9.火の契約
二人は書庫をあとにして、城の入り口へ向かっていた。
僕達って考えると。この世界に来てから、僕の様な冒険者に出会わないのも納得できる。名作とは言われてるけど、古いゲームだから。冒険者の数=プレイヤーの数……。そうなるとおかしいのは、僕はゲームをやってなかった。ソフトが何処に有るかも記憶に無い。
いつものリアルな夢じゃ無いのか? 転生!? いやいや、漫画じゃあるまいし。パラレルワールド……。
ダメだ、考えるだけ無駄なのかもしれない。目が覚めるまで、この世界を楽しむしかない。ただ……殴られたりすると、結構痛いのは気になる。
「お前さっきからブツブツうるせぇよ! 独り言えげつねぇな」
どうやら無意識に全部声に出ていたようだ……。
「あ、あれは何処にいったんでしょうか?」
話をすり替えよう。
「何がだよ?」
「あれですよ、アレ。さっき見た本に載ってた、聖剣ロンギヌス。多分あの割れた石碑の中にあったと思うんですよね」
「そんなの俺が知ってる訳ねぇじゃん」
そりゃそうだけど。
「ゲームではあれが無いと、臥竜王を倒せないんですよ?」
「つってもまだ臥竜王ってのが、復活したかもハッキリしてねぇんだからよ」
「かと言ってわざわざ隠し扉になってるんだから、下手にお城の人に聞いたら。僕達が盗んだと思われる可能性もありますよ」
「んじゃ、どうしようもねぇな。そうだ、そういえばさっき、本の間にこいつが挟まってたんだよ。ジャ~ン!」
ジュネが袋から何かを取り出して、恭の目の前でヒラヒラさせる。
「あっ、それ旅の翼ですよね! 一度行った町に瞬間移動できるヤツ!」 ゲーム序盤から手に入る便利アイテムだ。
「へへ、いいだろ! 今はあんまり手に入らないんだぜ」
「そうなんですか? そう言えば、道具屋でも見かけませんでしたね? ……下さい」
「はぁ? 何でお前にやらなきゃいけねぇんだよ」
「ゲームっぽいの使ってみたいんですよ! ……くれたら毎晩マッサージするし、洗濯も僕がしますから」
ジュネは恭の顔をジ~ッと眺め。
「……やだね。何か違う目的がありそうな気がする」
「そ、そんな事ないですよ!」
……鋭い。
「そんな事あるんだよ! 顔がニヤけてんだよ、変態小僧が!」
しまった。表情に気をつけなければ。
「じゃあ使う時は、僕も一緒にお願いしますよ!」
コーラル城を出た二人は、火の聖霊の祠に向かう事にした。
「あ、そうだ防具屋に寄って下さい。何か下着的な物を買いますから」
やっぱり褌は落ち着かない。
防具屋にトランクスに似た物があったので、それを買って履き替えた。初対面に近い人に、脱ぎたての褌を渡すのは抵抗はあったけど。袋に入れるのも嫌なので、処分してもらった。
「落ち着きました! さぁ、出発しましょう」
二人が町の入り口を出た時だった!?
「何か……揺れてませんか、地震? って、うわっ!?」
突然地面が揺れだし、立っていられない程の揺れになった。
恭とジュネは、地面にしがみつく様に伏せる。
「……またか!」
「またかって。よくあるんですか? こんな酷い地震が」
揺れは1分程続いて止まった……。
町に目をやると。ワァー、キャー少し騒がしいが建物自体は無事のようだ。
ブロックを積んだだけに見える建物は、見た目よりしっかりした造りなのかもしれない。
「よくって訳じゃねぇんだけど、1ヶ月位前に今と同じ位揺れて。ちょっと周りの様子を見てみようかと思って、こっちに来てみたんだ」
ジュネは、膝と手のひらの土を払いながら答えた。
「1ヶ月前か。僕がこの世界に来る前ですね。この世界に何か異変が起きてるんでしょうか。……臥竜王、復活の兆しとか?」
「考えても答なんか出ねぇんだから、先を急ごうぜ!」
「ですね。そういえば何処にあるんですか? 火の聖霊の祠って」
「この先のフリントって滅んだ村の少し先だ。俺も母ちゃんに祠の様子も見てくるように言われたから、チョット前に行ったところだ」
「フリント村には僕も行ってみましたよ。奥にある洞窟は何ですか?」
「あれは奥に精霊の泉ってのがあって。俺が行った時は、モンスターの住処になってたから全部倒してやった! あいつら光物を集める習性があるから、結構ディル溜め込んでてラッキーだったぜ!」
「それでか! 僕が行った時は、入り口に数匹しかモンスターがいなかったのは。でも、ゲームだとフリント村で赤目の鍵を手に入れないと先に進めないんですよ」
「俺はディルしか見なかったからな……」
「一応フリント村で探してみましょう」
二人はまずフリント村を目指す事にした。
途中ドードーの群に遭遇した。
ジュネが静かに剣を取り出す。
「よく見てみな。中心に一回りデカいのがいんだろ? あいつが群のボスだ。俺がやるから手出すんじゃねぇぞ」
