◇序章~第4話~
コンビニに入って適当におにぎりやサンドイッチを見繕う。
店内の客は品定めに悩む様子も見せず買いたいものを俺たちに見せつけるようにしてレジに持っていく。いや、わざわざ見せつけてるんだな、万引きと思われたら堪らないもんな。でも大袈裟なんだよ。
コンビニからでると黄緑色のウィンドブレーカーを着たおっちゃんが旗を持って立っていた。
旗には路上喫煙をやめましょうと書かれている。
条例で罰則を受ける対象である路上歩行喫煙。警察官やボランティアの人々が啓発しても所詮は徒労だな。
「昼間っから堂々と歩きタバコする奴もまだまだいるんですねえ」
おっちゃんに尋ねてみる。
「あなたは……」
「ああ。 二等公闘官・紅藤夕と申します」
「ええ、ええ、その制服でわかりますよ。 綺麗で健全な渋谷区を自治体は目指しているのですが……、やはりなかなか実になりません。 罰金といった罰もあるのですが、マナーやエチケットはなかなか守って頂けないようで」
罰金なんて甘っちょろい。
俺たち公闘官にとっては条例違反やマナー違反は立派な犯罪、決められた事を守れない時点でそいつは犯罪者だ。野放しにしておけば日本が乱れる。問答無用で手を使わないでタバコを吸う方法を教えてやる。
それが超法規的法律『強制武力介入法』なのだからな。
「あまりにも酷いようなら公闘官を派遣してください。 綺麗さっぱり粛正します。 綺麗で健全な渋谷を共に目指しましょう」
おっちゃんの努力に敬意を表し深く一礼すると代々木公園へと向かう。
春の代々木公園は実に素晴らしく咲き誇る桜はとても美しい。
そんな絶景の下で便所座りをする3人の若者が目に入った。
喫煙所でもないその場所でぷかぷかとタバコをふかしながら下劣な声で叫んでいる。
スウェット姿のオールバック・黒金ジャージの金髪・だぼだぼのトレーナーにズボン、なるほど典型的だな。
「紅藤、あのガキ共は」
「ああ」
端末を取り出し画面を開きギャング・ピクシーのメンバーの顔写真一覧を表示し参照する。
「ピクシーの連中だな」
「そうか」
エイコーは腕をぐるぐる回し肩をほぐしながらピクシーのメンバーへと歩みよった。
「なあ、変な所でタバコ吸うな。 火事になったらどうするよ?」
「あぁ? 火事になんてなるわけねぇーだろ、バカが! なんか用ですかー?」
真ん中にいたスウェットが煙をエイコーに吐きかけた。
「そうか。 ところでお前ら何歳だ?」
「20歳でーす、文句ありますかー? ぎゃっはっはぁぁ!!」
その態度は年齢を隠す気は無いと、データには17歳とある。
「……」
エイコーは無言で座る3人を見下している。
「だからなんだって聞いてんだよ! 殺すぞ!?」
スウェットは立ち上がる、猫背のわりには背が高いな。
そしてエイコーの胸ぐらを掴む。
観察能力ゼロだな、腰に西洋刀を帯びた奴が来たら普通は警戒するだろう、なめ過ぎだな。
「おぉ、殺ってやれ、これ使えよ」
黒金ジャージは馬鹿デカい軍用ナイフをスウェットに渡す為に取り出した。
「あのナイフ知ってっか? あの有名な帝日鉄工が作った優れ物、めっちゃ切れ味サイコーだぜ。 だから死ねよ」
帝日製か、良い物持ってるな。
「刃物なんてな、切れればいいんだよ。 解体ショーの始まりだ」
「あぁ? こいつマジうざってぇな。 おい、早くそれよこせよ……」
「……」
黒金ジャージとだぼだぼ服は青ざめて絶句している。
「良かったな、仲間から冥土の土産をいただけて。 そいつで俺じゃなくて閻魔にでも喧嘩を売るといいさ」
「え……?」
スウェットは胴体から真っ二つに切断されていた。あの近距離から抜刀の力と速度だけで大男の身体を両断するのは簡単じゃない、あっ晴れである。
エイコーの胸ぐらを掴む手から力が消えていくとスウェットの顔面をぶん殴り上半身を吹き飛ばした。
どこ製とか関係ないんだよ、エイコーの言う通りだ。身をもって体験できて良かったな。ぜひとも次の機会に活かしてもらいたい。
「さてと。 お前らは未成年者喫煙・渋谷区条例違反・殺人教唆諸々か。 只今地獄への往路切符をプレゼント中だ、喜べ」
「ひっ……」
遺された2人は逃走しようとするがそうはいかない。罪から逃げるなんて不可能なんだよ。
俺は抜刀すると2人の前に立ちはだかった、そんなルーズな服装してたら素早く動けないのは当たり前だ。
「強制武力介入法に基づきお前らを処分する。 一言スイませんと言えば見逃してやろうと思ったがな。 いろいろ吐き過ぎだ」
両手の指を全部落として掌だけにするくらいで済んだのにもったいないことをしたなこいつら。
指がなければタバコを吸うのも容易ではないだろう、どうしてもって言うなら転生後の未来に何でも吸い付ける手に改造してもらえばいい。
「くっ……、へへっ!!」
おいおい抗う気かよ、だぼだぼ服からヒカリモノ出しやがった。
自分よりも遥かに強い者かどうかも見抜けず抵抗するなんてカマキリと一緒だな、やれやれだ。
「オーケイ、そのナイフどう使うんだ? 武士道精神でも見せてくれんの?」
「うううう、うるせぇよ……!! 死ねぇぇぇ!!」
感情的になり思考を失った奴の攻撃ほど分かりやすいものはない。
だぼだぼ服が俺に向けてバカ正直に猪突猛進してくる。
「介錯の出番はなしか」
単純な攻撃を簡単なステップを踏んで避けるとだぼだぼ服の首をすっぱり斬り落とした、もうフードは必要ないなこのトレーナー。
「ひっ……、ひっ……、たす、け、て……!」
黒金ジャージはこんなに暖かな陽気なのに腰を抜かし尻を付いてガタガタと震えている。
「ちと聞きたいんだけど、お前らのリーダーは今どこにいんのよ?」
エイコーは刃に付着した血糊を紙で拭いながら黒金ジャージに聞く。
「はぁ……、し、しら、しらねよっ、はぁ、わから、ねえよっ」
「せっかく拭いたのにー」
「がぁっ!!」
エイコーは西洋刀を逆手に持つと黒金ジャージの腹部に刃先を突き刺し捻る。
「エイコー、抜く時気をつけろよ。 優勝してねえのにレッドアイを浴びるなんてごめんだからな」
「了解了解」
エイコーは返り血が出ないように注意して刀を抜くと空を斬って風圧で血を払った。
「坂東の居場所はしらみ潰しに探すか。 潰すのは明太子だがな」
コンビニ袋からおにぎりを取り出して頬張る、美味いな、運動したからお腹が空いた。
「あとピクシーもな」
「エイコー冴えてるな」
「まあな」
俺達は軽めの昼食を摂りながら公園内を捜索することにした。