1.夢の中へ?
昨日、学校から帰ってきて晩飯まで寝ようと、布団に入ったまでは覚えている。
だが目覚めるとそこは、薄暗い部屋の薄汚いベッドの上だった。
壁でランプの明かりが揺れている。狭い質素な、とゆうより小汚い部屋。
「……!? どこだここ、何か臭いし。ふぁ~ぁ」
ベッドから降り伸びをしながら、大きなアクビを一つ。
「なにこの格好!」
よく見れば、ポンチョみたいな布切れ一枚。妙に下に違和感を感じる。
何かと思いめくってみる。
「何じゃこりゃ」
褌の様に腰に布が巻いてある。
あわてて布団の中を探したが、下着は見つからなかった。
「まぁ、どうせ夢だし。格好なんてどうでもいいか」
普通なら現状に戸惑うところなんだろうけど。リアルな夢はよく見るので、それほど気にならない。
前にエベレストに登った時はメチャクチャ疲れた。もちろん夢の中で登ったのだが、目が覚めた時に全身筋肉痛だった時は笑えなかった。
「どうせなら金持ちの夢がよかったな。どう見ても金持ちじゃないよな……」
ベッドから降りて、扉に耳をつけて外の様子をうかがう。
何も聞こえない……。ゆっくり扉を開けてみる。
右は壁で、左側に暗い廊下が続いている。廊下の先に明かりが揺れている。
「誰もいないみたいだ」
廊下に出て明かりの方へと歩いて行く。
石を削ったブロックを積んだだけの雑な廊下。天井は暗くてよく分からないが、木の板を乗せただけの様に見える。
「何か見た事あるんだよな。この石の壁の感じとか。にしても……」
褌なんか着けた事が無いから、気になって歩きにくい。
少し行くとカウンターがあり、ランプに照された、小太りのおじさんが座ってるのが見えた。
悪い人には見えない。恭は恐る恐る近づき声をかける。
「あの~……す、すいません」
「はい、今晩は! 何かご用ですかな?」
おそらく作り笑いだろうが、口髭を蓄えたおじさんはハキハキと答えた。
思った通り、悪い人では無さそうだ。
「あの、ここって……どこですか?」
「宿屋でございますが?」
「いや、そうじゃなくて……。場所ってゆうか、国ってゆうか」
「あぁ、ここはリーフ村でございます。それが何か?」
不思議そうな顔で恭を見つめてくる。
「リーフ……村!? あ、ありがとうございました!」
軽く頭を下げて、先程の部屋へと戻った。
ベッドに座って少ない情報を整理する。
「リーフ村。この格好。廊下の感じ……。たぶん、あのゲームの世界の夢だ!」
恭は布団に潜りこんだ。
「……いやいや、寝てどうする」
一人ツッコミしながら、ゆっくり体を起こした。
「せっかく好きなゲームの夢を見てるんだから、モンスターの一匹でも倒してやるか!」
……と思ったけど。
まだ夜みたいだし。一度寝ようと思ったせいなのか、起きたばっかりなのに酷く眠くなってきた。夢の中で眠くなるとはこれいかに……。
せめて宿屋を出て、村を見学くらいすればよかった。魔法の一つも使いたかったな。などと考えているうちに深い眠りへと落ちていく恭であった。
これから始まる長い長い旅の事など知らず……。
ここで主人公の彼を紹介しておこう。
名前・恭 年・15才
身長165センチ。
髪・少し耳や眉にかかる位で黒髪。
顔は中の下だが、自分ではジャニーズ系と言い張る。
性格・ややいい加減、楽観的、自信家、ややプライド高し。
無駄な知識が豊富……以上紹介おわり!
【翌朝】
目覚めた恭は、夢から覚めてない事にラッキーと思いつつ。無一文だと言う事にガッカリしながら……。カウンターへと向かった。
逃げようとも思ったが、部屋にも廊下にも窓が無い。
おじさんは丁度カウンターの後にある、棚の方を向いて何かしているようだ。下を向いて作業しているせいか、三重あごになっている。
(チャンス!)扉に向かって抜き足差し足で、なるべく急いで歩きだす……。
ドアノブに手がとどいた。
その時!? ガッと肩を掴まれた!
「ヒィィーッ!」
思わず変な声が出てしまった。
「お客さん、まだお代を頂いてませんがどちらへ?」
肩を掴む手に力がグッと入り、怒りと不信感が伝わってくる。
「あ、あの~トイレに……」
「トイレならカウンターの横ですよ! どうぞお使い下さい」
おじさんはカウンターの横を指差した。
「そ、そこでしたか。漏れそうだったんですよ。あははっ……」
慌ててトイレに駆け込んだ。
(ふぅ~)中に入り扉を閉めてトイレ内を見回す。
個室が一つに小便器が一つ。正面のちょうど目の高さに、人が1人通れる程の四角い穴。窓のつもりだろうけど、ガラス的な物は無し。
「いける」
迷わず逃げる事を選択した。
(その前に、今後の為に個室を見ておく事にしよう)
安っぽい木の扉あけると。個室の中央に丸い穴が一つあいている。
「マジか!? ……そのわりに嫌な臭いはしないけど」
すると、宿屋の主人がドタドタと入って来て。
「どうかしましたか、お客さん?」
フゥーフゥーと息を切らし、額に汗が滲んでいる。
「あ、いや。あまりにも出たから、ビックリしちゃって! ……紙って」
「紙? ケツ拭くもんか? そこにあるだろ」
おじさんは目の前に置いてある、葉っぱの束を指差した。
(葉っぱっていつの時代だよ!)とツッコミたいのを我慢した。
「ちゃんと、ケツ拭けよ!」
脅かすんじゃねぇ、何事かと思ったぜ。等とブツブツ言いながらおじさんは出ていった。
「接客態度がなってないな。言葉に気をつけたまえ!」
勿論おじさんに聞こえないくらい、小さい声で注意した。正確には無一文なので客とは言えないのだが。
(何が役に立つか分からないので、葉っぱを少し持っていく事にするか)
「柔らかい! 案外いけるかも」
細かい毛がびっしり生えていて、気持ちいい。
「恭は、葉っぱを手に入れた!」
天高く掲げ、ゲームっぽく言ってみた。
「……入れる所がないや。せめてポケットがあればな」
葉っぱを便器の穴に投げ捨てた。
(それよりも、今の状況を打破しなくちゃ)
窓の縁に手をかけて体を持ち上げて外を覗く。
三十センチ程の幅の通路をあけて、柵が左右に続いている。柵の向こうは深い森。
「宿屋の主人、世話になった。僕は行かなければなりません。世界を救わなければならないのです! いつの日か必ずこの礼は」
雰囲気を出す為にゲームっぽい台詞を言ってから、恭は窓から飛び降りた!
格好つけているが、ただ宿代を踏み倒しただけである。
恭はトイレの窓から宿屋脱出に成功した!