それに通したくないのならば何故最初からチート並の魔獣を送り込まなかったんだ?まるで誘い込むみたいに――・・・まさかッ!)
俺は斬り合っていた魔獣を斬り伏せ、体育館の扉を開け放った。そしてそこで見たものは――
集まって居た生徒達と右腕を引き千切られている菜々の姿と―――六枚翼を生やした少女だった。
俺はその光景を目にした時、心の中にドス黒い感情が溢れ、口を動かした。
「『時間支配』」
と魔法を――発動させた――。
その瞬間、世界の色が抜け落ちた。




