3.実戦
じいさんの家をあとにしてフリント村へ。その前に通りにあった道具屋を覗いていく事にした。
「こんにちは。ちょっと見させてもらいますよ」
「いらっしゃい、ゆっくり見ていってね」
ふくよかなおばさんが愛想よく答えた。
一番安くて薬草の6ディルか。あとは血清が8、布の服が16。竹の棒が20!? ボリすぎだろ、その辺に生えてんじゃん!
でも、こう見つめられていると何も買わずには行きづらい。おばさんはニコニコしながらも、恭の手元から視線をはずさないのだ。
しかし! お金が無いので買いようがない。
「あの~……。お金ってどうやって稼いだら……」
思いきって聞いてみた。さっきのじいさんに聞いておくべきだった。
「なんだい、ディル無しかい! あっち行きな! シッシッ! ディルが欲しけりゃ働くんだね!」
道具屋のおばさんは、あからさまに態度を変え恭に背中を向けた。
「どこで? この村で仕事あります?」
大体15才で雇ってもらえるものなのだろうか?
「こんな小さい村じゃ、仕事なんてありゃしないよ! お城にでも行くんだね」
やっぱりお城へ行くのが次のルートなんだな!
「今これだけしか無いんだけど……。これで買える食べ物はありませんか?」
恭は先程民家からGETした全財産3ディルを見せた。
「3ディルってしょうがないね! ほら、そのパンなら3ディルでいいよ!」
おばさんが皿に乗っている焦げたパンを指差した。
皿にはパンの焦げをこ削ぎ落としたであろうカスが、大量に乗っているのが見えた。
察するにパンを焼くのを失敗したが、勿体ないから焦げを落として食べたてみたけど、不味くて残したのだろう。その証拠に、皿には焦げと一緒に一口食べて残してあるパンも乗っている。
恭の視線に気づいたのか、おばさんはさりげなくパンの乗った皿を後ろへ隠した。
「無いよりマシか。じゃあそれでいいから下さい……」
明らかにブーたれた恭の表情を見て。
「マシってなんだい! その顔は! 嫌ならいいんだよ! 人がせっかく……」
おばさんの顔がみるみる真っ赤に染まっていく。
「ち、違うんです! ぜひ売って下さい! お願いします!」
こんなのでも食べないと、体がもたないと判断した。恭は必死で頭を下げた。
「初めからそうゆう態度なら、あたしだってさ……。ほらっ、持っていきな!」
パンを投げてよこしたパンを掴んだ。持っていきなって言うから、お金はいらないよって言葉を期待したが、おばさんはしっかり僕の手から全財産を奪っていった。
道具屋をあとにして、村の入り口へ向かう。
「ばばあ、ふざけやがって! これが3ディル? こんなんで金取りやがって。店に火でもつけてやろうか」
怒りが治まらない恭は一人言を繰り返した。
村の入り口へ向かいながら、焦げたパンを一口かじった。
「にがっ!」
投げ捨てようとしたが、空腹のため思いとどまる。
「くそっ。あのばばぁ~」
表面の焦げを剥いで口に入れてみた。
「……ん! あれ、わりと美味しい」
少し機嫌がなおり、歩きながら半分程食べて袋へしまった。
おや? いつの間にか村から出ている事に気づいた……。
辺り一面広い草原! 小高い丘! 遠くに連なる山々! 雲一つ無い空! 土がむき出しになっているのが道なのだろう。遥か遠くまで真っ直ぐに伸びている。
「おおっ、初フィールド! やっぱり最初はレベルを上げるか!」
恭は辺りを見回した。
最初の敵と言えば誰もが知ってる、アイツがその辺にいる筈だ。
「いた~っ! 初めの敵と言えばドロドロッとした、あいつしかいない!」
恭はゴソゴソと袋から剣と盾を取り出した。
「ジャキーン! おぉ~何か強そうだ! 思ったより重たいな。こんなの振り回せるかな? まぁなんとかなるか。なんたって相手はスライムだし。サクサクッといきますか!」
恭は、ゆっくりと気づかれない様に後へと回り込む。
たかがスライムと言いながらも、後ろから襲いかかる僕って。ライオンはウサギを狩るにも全力を尽くすのだ!
「うりゃ~! もらった!」
――ピョン…スカッ。
「えぇ!? か、かわされた!」
ピョン、ピョ~ン。ドカッ!
「んがっ……。いって~嘘だろ。つ、強い!」
顎に一撃くらって吹き飛ばされた。
ピョン、ピョンと跳び跳ね飛びかかってくる!
「待って! 待った! ちょっと!?」
通じる訳もなく。待ってくれる訳がない。
――ドカッ! バスッ!
「……うぅ」
隙間から何発かもらいながらも、なんとか盾でしのいでいたが。よく考えたら死んだ場合、ゲームのように生き返れるのだろうか? 保証はない……。
「ま、まだ。死ぬわけにいかないんだぁ!」
恭は、剣をでたらめに振り回した!
――ブシュッ! 確かな感触が手に伝わってきた。
「あっ、当たった! ハハッどうだぁ! って一発で倒せないのかよ」
ピョン、ピョンと何事も無かったの様に、スライムが近づいてくる。
ヤバい。このままじゃ殺られる。……仕方ない。こんなに早く使う事になるなんて……。
迷ってる場合じゃない!
「ザコが……調子に乗るなっつぅ~~の!!」
あまりの大声にスライムの動きが一瞬だけ止まった。
恭は、そのすきを見逃さなかった!
クルリと180度ターンを華麗に決めると……。
「今日は見逃してやる!」
と言って一目散に村へと走り出した。
今日はお前の勝ちだ。でも次は手加減しないよ。そう心で呟く恭であった。