13.役立たず
あれこれ考えながらも、乾いた砂漠地帯を進み。その後も何度かバッドモンキーやハイエナとの戦闘を重ね。
恭はレベル11
ジュネはレベル16になっていた。
ハイエナは肉になったが、腐った臭いがするので拾うのをやめた。
暫く道なりに進み別れ道まで辿り着いた。
太陽はだいぶ沈み始め夕暮れになっていた。
「右に行くぞ」
「はい、この先に水の聖霊の祠があるんですね」
「そこで契約を済ませたら今日は野宿だな」
「野宿? お城まで、まだ結構あるんですか?」
「そうだなぁ。ヒクイドリでニ日ってとこだな! 夜はモンスターも活発になるし、腹減ったからな」
「そう言えば、今日は朝少し食べただけですもんね」
(正確にはカカオ鉱石を一口食べたけど……)
Y字路を右に曲がって一時間程走っただろうか。
前方に不自然な緑の塊が現れた。その中心に水晶の様に透き通った、巨像静かに鎮座していた。
辺りは乾いた砂地なのに、巨像を護る様に大小の木々が生えている。
石像の囲む様に1メートル程の高さまで石が積まれていて、その内側には溢れる程に水が満たされていた。
「うわ~っ。これって石像から出てるんですかね?」
ヒクイドリから降りて近づいたみる。
ヒクイドリが夢中で水を飲み始めた。
「あぁ、この辺は乾いた土地で水場が無いから。その辺を考えて、ここに水の聖霊像を置いたんじゃねぇかな」
ジュネも、ヒクイドリから降りて水を飲ませた。
恭とジュネも喉を潤して水を浴びた。
思わずジュネ見とれてしまった……。
濡れた赤髪が夕陽で更に赤くキラキラと光り。とても綺麗だった……。
恭は近くの木に手綱を結んで、袋から猿肉を出しジュネに渡した。
「ジュネさんから、どうぞ」
「おう」
ジュネは水の中に突き出した台座へ肉を置いて。石像の前に描かれた六芒星の中へ入った。
「水の精霊よ。我は、聖神力を糧に力を求める者なり」
台座の回りの水が盛り上がり、肉が静かに水に包まれてゆく。
肉が水の玉の中で徐々に小さくなって消えていく。まるで胃の中で消化されていく様に。
「なんか神秘的ですね。」
ジュネに続いて無事に契約を済ませた。
「んじゃ、食料調達に行こうぜ!」
「そうですね。この辺だと何が美味しいんですか?」
「ん~……モアだな! ジャイアント・モア! 旨いぜ!」
「モア? あのモア!? ダチョウの大きいやつ! 本物を見れるなんて感動だなぁ!」
(僕の世界ではとっくに絶滅したモア。この目で本物を見れるなんて……夢みたいだ!)
「多分近くにいると思うけどな。この辺じゃ、水場はここだけだからな」
「なるほど、理に叶ってますね。じゃあ僕あっちを探します」
「んじゃ俺はこっちな。見つけたら呼びにきな。警戒心が強いから大声出すなよ!」
「はい!」
恭は岩壁を右へと進んで行った。探すまでもなく遠くにモアらしき鳥が三匹いるのが見えた。
(図鑑でしか見た事のないモアが目の前にいる。確かマオリ族かなんかに狩り尽くされたんだよな。)
恭は静かに引き返し、石像の前まで戻ってくると。そこにはジュネが座り込んでいた。
「ちょっと、ジュネさん……。ズルいじゃないですか僕にだけ探させて、自分は休憩ですか~」
「もう見つけたのか? こっちは岩ばっかでダメだ」
「三匹見つけましたよ!」
「よし、行こうぜ!」
恭はさっきの場所に案内した。
「どうすっかな…」
「どうするって。いつもみたいに、何も考えずに斬りかかれば?」
「バ~カ。こっからだと小さく見えんけど4メートル以上あんだぞ? 走って逃げられたら、とてもじゃねぇけど追い付けねぇぞ」
「よ、4メートル!? じゃあ、どうするんですか?」
(そう言えば図鑑に書いてあったかも……)
「こいつの出番なんだけど、どうやって射程距離まで行くかだな」
ジュネの手に細い木のツルが握られている。両端には石が結ばれている。
「何ですかそれ?」 (さっき座り込んでこれを作ってたのか)
「こいつを投げて足に絡ませて転ばす。転ばなくても時間稼ぎにはなるから、その間に殺る」
「上手くいきますかね……」
「俺が合図したら走ってトドメを刺しな!」
「はい、やってみます」
恭は、剣を手に持ち身構えた。
「少しずつ近づくぜ。体を低くしな」
ほふく前進で進むジュネ……の後にピッタリついて行く恭。
(……目の前でジュネさんのお尻が右へ左へ。僕の獲物はこれなんじゃないかと、錯覚してしまいそうだ)
――……近づく程にモアの大きさに圧倒される。丸太の様な太い足。巨大な嘴。どちらで攻撃されても致命傷は避けられないだろう。
モアまでの距離約二十メートル。
――……ジュネが静かに立ち上がると、石の付いたツルを思いっきり投げた!
「恭、今だ!!」
ジュネが叫ぶ!
恭はモア目掛けて走りだす!
モアが振り向いた! その瞬間!!
一匹のモアの足にグルグルッとツルが巻き付いた!
他の二匹が逃げていく。
「ヨッシャー!」
もう少し! ……とゆうところで恭は転んだ。
その拍子に剣をほうり投げてしまった。
モア目掛けて飛んでいき、偶然にも胴体に突き刺さった。
――が倒すには至らなかった!
