◇序章~最終話~
敗軍の将などいつでも惨めなものだ。最後まで抗うのも潔く軍門に下るのも個人の自由だが、無駄なことをする奴は嫌いだ。
「で? お前はどうすんの?」
金属バットを振り回し喚き散らしている坂東、見苦しいったらない。
坂東が動く度に耳や唇につけられた数多のピアスがぶつかり合って音を立てる。
「このっ、このっ、ひひひ人殺しぃぃ!!」
周囲に転がる自分の部下だったモノを怯え切った目で見ながらひたすら喚く。
合法的に殺人が許された存在に対して人殺しとは罵りでもジョークでもなんでもない、読経する僧侶に煩い黙れって言うようなもの。
「それが仕事だ」
「けけけ警察にっ、通報してやるからな!」
ため息が出るほど頭が悪いが、それはちょっと厄介だ。
「足りない頭でよく考えたな」
坂東が警察に逮捕されたら公闘官の俺たちは手を下すことが出来なくなる、警察の公務を妨害する権限は俺たちにはない。
逆に警察官は公闘官相手にその刀を納めろとは言えない、それこそ公務執行妨害だ。
警察に捕まった者は司法の下で裁きを受け、公闘に捕まった者は罪の大小に関わらず処刑される。
警察と公闘は同じ治安維持活動を行う組織だが全く別物である。
犯罪者が警察に助けを求めるなんて可笑しな話だ、死より怖いものは無いってか。
「連絡するならどうぞご勝手に。 警察よりも病院のスイートルームを予約する方が賢明だぞ、死ぬまでお世話になりますってな。 それとも寺か、イカした戒名でも考えてもらうんだな」
「紅藤は優しいな、ははっ。 おい、坂東」
「……」
「呼んでるだろうが、返事しろよ」
「ななな何だ!!」
「お前に残された手段はもう死しかないぜ、愛しい者に連絡しようと携帯に手を触れた瞬間にこの世からおさらばだ。 一般の法では未成年に極刑を与えることは出来ない、が、介入法は相手が未成年でも現行犯なら粛正出来るんだよ。 未成年だからって罪から逃れようとか絶対に許さねえ」
人を殺しておいて無期懲役だと、笑わせる。未成年だからって更生の余地ありで無罪放免、バカバカしい。
「げげげ現行犯って、俺は何もしてねぇだろっ!!」
「そのバットはなんだ? まさか野球してましたなんて言い訳が通るとは思ってないよな?」
「……」
「お前は今現在武装してんだよ、立派な現行犯だ。 芽は小さいうちに踏み潰す」
坂東もいよいよ追い詰められたな。
「来るな……、来るなぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁ!!」
バットを振り回してエイコーを威嚇している坂東。
「今さら風穴が開くことをビビるなんて笑えるぜ」
エイコーは両手で刀を顔の横で持ち地面と水平に構える。
「瞬突っっ!!」
土煙を上げて初速のみで坂東へ詰め寄ると西洋刀を急所へ突き刺し。それを素早く引き抜くと血が噴き出す前にもと居た位置へと戻る。返り血を浴びるなんてダサいことはしなかった。
「っ……」
怯えた顔のまま絶命した坂東は足から力が抜けていき崩れるように倒れた。
「いつ見ても瞬突は速いな、俺でも防げないかもな」
「ありがとよ、紅藤。 でもそう謙遜するな、お前は強い」
状況終了、後は他の役職の人々に任せよう。
端末にある戦果報告というボタンを押すと詳細が各部署に一括送信される。情報部による死体の身元確認や仕事が完璧に遂行されたか調査された後に口座に仕事料が振り込まれる。平和を守って金がもらえるなんて人間冥利に尽きるな。
意外に仕事が早く終わった、小者集団を早く狩れたからと悦に入ってしまうのは俺もまだまだ小者だからだろう。
見たいテレビが始まるまではまだ随分と時間があるな、どうしよう。
「新宿行かね?」
同じく暇を持て余しているようだったエイコーがそんなことを言い出したのだった。