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すーぱぁお母さんの音楽会(5)


「あ、しまった。プロセス、キルっちゃった。……ま、いっか。もっぺん立ち上げ直して、こんなもんかなぁ……




        (9)

 私は(なだ)(いさお)。T芸術大学の講師をしていた。専攻は声楽である。

 私にはお気に入りの教え子がいた。和田(わだ)瑤子(ようこ)という少女だ。幼い時に事故に遭い、その後遺症で言語中枢にダメージを受けている彼女は、会話をすることができない。だが、音声としての声を発することには何の問題もなかった。それどころか、彼女の発する声の音域は、ピアノに匹敵するほどの幅を持っていた。わたしは彼女のために、彼女にしか歌えないような歌を作ろうとしていた。これが完成すれば、声楽に大きな革命をもたらすだろう。

 しかし、大学の有識者達は、声を揃えて、これを否定した。『言葉もじゃべれぬ少女に歌が歌えるはずがない』そう言って、私の提案を頑として拒否したのだ。その上、予算上の理由とかで、彼女と私を除籍し、大学から追い出してしまった。


 彼女の行方は私には知らされていなかった。彼女は、事故の後遺症で、余命一年と診断されていたのだ。早く、彼女を探し出し、この歌を発表しなくてはならない。


 わずかな手がかりを元に、あてどなく歩きまわった。

 手持ちのお金も失い、さ迷い続けた後に、この町にたどり着いた。

 だが、もう動けそうにない。空腹と疲労で、私の身体はもうボロボロだった。

 ああ、目がかすむ。誰かが近づいてくるのが目をかすめたような気がする。耳鳴りが酷く、何も聞こえない。……私はこれからどうなってしまうのだろう。




 次に私が目を覚ましたとき、最初に見えたのは、和室の天井と蛍光灯だった。どうやら私は、布団に寝かされているようだった。

 起き上がろうとしたが、目眩と疲労感で起き上がることができなかった。


 しばらくすると、若い男性と小学生くらいの子供がやってきた。

 彼らは私の傍らに座ると、声を掛けてきた。

「大丈夫ですか。俺の声が聞こえていたら、首を縦に振ってください」

 私は首を縦に振った。

「お加減はどうですか? しゃべれそうですか?」

 私は声を出そうとしたが、うまく声がでそうにない。仕方なく、首を横に振った。

「未だダメみたいだね」

「怪我や病気じゃないそうだよ。空腹と疲労が原因のようだから、栄養を摂ってもらって、しばらく寝かせておこう」

 そう言うと、若い男の方がピストルのようなものを取り出すと、私の腕に押し付けて、引き金を引いた。<プシュー>という音がして、私は、腕にかすかな痛みを感じた。

「心配いりませんよ。無針注射器で栄養剤を射っておきました。しばらくそのまま休んでいてください」

 そう言うと二人は、部屋を出て行ったようだ。

 これから私はどうなるのだろうか……。不安に駆られていると、そのうちに眠気が襲ってきた。私はいつの間にか深い眠りへと落ちていった。



        (10)

 次に目を覚ましたとき、私は髪の長い女性に覗き込まれていた。一瞬驚いて「ひっ」と声を出してしまった。

「大分回復してきたみたいね」

「大丈夫ですか? 起きれそうですか?」

 女性の傍らにいた男性に、そう声を掛けられた。

「ああ……大丈夫の、ようです」

 私は、言われるままに、布団の上で半身を起こした。

「どうして、あんなところに倒れていたのですか?」

「ああ、ちょっと記憶が混乱してて。人を──女の子を探しているんです。でも何処にいるのか分からなくて。……何もかも分からなくて」

 私は頭を振り乱すと、我知らず涙を流していた。

「一時的な記憶障害のようですね」

「フムン、ブービートラップでもなさそうだし、洗脳されているわけでもなさそうね。では、いっちょやってみますか」

 髪の長い女性がそう言うと、右手の人差し指を私の額に当てた、そんな感触だった。が、しばらくすると、何かが額にめり込んでくるよう様な感覚にとらわれた。

 窓ガラスに私の姿が映っている。私の額に女性の指が、……めり込んでいる。突き刺さっている。女性の指は、私の額に根元までめり込んでしまっているのだ。恐怖で悲鳴を上げようとしたが、どんなに頑張っても声は出なかった。身体を動かそうとしても、全く動かない。


 私は頭の中を何かでかき回されているような感覚にとらわれた。この女性が私の脳みそをかき混ぜているような錯覚を覚えるほどであった。

 しばらくして、女性は指を私の額から引き抜くと、こう言った。

「まぁ、こんなもんでしょう。だいたいの事は分かったから、もう一回栄養剤を射って寝かせときなさい」

 こう言って、その女性は人差し指をペロリとなめると「おいし」とつぶやいた。その様子を見ていて、私は身体の自由が戻っていることに気がついた。しかし、立ち上がる事はできない。言われるままに、もう一度、床に寝かされると、もう一度、銃のような注射器で何かの薬を射たれた。

 しばらくすると、また、眠気に襲われてきた。


 私は、再び深い眠りに引き込まれていった。



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