「チッ、あのドジ!」
ジュネが剣を出して走り出す。
「火の精霊よ、剣に宿れ! 飛んでけ!!」
炎の刃がモア目掛けて飛んでいく!
ジュネは自分の放った炎を追い掛け、モアとの距離を詰める。
モアが足に絡んだツルを引き千切り、立ち上がった所へ。
炎がモアの体にヒット!!!
距離を詰めたジュネが、恭を飛び越えて空中で剣を振り上げる。
「もらった~~っ!!」
ジュネの剣がモアの首切り離した!
ズズゥーン……地鳴りと共にモアの巨体が倒れた。
ドスッ!!
「うわッ!?」
モアの首が恭の目の前に落ちてきて砕けた。
モアの巨体もゆっくりと崩れ落ちてゆく。
モアは少し大きな肉の塊に変わった。
ジュネはモアの肉を袋に入れると。落ちていた剣を恭に渡す。
「お前、役立たねぇなぁ」
「……すいません」
(自分が情けなくなった)
「とりあえず肉も手に入ったし。飯にしようぜ! お腹ペコペコだぜ」
ジュネが石像の方に歩きだす。
「…………」
、無言でついていく。
二人は辺りの枯れ枝を集めて火をつけ。モアの肉を剣で切り分け、枝に差して焚き火の横に差した。
二人で焚き火を挟んで座る。
「よお? いい加減その陰気くせぇ~のやめろよ!」
ジュネが無言に耐えきれなかったのか言葉を発した。
「はぁ、改めてこの世界じゃ通用しないんだなぁって……」
(ザコを倒して強くなった気でいたけど。相手が少し大きくなっただけで、足が震えてあのザマだ)
「最初に言っただろ? 俺は話し相手が欲しいだけだって。話し相手にもならねぇなら本当に役立たずだぜ」
(言葉は荒いがジュネさんなりの励ましなのだろう)
「……そうですね。そもそも僕に任せたジュネさんが悪いんですよ!」
「はぁ? 急にどうゆう態度だよ! お前がドジで変態の役立たずなのは変わんねぇかんな!」
「それは言い過ぎですよ! 僕は平均的なドジで役立たずです! さっきだって目の前でジュネさんが、お尻を振ってたのが悪いんですよ」
(これは事実だ。……下半身が変化した結果。走り辛かったのだ!)
「だと思ったぜ。どうもケツがくすぐったい気がしたんだよな」
こんな他愛もない話をしているうちに、肉から香ばしい匂いがしてきた。
「おっ、肉が焼けたみてぇだな! うめぇ~っ」
ジュネは肉にかぶりついた。
「いただきま~す!」
恭も肉にかぶりついた。
お腹も一杯になり寝る事にしたが。
「お前カカオ鉱石買ったつってたよな? 出しな」
恭は袋からカカオ鉱石を取り出した。
「そいつを少し砕いて焚き火に入れな。虫除けとモンスター避けになる」
言われた通り少しかじって一センチ程の欠片を焚き火に投げ入れた。
辺りにチョコルネ村と同じ匂いが漂ってきた。
陽が落ち切ると、結構寒い。
「このまま寝たら風邪引きそうな気がします。ジュネさんはそんな薄着で寒く無いんですか?」
「俺は慣れてるからな。でも砂地で寝る時はこうすんだ」
ジュネが砂を堀り始めた。
20センチ程の深さで、人が入れる程の穴を掘ると。長い髪を口と目に巻き付け、上手いこと体と手を使って砂に埋まってゆく。
「顔はガードしないと砂食うことになるからな」
「……土葬されたみたいですね」
恭も、真似してやってみると。結構温かかった。顔はローブを逆に着る事でフードでガードした。
どのくらい眠っただろうか。ジュネは横で砂から這い出る恭の気配で目が覚めた。足音が遠ざかって行く。トイレだと思い再び眠りについた。
少し空が明るくなり始めた頃。
恭の頭にコツコツと何かが当たる。
「……おい……起きな」
「……あと10分」
恭は完全に寝ぼけていた……。
さらに強めに頭をゴツゴツ叩いてくる。
「しつこいって! 今起きるってば!!」
恭は引っ付いた瞼を無理矢理に開けたが、焦点がうまく合わない。
……顔の両脇に……足?
その足を目で追っていく。その間隔はせばまり……赤い布?……股間!?
「ブーッ!! 朝から刺激の強い物を見せないで下さいよ!」
(只でさえ朝は元気なんだから)
「さっさと起きな。出発すっぞ!」
ジュネがしゃがみながら恭のオデコを叩いた。迫り来る股間。
「……天国! 朝から僕を誘惑して、どうゆうつもりですか!」
ジュネはスッと立ち上がり。
「してねぇよ! 顔面踏み潰してやろうか?」
それも有りなのかと、一瞬思ったが。ダメだジュネさんは加減を知らない。
「起きます、すぐ起きます!」
恭は砂から這い出た。
「おはようございます」
「おう、顔でも洗って目覚ましてきな。こいつで歯も磨きな」
木の枝? を渡された。
「何ですかこれ?」
「ニームつって。少し噛んで柔らかくしてから、歯を擦るとスッキリするぞ」
「へ~、歯ブラシみたいなもんか」
恭はやや前屈みで泉まで行き顔を洗って歯を磨いた。所詮は木の枝、血だらけになったが。精霊水で口を濯ぐから、問題は無かった。
振り返るとジュネは、もうヒクイドリに股がって準備万端である。
恭はまだ元気な下半身を隠しつつ。
「出発しましょう!」
素早くヒクイドリに飛び乗った。