出会いと泥棒
バルボア城は、二階から上が綺麗に無くなっていた…。
何かで吹き飛ばしたとかではなく…まるでブラックホールにでも飲み込まれたように…。
「それから、この城にもあったぜ!例の六芒星のブロック!」
「へ~何か書いてありましたか?」
恭はなるべく口で息をしながら、前だけを見て進んだ。
「また、あの壁画と石碑に盾がどうとか…割れてっから読めなかったけどよ」
「たぶん、メデューサの盾があったんですね…コーラル城にラグナロク、ここにメデューサの盾…次は、聖霊の胸当て…」 聖霊の胸当ては何処にあったか記憶にない。
「何処にあんだよ?」
「さあ~…でも、僕が知ってる時から500年経ってるとして…その間に出来たお城か町にあると思いますけど…」
二人は、城の二階まできていた。
憔悴しきった町の人達が、うなだれ静かに炊き出しを食べている。
「すいません…この子のお父さんかお母さん知りませんか? 町の入り口に居たんですけど…」
恭は、炊き出しの大鍋の前に居るおばちゃんに聞いてみた。
「…あら!ザインさん所の!…ちょっと~~」
おばちゃんは、ふくよかな体を揺らして何処かに走って行ってしまった。
数分後…体格の良いおじさんを連れて戻って来た。
おじさんは、恭を見ると小走りで近寄ってきて…。
「……マルス!生きてたのか!」
恭から子供を奪い取ると…良かった、良かったと涙を流した。
「…あの、村の入り口で泣いていたので…」
親子の再開に口を挟んで良いものか迷ったが。
「いや、すいません。私、ザインと申します。有り難うございます!もう、マルスもダメかと…」
ザインと名乗るおじさんは、涙を拭った。
「お母さんは…」
思わず聞いてしまったが、マルスもと言っている時点で死んでいる可能性は高かったかもしれない。
「……妻は、ダメでした…瓦礫の下敷きに…私は、隣町に配達に行ってまして…この子も諦めてました…」
ザインの目から、また涙が溢れだした。
その時、子供が目を覚ました。
「…ぱぱ?」
「そうだ!パパだ!」
子供はうわぁ~ん…と、お父さんに抱き付き泣き出した。
「もう、大丈夫だ!マルス…パパがついてるぞ…」
お父さんだけでも、生きていてくれて良かった…。
「じゃあ、僕達はこれで…」
「あっ!何かお礼を…」
ザインが二人を引き止めた。
「いえ、入り口から連れて来ただけですからお礼なんて…」
この状況でお礼なんか貰ったらバチが当たる。
「ですが何か…そうだ!私、武器屋をしております。見た所お二人は冒険者の様だ、大した物はありませんが役に立つ物があったら持っていって下さい!」
ザインが恭とジュネを交互に見る。
「いや、そんな訳には…」
武器は魅力的だが、じゃあって貰う訳にもいかない。
「いいじゃねぇか!貰っとこうぜ!今の武器じゃこっからは、厳しいと思ってたんだ!俺の剣も結構刃こぼれしてきたからよ…」
まあ、素直ですこと…。
「そうですよ!是非とも…こんな状況ですので店は暫く開けられませんし」
「そこまで言うなら…」
ジュネさんは貰う気マンマンだし、甘えておく事にしよう。
「今日はもう陽も暮れますので…何もありませんが、炊き出しでも食べて休んで下さい!明日の朝にでも店の方に…」
二人は、炊き出しを貰って休む事にした…。
壊滅状態のバルボア城の二階の床で夜を明かす事になった…。
町の景色とは裏腹に、空には満天の星が煌めいていた。
恭も、一応割れた石碑と壁画を確認したが…コーラル城と変わらなかった。
ザインさんに聞いたら、書庫は一階にあり無事だと言う事なので、ランプを借りて二人は来ていた。
出来れば、恭が知らない情報・この先の地図等があれば手に入れておきたかったのだが…。
「タイトルだけじゃ、はっきりとは分かりませんけど…出来れば、完成された地図とか…この500年で新たに増えたモンスターの情報があれば、と思ったんですけど…」
「俺の地図は、バルボア城周辺までしかないからな~…でもよ、モンスターの本ならあるぜ!」
「えっ!何処にあったんですか? 見逃したのか…」
ジュネは、ガサゴソ…と袋から一冊の本を出した…。
「ほら、こいつだ!最新版て書かれてっけど、約60年前のだけどな!」
確かに、モンスター図鑑 最新版と書かれている…。
「持ってるなら最初から、言って下さいよ~…敵の情報は、有ればある程有利になるんですから…火を吹くとか、毒もってるとか…知ってれば、事前に対策出来るんですから」
「んなもん、そう思ってコーラル城から盗って…借りてきたんだ!そしたら、旅の翼が挟まってたんだラッキーだろ!」
「勝手に持ってきて、泥棒ですよそれ…」
「だから、借りたつってんだろ!そのうち返すって…それに、実際持ってきて良かったろ?」
ジュネは、得意気に言っが…あとで返しても泥棒は泥棒だ。
「まあ…結果そうですけど…」
地図も探したが、バルボア城周辺のしか見つからなかった…。
二人は、炊き出しの場所まで戻って寝る事にした…。
恭は、揺れるランプの明かりで近いうちに出会うであろうモンスターの情報を頭に叩きこんだ。
こうゆう情報はすんなり頭に入ってくるのに、学校の勉強はなぜまったく残らないのだろう…。
答えは簡単だった…きっと危機感とか必要性なんだろうと思った、覚えなければ自分の…仲間の命に関わってくるのだから…。
学校の勉強で役に立っているのは、今のところ単純な算数と初歩の国語位の物である。