◇暴力組織対暴力公務員~第2話~
渋谷駅周辺を傘下にしようなんて幸瑛會はヤクザランドでも作りたいのか、そんな楽しくなさそうな夢の国に誰が行く。パンチパーマのマスコットキャラクターなんて認めない、見つ次第後ろから池に蹴り飛ばしてやる。
「警察も暴力団排除の為に巡回している。 しかし所詮は警察、牽制する事はできても事件を阻止する力は無い。 警察が動くのは至って事後だからな」
警察が制服姿で巡回するのには犯罪抑制の効果がある。私服警官が警邏しても何の意味もないからな。
「俺たちに任せて下さい。 公闘視正の仕事に付き合えるなんていい勉強になります」
「ふっ、華麗に舞ってこい。 掴んだ情報は端末で送れ」
「了解いたしました」
有栖川公闘視正は再び壁にもたれかかると気配を消した。
自分の目を疑う、さっきまで楽しくトークしてたおっさんが消えたように見えなくなったのだから。
さて、狩りの始まりだ。
先ずは端末を使って渋谷駅周辺をシマにしている組織の検索をする。
ヒットしたのは幸瑛會直系二代目白柳組という組織、組長は幸瑛會直参・白柳 天玄、都内の有名私立大学卒業後弱冠23歳にして前組長だった親の跡を継ぎ組長に就任、インテリヤクザってやつか。
表向きは店舗経営などの合法的な商売をしているように装っているが、裏では麻薬取引や高利貸しをして利益を上げているとのこと。
ヤクザと犯罪なんてさくらんぼみたいなものだから調べるまでもなかったか、大なり小なり悪に手も足も染めていることくらい簡単に予想できた。
検索できたのはこれくらいだった、兵隊の人数も根城の場所もアンノウン、4課が仕入れた情報をリークしてくれれば助かるのにそうしてくれないのには意味が有るからだろう。
「パチンコ屋とか風俗店とかクズが溜まりそうな所から探していくぞ。 そこに出入りする白柳組構成員にちょっと話を聞けば巣食う場所くらいわかるだろ」
「澱んだ場所にクズは溜まるってか、オーケイ紅藤、別れて探そう。 そっちのが早く見つかる」
「いい考えだな。 手掛かりを得たら端末で連絡しよう」
「あいよ」
ハチ公広場でエイコーと別れた。
道玄坂の方角を向きスクランブル交差点を眺める、これだけの人の中から白柳組構成員を見つけ出すのは骨折りだ、軽く死に至る病に冒されそうだぜ。
「さてと……」
「動くな!」
「あ?」
いきなり後頭部に固くて冷たいモノをつきつけられた、つめた~いジュースではないな。
とりあえずホールドアップ、逆らう気は無いことをアピールしておこう。
「いきなり何だ、人の頭に不快なモノを当てやがって。 殺すぞ」
逆らう気満々だな俺、ホールドアップの意味がまるで無い。
「公闘官が背後を取られるなんてな」
あえて公闘官に喧嘩売ってきたのかこいつ、救えないバカだ。
「死ななきゃわからんか」
素早くしゃがみ刀の柄を持つと反転し背後のバカを斬りつけた。
「ちっ!」
肉を斬った感触が伝わってこない、避けられたか。
「はっ!」
「待て待て待て!」
振り返り相手の喉元に切っ先を向ける。
「殺し合いに待ったはナシだ、喉から声を出すテクを教えてやろうか?」
「だから待てってユウ!」
「……てめぇ」
窮地に陥りながらも銃口はしっかりと俺の額を捉えているが、俺を本気でくノ一にするつもりはこいつにはないだろう。 この街中でいきなり同級生の俺を襲ったのは乃木 祭、闘校攻撃部所属のクラスメイトだ。
色気ゼロ、可愛いらしさゼロ、淑やかさなんてもはやマイナス、街中で同級生の後頭部にチャカをつきつける奴が淑女なわけがない、ジャントルマンもぶちキレる。
ハーフツインテールで小柄な容姿は相手を油断させるのには最適かもな。しかし中身はそれに反してなかなかのサディスト、腕前もなかなかだ。
「ちょっとしたジョークじゃないかユウ。 電気ケトルじゃあるまいしそんなに直ぐに沸くなよー」
「安心しろ、お前の姿を見てえらく冷めた。 じゃあな、祭くん」
俺に喧嘩を売ってくる奴はどんな奴かと期待したがこんなちんちくりんとは興も醒める。
「ヘイヘイヘイ、ミスターユウ。 それは無いんじゃないの? 楽しいこと、ねぇ、今から楽しいことするんだろ、私にはわかるぜ?」
抱きつくなうっとうしい、色も無いのに色仕掛けか。
おまけに行き交う人々は奇異な光景を横目でチラチラ見てくるしよ。
「その手には乗らん。 コーラでも飲んで膨らませるところを膨らませてから出直すんだな、俺は忙しいんだよ」
「ふーん、そっか。 ならいいや」
「わかってくれたか」
「後ろからこっそりついて行くぜ!」
「その時点でこっそりじゃねえじゃねえか! ホントなんなんだよ、せっかく公闘庁直轄の……」
「公闘庁直轄?」
しまった、口が滑った。
「いや、気にしないでくれ」
「気になる気になる気になる!」
「あーもう、うるせえな、わかったよ! 公闘庁のお偉いさんから仕事をもらった。 今から白柳組をシメる、暇なら手伝え」
「わーい! そんな楽しそうな事を一人で楽しもうなんてユウもとんだムッツリだ」
確かにヤクザを狩ることは俺にとって一種の快楽だが、これはムッツリなのだろうか。
放課後にジャリガールの御守りなんて面倒だが、駄々を捏ねられてここで立ち往生するよりはマシだろう。
「それより周りを見てみろ」
「え?」
全身白で統一された服装のいかついオジサマ達がポン刀を俺たちに向けて取り囲んでいた。胸元には柳の木を象った金バッチがくっついている。
捜す手間が省けた、ハチ公前広場で騒いだ甲斐があった。
「白い装束とは死ぬ準備は出来てるみたいだな、それとも謎の電波でも防いでるのか?」
「……。 崇高な白い柳の下に集った我等がガキの相手とは……」
「喋る暇があったら極楽浄土に往生できるよう自分の罪でも懺悔しろ。 ……もっとも死をもって續罪とするがな。 公務執行妨害・威力脅迫などなど介入法に基づき貴様らを浄化する」
「ついでに晩御飯に鉛弾はいかがすか?」
祭と背中を合わせてオジサマ達と対峙した。
祭は左手に愛用のデザートイーグル、右手に抜き身の小太刀、銃で攻め小太刀で守る戦法を取る祭の攻守は均整が取れていて鉄壁だ、女だからと祭を気にせず闘えるし実に攻め易い。
ハチ公も逃げ出してしまうような緊迫した空気がハチ公前広場を覆った。