◇序章~第3話~
バスで校外にある駅へ行き、在来線に乗車して都心部へと赴こう。
その前に装備やら持ち物やらを確認しておくか。
装備はもちろん腰にある日本刀、無銘だがなかなかの代物だ、貯金を注ぎ込んだだけはある。
有銘な日本刀なんて高校生ごときが買えるほどチープではない、欲しいけど先立つ物が無いのでどうしようもない。
持ち物なんて特にはないか、財布やら携帯やらしか鞄には入っていない。法律書は教室に置いてきた。筋トレに行くわけじゃないんだ、邪魔以外のなにものでもない。
後は敵を知らなくてはな。
「エイコー、ピクシーとやらはどんな奴等なんだ?」
「元締めのヤクザに従うただのヤンキーの集まりだ。 日が暮れてくると街に繰り出して悪さをするらしい。 日中は代々木公園辺りにたむろしてるんだとさ」
「代々木公園て……、そいつら発声練習でもしてんのか?」
「あそこは人が多いからな。 集団で外郎売口上の練習でもやってるように見えるかもな」
ギャングが外郎を売るとは到底思えん、別の中国経由の薬を叩き売ってるなら想像できるがな。
「木を隠すなら森ってことか」
「だな。 あと奴等の罪状は暴行・脅迫・器物破損もろもろ、頑張るねー。 未成年なのをいいことにやりたい放題。 とりあえず群れなきゃなにもできないクズ共だ」
「ふーん、俺たちと同じ16歳ってのも何人かいるみたいだな」
端末に表示された顔写真の横に詳細なデータも載っている。年齢・体格・経歴・家族構成・所属などだ。
これは情報部の奴等が日々の探索の成果をアップしたものだ。さすが情報部、なかなかいい仕事をする。
「そんなの関係ねえ」
エイコーから溢れる闘気と殺気、早くもヤル気満々だ。
「はやんなよ、エイコー、早漏は嫌われるぞ。 順序は大切だ。 行く所に行ってからにしろよ」
「おう」
俺たちはバスに乗って校外に出た。
バスに揺られること数分、特別区中央駅に到着した。
特別区中央駅は特別区にある唯一の駅である。
駅周辺は都心から移転した公官庁や政府の中枢機関も集中しており第二の霞ヶ関と呼ばれている、らしい。
路線は民間が所有し運営しているがこの駅は国交省が独自に管理している国営の施設だ。
警備は厳重で改札も二重な上に公務員専用パスがないと入ることも出ることもできない。
駅構内には政府や都の職員らしきエリート臭がぷんぷんする人間で溢れている。一般人なんてごく僅かしか見当たらない、許可証があれば一般人でも入ることも可能だが、よくやるよと思う。
警察官に監視されながら改札の磁気読取部分にICチップ内蔵の闘校生徒手帳をかざす。
そんなに俺を凝視するなよ、尻の穴がむず痒くなるだろうが。業務を忠実に遂行してるのは理解するが、一応俺たちも公務員だ、これから仕事に行くだけなのにそんなに警戒するなよ。
「紅藤、お前めっちゃ目をつけられてるな」
「人のこと言えないだろ」
確かに俺の見た目は長髪ではないが髪もそこそこ長いしワックスでセットしていて品行方正には見えない。しかし、ホスト崩れ風のナルシスト風のエイコーに言われるのは心外だ。
「胸クソ悪いぜ、行くぞエイコー」
「はっはっは、警官に見られてたくらいで機嫌損ねるなよ、紅藤」
俺の肩に平手打ちをかますエイコー。
「お前の言葉が腹立つんだよ。 鼻でしか飯を食えないようにしてやろうか」
「怒るなよ紅藤。 短気は損気だぜ。 はっはっは」
エイコーに肩を拘束されたままホームに向かい東京駅経由新宿駅行きの快速に乗った。
昼下がりに上り電車を利用する者はあまりおらず、悠々と座席に腰を下ろせた。
「あ~もしもしぃ~? あたしだけどぉ~さっき電車に乗ったとこぉ~。 今どこにいんの~?」
入口付近からギャルっぽい女が汚い声で電話をしていた。
周りの乗客もその声に相当イライラしている、気持ちはよくわかるぜ。
しょうがねえな。
「おい、バカ女。 頭悪そうなでっけー声で喋るな、迷惑だ」
座席からそいつを睨み注意した。
「もしもし~? なんかうぜー奴に絡まれたんですけど~」
「喋んなって言ったぞ?」
汚れた血を吸うのに慣れた愛刀にそっと触れる。
「なんなの?」
「ま、まずいよ……、公闘官だよ、アイツ」
連れらしい女がバカ女の口を手で覆った。
賢明な判断だ。
「公闘官? ソレなにぃ~」
「ちょっと黙って! すいませんでした!」
連れの女はバカ女の盛られた髪を掴むと強引に頭を下げさせた。
「もういいから、電車の中は静かにな」
2人はおずおずと隣の車両に移っていった。
「ぬるくね?」
西洋刀を撫でていたエイコーが言う。
エイコーの得物は血が吸いたくてたまらないようだ。
さっき自分で短気は損気って仰ってたじゃねえか。
「気持ちはわかるがな、普通の電車をブラッディエクスプレスなんかにしたら嫌な気分になるだろ? 血の臭いは慣れてないとキツイからな。 異臭がするのは金曜日の終電くらいにしとこうぜ」
「ま、いいや」
エイコーは頭の後ろで手を組むと車内広告を閲覧する。
乗客もバカ女の声が聞こえなくなってホッとしているようだった。
新宿駅で乗り換え原宿で下車し飯屋を求めてぶらつく。
通行人は俺たちの姿を見るとどこか挙動が不自然になる気がする。悪いことをしていなくてもそうなるのは仕方ないか、闘校の制服にはそういう効果がある。
「紅藤、メシはファミレスでいいか?」
「いや、代々木公園に行くならコンビニで適当に買ってそこで食おう」
「いーねぇ! ピクニック!」
餓鬼のようにはしゃぐエイコーだった。
竹下通りは若者で溢れていた。買い物袋を引っ提げてみんな笑顔を溢している。
たまには服でも見にこようか、夏服が欲しい。
「紅藤、今度服でも見に来ようぜ」
「ああ、いいぜ」
休みの日が待ち遠しいな、ちょうど金も入るし。
楽しい休暇を思い浮かべながらコンビニに入った。