※ヤミオトギと血染めのドレス
多少の危険はあったが水浴びを楽しんだ二人は、再びヤミオトギ村へと進み始めた。
ヒクイドリも水と草を食べて元気になったようだ。ヒクイドリも、とは恭の下半身の一部も元気になった事を表している……。
「それにしてもよ。お前ちっと鍛えただけで、よくあんだけ精霊使えるようになったなぁ? こないだのスライサーだっけか? 今の火の壁といいよぉ」
ジュネは不思議そうに言った。
「えぇ、ちょっとした事に気付いたんですよ! ジュネさんが前に上限50って言ってましたよね? 今まで僕は、上限を越えた物をイメージしていたんですよ。だから、一回りして1の力になってしまっていたんです。上限を越えないイメージで出したらって……」
恭は、得意気に言った。
「よく分かんねぇけど……。さっき位なら安定して出せるって事だな?」
「まあ、そうゆう事です」
「んでも、最初の時は絶対に上限越えてたぜ!」
剣竜を倒した時のあれか。
「たぶん、何かリミッターが掛かってるんだと思います。外れる切っ掛けが何なのか……」
無意識? 必死さ? 危機感……。何にしてもハッキリするまでは、上限を越えないようにイメージするよう気を付けよう。
「よう! 見えてきたぜ、あれだろ!」
「えっ、あぁ、そうだと思います!」
前方に山を背にして、可愛らしい村が見えてきた。
「何か、色んな家がありますね」
キノコの形、木の家、白い家、ワラブキ屋根の家……。
「統一感ねぇな」
二人は、ヒクイドリを降りて村の入り口へと向かった……。
「何か嫌な雰囲気がしますね」
見た目普通なのだが、胸騒ぎがすると言うか表現しづらい。
「あぁ、やめとくか……?」
ジュネも戸惑ってるようだ。
「いえ、こうゆう所にこそ重要な物や情報があったりするんですよ!」
「そっか、そう言うもんか……」
村の入り口に木のアーチが架かり、村の名前が書かれていた。
「ジュネさん……。僕、ヤミオトギって闇オトギだと思ってたんですけど……病みオトギって書かれてますね……」
「……」
ジュネは、黙っている。
「ま、まぁ、入ってみましょうよ」
「そうだな……」
二人は、外の柵に手綱を結んでアーチをくぐった……!?
「あれ? 今、変な感じしませんでしたか? 何かこう……薄い膜を抜けたような」
「したな……この村おかしいぜ。空気が重い」
確かに、村に入った途端にもの凄い霧…。
「よう……やっぱり、この村やめようぜ!」
ジュネは、方向転換して村を出ようとした……。
「!? ……おい! 出れねぇ! ここに見えねぇ壁があるぜ!」
ジュネは、何も無い空中を叩いている。
恭も、触ってみる……。
「本当だ……って事は、ジュネさん! ゲーム的に言ってイベントですよ!」
「イベント?」
「たぶん、どっかに中ボスが居て倒さないと出れないみたいな」
「んじゃ、とっとと片付けて出ようぜ! こんな村」
「そうですね。まず、情報集めですね! この村で何が起きてるのか」
二人は、村を出る為の情報を集める事にしたのだが……。
「ほとんど見えませんね」
濃い霧で五メートル先も見えない……。
「あぁ、息苦しい位だ……」
二人は、はぐれない様にゆっくりと進みながら。外から見た時に左側にあった、キノコの家の方に向かった。
「確か、この辺りに……」
「おっ、見えてきたぜ!」
「霧が無ければメルヘンな家なんですけどね……」
「看板があるぜ」
家の前に丁寧にも看板があり、近寄って見ると。
「…修羅逝き姫?」
「何でしょう? 修羅逝き姫って…」
二人は、静かに小さな窓から中を覗いてみる。
中にはキノコの椅子に小人? が7人。ベッドを囲む様に座って泣いているようだ。
ベッドには、白いドレスを着た綺麗な金髪の女性が眠っている。
「……これって、確か白雪姫ですよね?」
「あぁ、俺も読んだ事あんぜ」
二人は、向こうに気付かれない様に囁いた。
「何で、修羅逝き姫なんですかね?」
「起き上がったぜ……」
「顔色が凄く悪いですね……」
ドレスを着た女性が起き上がったが、顔が真っ青で血の気が無い。
あの、クソババア~……。よくも殺ってくれたね。今すぐ行ってぶっ殺してやる!!
「言葉使い悪いですね…」
ジュネさんといい勝負だ。
小人達は、姫が起きたと喜んでいたが……。
姫と呼ばれる女性の顔がみるみると鬼の形相に変わっていく。
姫様やめて下さい! 仕返しするにも作戦を……と、止めようと小人は必死になっているが。止める小人を姫が片っ端から殴り飛ばしていく。
「つえ~な、あいつ……」
「何か凄い事になってますね」
姫が最後の小人を投げ飛ばし、トドメとばかりに顔面に膝を落とした……。
白いドレスは、赤く返り血で染まっている。小人が全員動かなくなると、姫は再びベッドへ横になり。元の綺麗な顔に戻り、ドレスも純白へと戻っていく。
ピクリとも動かなかった小人達も、血が消えてそれぞれ椅子を戻して最初の状態に自ら戻していく……。
そして再び。女性が起き上がり、小人を殴り飛ばし始めた……。
「ずっと、これを繰り返すみたいですね」
「そうだな。他も行ってみようぜ」
修羅逝き姫の家をあとに隣の家へ向かった。