ジュネが凄い速さで群に突っ込んで行った。
「オラーッ!」
剣を一降り。
ニ匹を一瞬で仕留め。更に返しの手でもう一匹の足を切り離し、倒れてきた所に剣を突き刺してとどめを差した。
残りのドードーは慌て逃げて行った。
「チッ、ボスを逃がしたか! まぁ、いいか」
ドードーの死体が砕けてアイテムに変わった。
肉が2つと、ドードーの羽が2つ。あと10ディルに変わった。
ジュネが剣をしまいながら戻ってくる。
「やった! ジュネさんレベル上がりましたね! でも、レベルって何が変わるんですかね? 特に変化は感じませんけど」
ゲームならステータスが三あがったとか分かるんけど。
「安心しな。力や素早さは、しっかり上がってる筈だからよ。聖神力は持って生まれた物だから変わらねぇけどな」
「目では見えないんですか?」
「教会で見れるぜ。ライヴポイントって所で見れるらしいぜ」
「ライヴポイントってセーブ出来るヤツですよね!」
「セーブ? 入ると傷が回復するらしいけど、俺は見た事ねぇな」
「体力は回復しないんですか? 疲れがとれるみたいな」
「モンスターは入れねぇから安心して寝れるとか。俺も本で読んだだけで、本物は見た事ねぇから詳しくは知らねぇけどな」
「一瞬で元気いっぱいって訳じゃないのか。……あ、僕に今のディルとか分け前的なのはくれなんですか?」
「何で? 俺が一人で倒したんじゃねぇか。何もしてねぇ癖に、レベルまで上がりやがって!」
「ジュネさんが手出すなって……」
でも聖約を交わした者どうしが、経験値を共有している事が分かったからいいか。極端に言えば、僕が寝ててもレベルアップのだ。
「チョットくらいくれてもいいのに。ほんとにジュネさんの良い所は、おっぱいとお尻の形だけだな……」
「あぁ? 誰が、ケツと胸だけだって!」
恭のお尻を蹴飛ばした。
恭は戦闘に参加していないのに、かなりのダメージを受けた。
フリント村の前まで来た時。ジュネの提案で先に火の聖霊の祠に行く事にした。
この先は祠しかないので、フリント村へは帰りに寄る事にしたのだ。
暫く道なりに行くと。聳え立つ岩壁をくり貫かれた穴の中に、巨大な赤像が見えた。
「あれが火の聖霊の祠かぁ! 大きいですね……」
近づくと更に巨大で20メートルはありそうだ。ルビーの様な赤い石像の中で、オレンジの炎が渦巻いて。溶岩に似た印象を受けるが、それでいて少しも熱さ感じない。
「……凄い迫力……これって火炎石ですか?」
「あぁ、これが最後の火炎石だって言われてる。昔、すべての精霊石を掘り尽くして、人々が困り果てた時。どっかから大魔導師、たぶん錬金術士みたいなヤツが現れて。自然界にいる精霊を集めて、結晶化したって言われてんだ。契約を結ぶ事で精霊石が無くても、精霊の力を借りられる様になったってな。昔話みたいなもんだな」
「へ~……聖霊の祠って他にもあるんですか?」
「まぁな。これが火だろ。あと水・雷・土・風・樹。……あと何かあった気がしたけど忘れた。俺もまだ火としか契約してねぇからな。お前早くも契約済ませちゃえよ」
「どうすれば、いいんですか?」
「そこに台座があんだろ? この肉を乗せな。お供え物だ」
ジュネにドードーの肉を渡された。ゆっくりと肉を台座に乗せる。
「そんで。その六芒星の中に入って、彫ってある言葉を唱えな」
「ひ、火の精霊よ。我は聖神力を糧に力を求める者なり。……これだけでいいんですか? 何も起きませんど……」
ボワッ!
肉が燃え上がって骨も残らず灰になった。
「契約成立だ! よかったな、変態は断る! とか言われなくてよ!」
「いいんですか? そうゆう事言って」
「お前また下らねぇ事考えてやがんのか? ニヤニヤしやがって」
「ふふん! 例えば。ジュネさんの下着だけを、燃やす事も出来る訳ですよね」
「お前それほんとにやったら、唱え終わる前に殺すぞ!」
「……じょ、冗談ですよ。」
「目がマジだっつってんだよ! 大体こいつは火流草の繊維で出来てっから、燃えねぇんだよ!」
「なんだ……つまらない」
「……お前、いっぺん死んでこい!」
ジュネは、剣を出した……。
「!! ジュ、ジュネさん!? 冗談ですよ……ね?」
ジュネは、黙ったまま恭の首を目掛けて剣を振った。
「おわぁっ!! 危ないですって!! ジュネさん僕が悪かったです! ごめんなさい! 許して下さい!僕はジュネさんの下僕です!」
恭は、人生初の土下座をした。
「……次はねぇからな!」
ジュネは剣をしまうとさっさと来た道を歩きだした。
「ジュネさまぁ~置いて行かないで下さいよぉ~」
ふぅ~……危ない調子に乗り過ぎた。いきなり首を斬ろうとするかね。人の命を何だと思ってるんだ!