◇暴力組織対暴力公務員~第3話~
巻き添えを食いたくない一般人達はそそくさと立ち去って行く。
それは実に賢い判断だ、流れ弾に当たろうが人質に取られようが俺には関係ない、人質の救出など今回の仕事には含まれていない、とろとろしてる奴が悪い。
火事と喧嘩は江戸の華とは言うが、その火花で自分の身を焦がしては元も子もないからな、野次馬は傍観者ではない、止めておいた方が身の為だ。
「広場の皆さん、避難してください!」
駅前交番の警察官達が人払いをしている。
人命を尊重する警察官らしい行動だ。
ハチ公前広場をはじめスクランブル交差点や改札口は封鎖され一般人が消えた。
どこから湧いたかわからない白服のおっさん達、たぶん俺と祭の会話を聞いた白柳組の奴が連絡して集めたのだろう。
警察が人払いをしてくれたお陰で構成員の人数が数え易くなった、そこは感謝する。
白服の人数は全部で8人、俺と祭を等間隔に取り囲んでいる。
装備はニューナンブ、ひと昔前の警察官の装備だ。推進法制定前から国内で製造されていた銃だけに使い勝手が悪い。
今では国内大手の電機メーカーや自動車メーカーがその技術を活かし優れた武器を製造し、古来から銃器を製造している国外メーカーも日本の武器市場に参入している中でそれはお粗末にも程がある。しかしその分安価で手に入れ易く一般家庭にも広く普及している。
全員が時代遅れのニューナンブを好き好んで装備とは、こいつら古いモノ好きか、熟女なんてドンピシャなのではないだろうか。
今は納めているが日本刀も持っていたな、使う気が無いのだろうか。
拳銃が日本刀より勝るとは限らないぞ。
「祭、お前何人倒せる?」
背中越しに祭に囁きかける。
「全員」
言うじゃねえか、それくらい俺だって可能だがそういう話ではない。
「短時間で確実に仕留められる人数だ」
「半分かな」
「よし、そっちは任せた」
白服は俺たちを包囲したし数でも勝るので勝利を確信しているのか余裕の表情だ。
その気持ちはわかる、今の状態ならば俺と祭をハニカム構造に出来るかもしれないからな。
でも俺は自分が劣勢だとは欠片も思わない、こいつら公闘官と闘ったことが無いのだろう、舐めすぎだ。
「一応確認しておくけど、あんた達は白柳組の構成員?」
冷静に一番偉そうなおっさんに聞く。
「だったらどうなんだ?」
「白柳天玄とお話しがしたいんだが、どこにいるか聞きたい」
「……」
シカトかよ、まあいい、無理矢理聞き出してやる。
「ガキ共、自分の立場をわきまえろ。 優位に立っているのは我等だ」
「正常位でも騎乗位でも何でもいい、乱交といこうぜ。 祭!」
「うん!」
背中を合わせたまま180度回転する。
「なんだと!?」
標的としていた前後が瞬時に入れ替わったのだ、驚くのは当然、そしてそこに隙が生まれる。
祭はこっちに銃を構えていた正面の白服に鉛弾をぶちこんだ。
「かぁっ」
祭の放った弾丸は白服の頭部を捉えた。
祭はすかさず突進して隣で呆気に取られていた白服に発砲し、隣に居た白服の背後に周り込み羽交い締めにした。
そして首筋に小太刀をヒタヒタと当てがいながらデザートイーグルを他の白服に向けて威嚇する。
「ちっ、撃てっ、女だ!」
一斉に白服達は包囲を突破した祭に銃口を向ける。
「こっちだ」
祭が小刻みに動き回ってくれたお陰で奴らの視線は俺から逸れていた。
声をあげて目標を絞れなくさせ敵の意識を撹乱させる。
「ちっ、死ねやぁ!」
俺の正面にいた白服のニューナンブが火を吹く。
「ふっ」
それを上体のみ動かし避ける。
白服の銃口は俺の額を捉えていた、迫り来る敵を一撃で瞬時に仕留めたい時は急所を狙う。
だがそれは間違いだ、頭部は的が小さい、こういう場合は胴体を狙うのが定石、焦りが見え見えなんだよ。
しかも得物はリボルバーだ、速射性は無いに等しい。
次の射撃が行われるまでの刹那の時間に正面に居た白服に飛び込み抜刀の際の威力を殺すことなく鋒打ちで手首を砕く。
「かはぁ」
白服は手首を押さえうずくまる。
「……」
無感情で背中を貫いた。
肉を貫通する手応えが伝わってくる、実に生々しい。
「かっ……はぁ……」
まだ息はある、生かしておいてやったんだ、コイツにはまだ働いてもらわないとな。
「おらぁ、立てっ」
片手で襟首を掴み肉に埋まったままの愛刀の柄を空いた手で握りテコの原理を利用して強引に立たせる。
「かはぁぁぁ」
「外道がっ!」
またしても響く銃声。
それを肉の盾で防ぐ。
「……」
「苦しむ仲間を楽にしてやるなんて優しいな」
「なっ!?」
フレンドリーファイアを利用した崇高な防御だ、外道とは失礼だ。
「はぁ!」
「つっ!!」
仲間をあの世に送った白服が冷静さを取り戻す前に刀を引き抜くと柄の元を持ち苦無のように投げつける。
「かはぁっ……」
喉仏の辺りにトンネルを開通させた。
「祭!!」
「ああ!!」
祭も先ほど捕らえた白服を盾にデザートイーグルの引き金を引きまくる。
「ぐぅ……」
「かはっ……」
「くはぁ……」
「現代人は鉄分が不足してるからな! 補給してやるよ!」
その前に出血多量で死ぬがな。
白い服を真っ赤に染めた男達はばたばたと倒れる。
鉄分を補ったために死ぬなんてな、健康志向も考え物か。
「あとは……」
「むぐぅっ……」
「忘れてた。 ありがとな」
「か……は……」
祭は盾にしていた白服の喉笛を小太刀で切開した。
血しぶきが心臓の鼓動とリンクしてぶしゅぶしゅと溢れ地面を赤く塗った。
「残るはあんた1人だ。 ふふ、白柳天玄の居場所、吐いてもらうぞ」
俺はポケットに手を突っ込みながら冷笑して言った。
「うーん! ほら、ちゃきちゃき喋る!」
祭は勝利の優越感に浸るように伸びをしながら言う。
「ぐぅ……。 親父は……、天玄さんは……がはぁっ!」
「なにっ!?」
今まさに白柳天玄の居所を俺に告げようとしていた白服の頭が弾けた。
狙撃か、どこからだ、誰が殺った。
俺と祭は再び身構える。
「どういうことだ……」
俺たちの目の前には信じられないような光景が広がっていた。