すーぱぁお母さんの音楽会(2)
(3)
次に目を醒ましたとき、私は前と同じ部屋に寝かされていた。
あの夢の中の男、というか、灘功としての人生が、私の本当の記憶なのだろうか? あの女性に頭をいじくられた後の夢だ。本当のことなのか、それとも植え付けられたものか、私には判断できなかった。
これからどうしたらいいんだろうか? 変に悩んでいると、腹がなった。栄養剤と彼らは言っていたが、あのピストルのようなもので薬剤を注入され他には、私は自分が何も食べていないことを思い出した。いつから食べていないのだろうか……それすらも記憶が曖昧だ。私は、本当に放浪していた灘功なのかも知れない。
などと、どうしようもないことを考えていたところ、例の女性と男の子が入ってきた。
「気分はどうですか?」
男の子が私に訊いた。
「前よりは、良くなったみたいです」
「食欲はありますか?」
わたしは、さっき腹が鳴ったことを思い出した。
「ええ、少しお腹が空きました」
「じゃぁ、おかゆを持ってきたので、食べてください。身体を起こせますか?」
私は、上半身を起こした。寝る前には、なかなかできなかったのが、できるようになっている。
「はい」
そう言って、私は上半身を起こした。
「自分で食べられそうです」
そう言って、おかゆのはいった茶碗を受け取った。匙ですくって口に運ぶと、旨みが口中に広がった。おいしい。おかゆ如きを「おいしい」と思うなてと気がついたら、急に涙が出てきた。
「どうしました? どこか苦しいところがありますか?」
男の子が心配そうに訊いてきた。
私は男の子の方へに顔を向けると、
「いや、おかゆがあまりに美味しいので、つい涙をこぼしてしまいました」
「だいぶん回復してきたみたいだね。お母さん、これからどうする?」
男の子がか傍らの女性に話しかけた。
「そうねぇ、まだ立って歩くのは無理だろうけど。……しばらくは家で面倒みるしかないんじゃないかな」
女性は素っ気なく、そう応えた。
「ま、念のために、薬を飲ませておきなさい。まぁ、明日には回復するでしょうね」
そういうと右手から三粒の丸薬を取り出すと、男の子に手渡した。
「薬、飲めそうですか? これ、お水です」
私は男の子に渡された薬を口に含むと、水で流し込んだ。
しばらくぼうっとしていると、また眠気に襲われてきた。
「もう少し眠っていてもいいですか?」
私がこう聞くと、
「しばらく寝かせときなさい」
と女性が応えた。私は、布団の上に横になるち、また眠りに落ちていった。
(4)
今度の眠りは浅いようだった。隣の部屋の声が、小さく聞こえて来ていた。
「……無理ですよ、あの人をおいておくのは」
「いいじゃない、別に。だって面白そうじゃない」
「面白いとかで、死人を生き返らせないでくだいよ」
(えっ? 死人だって。誰のことだ? まさか私は一度死んだのか?)
「だって面倒じゃん。警察呼んだら、身元不明の死人のことを、あれこれ訊かれるんだよ」
「そりゃ、面倒ですよ。死んだんだから」
「それにあの段階で死んでなかったらどうすんのよ」
「間違いなく死んでました。心肺停止、体温25℃、脳波停止で、瞳孔も開いてたんですよ。誰が診たって死んでますよ」
「でも生き返ったじゃない」
「そんなことできるのは、あなただけです! 怒られるのは俺なんすからね」
「いいじゃない。生き返って、記憶が戻ったら出ていってもらえば」
「その記憶が怪しいじゃないですか」
え? じゃあ私の見た夢は本当に私自身の記憶じゃないのか?
死人を生き返らすって……、では今の私は何なのだ?
驚愕の事実を聞いてしまい、私の頭は混乱した。だがそれの束の間、私は、また深い眠りに落ちていった。