街
「れーんー週末街行こうぜー」
「なんで」
「服が買いたいんだ。冬物をね。今あるのじゃ寒くてさ」
「俺ら受験生だろ」
「大丈夫だよ。問題ないだろ」
中学3年の12月。
受験、高校と聞くと、あのころを思い出す。あの約束を
ここ新栄市には高校が5つある。工業系、商業系、私立、普通科が2つ。
あの約束となっている高校は普通科のランクの低いほうで間違いないと思う。
だが、来るのか?
あれから9年近くがたっている。実際、声も顔も名前も俺は覚えていない。当然だろう小さい頃に何日か遊んだだけなのだから。
だが、あの言葉だけははっきりと覚えていた。
「大きくなったらみんなであそこに行こう」
守る必要なんてないと思っている。普通に考えて覚えているわけがない。
でもあの高校に行こうとしている。
「バカみてぇだな」
と、ポツリと言った。
「何が?」
「お前が」
「なんで!?」
週末の街に向かうバスでのことだった。
隣に座っているのは山岸和家が近いので小さい頃から一緒にいるが、家族はもちろんこいつも含めあの話はしていない。
「うーんやっと着いた!やっぱ街中は違うね。さぁ行きましょう」
バスを降り伸びをしながら和が言った。
連たちの住んでる場所はかなり田舎なので街中はいまいち落ち着かない。
めぼしい店に行くため大通りを歩くのだが、週末だから人が多いのか。いつもこんな感じなのか。
「いやぁー目の保養になりますな」
道行く女の子を見ながら和が言った。
「うぉー!!今の2人すごかった!」
はぁ?何をいきなり
「今の2人半端なく可愛かった。びっくりした。俺の記憶フィルムに完璧に焼きついた」
立ち止って後ろを向き2人の行方を追っている。
「10人中10人が振り返る可愛さだった」
前を向きなおし真剣な顔で言った。
「俺が振り返ってねぇじゃねーか」
「あっホントだ!ってお前は見てなかったろ」
和に突っ込まれたレアだ。
コンビニの前を通り過ぎようとした時、駐車場に座り込んでいる金髪の女子2人が目に入った。
化粧もばっちりなので、いまいち正確にはわからないが同い年ぐらいのように見える。都会は怖いね。まぁ実際よそからみたらここもかなり田舎になるんだろうけど。
「連はああいう子のほうが好みなのかい?」
視線に気づいたのかニヤニヤしながら和は言う。
「ありえないよ」
冷静に否定しておいた。
店は街じゃよく知られている若者向けの服が多く取りそろえられているところだ。店舗自体は小さくないのだが、無理やり大量の服を並べているのでかなり窮屈だ。服密度120%ってとこだ。
そんな中でやたらでかい声が聞こえた。
「マジかっけぇッスよ!鬼塚さん!」
特攻服っぽいのを試着した男の周りに3人革ジャンを着たのが声をあげている。
「おお、悪くねぇな」
と、言った男がおそらく鬼塚になるのだろう。これまた同い年ぐらいかね。
「なぁどっちがいいかな?」
ジャケットを手に和が見比べている。どっちも似たようなもんだ。
「ん~右」
雑な返事を返す。
「あっ、金が足りねーやお前らいくら持ってる?」
「自分手持ちねぇーっスよ」
鬼塚達の声が聞こえる。
「しょうがねぇ今度にすっか」
と、脱いだ服を雑に置き店を出ていった。
「やっぱパーカーにするか」
と、パーカーに手をかける。こいつパーカー好きだからな。現在着てる服もパーカーにジーパンと言う格好だからな。
「いやしかし俺はぜひとも高校デビューを飾りたいから、今回こそはジャケットを買う!それにしても危なかったカツアゲされるかと思った。連がいるからいいけど」
伸ばした手を戻し、さっきのジャケットをまた手に取る。
「俺は囮かよ」
「いやいやそうじゃないだろ」
レジに向かう和は最初に見比べていた方の左側を持っていた。
せっかく来たのだから飯を食って帰ろうということでファミレスに向かう。
途中に塾があり、その前に眼鏡をかけて参考書を片手におそらく親の迎えを待っているであろう男子がいた。結構無遠慮に見ていたが、こちらの視線に気づきもしなかった。
ファミレスが見えてきて、店からでてきたばかりのカップルが目に入った。
手をつなぎこちらに歩いてくる。
「手の間通ってもいいかな?引き裂いてもいいかな?いいよね」
呪わんばかりの低い声で和が言う。
「なんで俺の隣には男が歩いてるのかなー」
和の声がさらに低いと言うかテンションの低い声になっていた。
「お前の方が誘ったんだからな」
「いやん。私の誘惑に誘われたんでしょ!もうっ」
男2人で悲しきやり取りを交わす。もちろんカップル2人には道を譲りましたよ。
飯を食い終え、暗くならないうちに帰りましょうかってことで、バス停のある駅まで戻ることにする。
「ちょっと近道していかない?」
と、言うが早く和は小道にそれて進んでいった。
「道わかってるのかい」
「大丈夫。まかさせなさい」
と、和が自信満々に進んでいく。
カツアゲに会ってしまった。
会ったというのは和が曲がり角を曲がった瞬間にいち早く気づいたので、遠くから隠れて様子を見る形なのだがカツアゲの現場に出くわしたというやつだ。
「ここは鬼の縄張りなんだよ。だからよ通行料ってやつを払えっていってるんだよ」
被害にあってるのは高校生か中学生ぐらいの男子2人組である。
「鬼の縄張り!」
と、和が繰り返し連の手を引いてもと来た道を戻り始めた。
「やっぱ街は恐いな。警察が動いてくれなさそうなレベルでの治安が悪すぎる」
近道を始めた道までダッシュで戻り息を整えながら和が言う。
「鬼の縄張りってなんだよ。聞いたことある気もするけど」
小学校のころにこの街に鬼が出没したとかしないとか聞いた気がするのだが関係あるのか。
「おいおい知らないのかよ。鬼の縄張りって言うのはあの鬼の子の住処ってことでしょ!」
「鬼の子?」
「お前それも知らないのか!人間の姿を借りた鬼と言われるほど残虐な奴なんだよ。奴の怒りにふれた者は骨も残さず消されると言われている。それはそれは恐ろしいやつなのさ」
なんだかおとぎ話に出てくるようなやつだな。
バス停のそばに来た時はなかった看板が立っていた。
どうやら来週地方のアイドルグループが駅前でイベントをするらしい。
「こんな田舎になんのようなんだろうな」
連は半ば本気であきれ声で言った。
「ぬおぉ!来週だったらアイドルに会えたのにー新栄出身の人も来るのか来週もくるか」
「行くなら1人で行けよ。来週は俺用あるからな。だいたいこの人達知ってるのかよ」
「いや知らない」
「じゃあ来なくていいだろ」
ここでちょうどやってきたバスに乗り込んだ。